旅立ちと聖剣
紅いカーペットが引かれた玉座の間。その左右には、沢山の貴族が整列していた。
玉座に座っているのは、この国を統治している王様でその隣に控えているのは宰相だ。
普通の人なら固まってしまうような重苦しい雰囲気に満ち溢れているが、公爵としてきっちり作法を学ばされてる身としては、動揺も緊張も表面には出ることはない。怯むことなく進んでゆく二人を貴族たちは好奇の目でみた。
リベリアが身に纏っているのは、ワイバーンを倒した時のドレスだ。ドレスについている外套を翻し、凛とした佇まいで歩む。アルトリシアが来ているのは自国である神聖エムニア王国の青を強調した軍服だ。
皇帝が王族特有の青色の瞳で二人を見た。それに視線を合わせ、アルトリシアは左胸を叩き、リベリアは裾を持ち上げ一礼する。二人同時に膝を折り、跪いた。
両者の外套が床に流れる。
「それでは、始めさせていただきます」
一歩、宰相が前に出る。丸まった羊皮紙を受け取り、ゆっくりと広げてゆく。
「公爵クラウソリス。その次期当主アルトリシア殿。令嬢リベリア殿の功績を発表する」
膝をついたままもう一度頭を下げる。
周りの貴族はどんな功績が授与されるのかと待ち遠しそうにしている。
「まず、アルトリシア殿。
ワイバーン撃退の功績をもって、そなたを王国一級騎士に昇格させる」
あまりの破格の功績だったのか、横にいるアルトリシアが頭を下げつつも目を開いたのがわかった。
騎士を育成する軍学校の騎士専攻クラスから突然王国直属の騎士団に編入。更に、低級から始めるところを副騎士団長の一つ下の階級にまで繰り上げされたのだ。
まあ、驚いているのは周りの貴族の当の本人だけであって。
クラウソリス家としては当然というか当たり前で、なんでもっと上がんないのかと疑問に持っているため真顔だ。
「並びにリベリア殿。
アルトリシア殿と同じく、ワイバーン撃退の功績により、そなたを王国魔導士に加える」
ただの公爵令嬢が、名誉ある王宮魔導士の末席に入ると。
(いや、嬉しいけど私旅に出たいん・・・・・・)
「更に、王国軍務国防官フロム殿の愛弟子ということもあり、王国秘術の一端を提供する」
瞬間、会場がざわめいた。というか、一番私が驚いた。フロム先生の肩書が凄い。
で、かつ、王国秘術ということは、王国に伝わる禁断の魔術ということに繋がり、かつ王宮魔導士ですら安易には見ることすらできない。
なのに、その一端を公爵令嬢だけの肩書しか持たないどこぞの馬の骨に与えるとは。
(マジか・・・・・・これは)
宰相がパンと手を打つ。
すると、礼服を着た人々が、アルトリシアに騎士一級のバッジと、魔素を蓄えた魔石のついたミスリルの剣を手渡す。
更に、私の前には王国魔導士のバッジと、なんかヤバそうな分厚い本。
(こ、これが世に聞く魔導書・・・・・・‼)
魔導書とは、見るだけで魔術が習得できる本である。その存在は希少とされており、作るにはいろいろな制約がかかっている禁忌の本である。
「それでは、授与式を終了する」
そういって、宰相と皇帝は玉座の間を後にする。
その前にも何か言っていたような気がするが、他のことで頭がいっぱいで聞けていなかった。
***
宴席が授与式が終わった後に開かれるのはエムニアでは当たり前だ。
だが、そんなものにはちょこっと顔を出し、クラウソリス家一団は帰路にさっさとついていた。
そして、家の王広間にて。
両親を前に、私たちは二振りの剣を渡されていた。
「これはだな、うちの名が無い時に騎士になって、お前たちと同じようにワイバーンを撃退したときに公爵の家名と共に渡されたものなんだが」
アルトリシアがするりと剣を抜くと、銀ではなく黄金に輝く宝剣の姿が。
両刃の剣の先は鋭く滑らかで、柄の近くの刀身の部分は紅い装飾が施されている。
「名を『双剣龍姫』という」
「それを私たちに渡して何がしたいんですか?」
かっこよく決めてたとこ悪いけど、何がしたいかわからないんだ。
「ふふ。お父さんからのプレゼント。それ聖剣だから。
で、二振りだから一本ずつわけなさい」
お母さまが頬を手をあてて、通訳をしてくれた。
「あっ、そうそう。リベリア。
お前の旅路のことなんだが、フロム先生と私で説得というかお話ししといたから、いけるぞ」
「えっ、本当ですか?」
まさかの父親が父親らしいことをしてくれた新事実。
感謝したいが、お前たちが変な仕事してなければ家族円満だったとは言わないでおく。
「ありがとうございます。母上、父上。
この私リベリア・クラウソリス、このクラウソリスの家名に恥じぬ者になって帰ってきます」
***
自分の荷物を確認する。
お金は冒険者登録して依頼クリアすれば良いし、当面の間は貯金切り崩しでなんとかなる。
服は丈夫な騎士甲冑付きドレスのバトルアーマーで平気で、万が一の場合は買えばいい。
毛布や鍋などの生活必需品を、収納式魔道具『バグパック』につめる。で、食べ物はリオンの収納できる影の中に。収納できる数が少ないらしいから食べ物になった。影の中だと腐らないらしいし。
問題の武器。
腰に聖剣『双剣龍姫』を下げて、腿には革ベルトで短刀を。ドレスの裾にも一応仕込んである。
防具は甲冑があるから大丈夫で、魔術もあるから多分平気。というか、第一に使いこなせない。
「よしッ、では」
確認を終え、中庭に出る。
そこでは、皆が待っていてくれた。
「行ってまいります」
一礼して、手を振って。
クラウソリス家を後にした。
エムニアから出ました!
これから、進んでいきたいと思います‼




