雪の降る日
えっと、知ってる方はお久しぶりです。知らない方は初めまして。
結ヶ咲蛍です。
恋愛系だと思いきや、バトルあります。で、恋愛も友情も詰め込みます。
冬のある日。皆が『冬祭り』の用意で忙しい中、クラウソリス家だけは、恐ろしい程静けさが立ち込めていた。
こんこんと窓の外に降り積もる雪は、中庭を白い幻想的な景色に塗り替えていた。
クラウソリス家の一室にて。
暖炉の火が燃え盛る部屋で一人の少年の荒い息が響き渡る。熱に魘されているその声は、苦痛に溢れている。
外は寒いが、室内は暖かい。それなのに、少年———アルトリシアは唇を青白く変色させがちがちと鳴らしていた。
「アルト・・・・・・‼」
そこに肩を揺らしながら入ってきたのは、公爵クラウソリスの御令嬢、リベリアだった。アルトの姉だ。
彼女はアルトの傍にいた自らの血が繋がった両親を一目見て、僅かに顔を顰める。
だが、アルトの下に一目散に近寄った。
「リベリア・・・・・・お前」
「私の、唯一の、家族、ですから」
両親から目を逸らしアルトリシアに視線を落としたリベリアは、驚いたように口を震わせた。頬はこけ茶色に変わり、唇は鬱血をしたかのように青紫色だ。手の先は冷たく、今にも命の灯が消えそうだった。
リベリアが覗き込むと、アルトリシアの瞳がうっすらと開いた。
「姉さん・・・・・・?」
「アルトッ‼」
「姉さん、暗い」
リベリアを見ていたと思ったその瞳は、焦点はあっておらず窓の方角に視線がいっていた。
「アルト・・・・・・?」
「姉さん、どこにいるの?」
手を握っているのに。貴方の視界に入っているのに。アルトリシアは私を映していない。
リベリアは十二歳。アルトリシアは十一歳。姉として出来ることは何もない。
「誰か・・・・・・私の弟を、助けて」
絞り出されるように吐き出たその声は、誰の耳にも届かず空中に霧散するかと思われた。だが、返答があった。
『助けてやろうか。もちろん条件付きだが』
リベリアの脳内に声が響く。リベリアは幻聴を聞いたのかと思われたが、その声は返答を待っているかのようにも思われた。驚きに息を呑んだ彼女は、決意を固めたように唇を噛みしめる。
(私の弟を、お助けください)
藁にも縋る思いで、その声に話しかけるように声を掛ける。そして、その声は幻聴などではなく、しっかりとした答えを返す。
『じゃあ、契約といこう。クラウソリスのお嬢さん。お前の弟を治す代わりに・・・・・・そうだな、お前は俺のモノ。死んでも尚それは続くぞ。それでも良いか?』
なんとなく危ない感じだけど・・・・・・
リベリアはぐっ、と拳を握ると、自分の脳裏に響くその声に「お願いします」と呟いた。
『じゃあ、ポケットの中に入れとく』
リベリアの片方のポケットが少し重みを増す。僅かに出っ張ったポケットの中に指を入れ、中を探る。すると、出てきたのは白い粉末の入った小瓶だった。
「メリアッ、水を」
私のお付きの侍女を呼ぶとリベリアの手の中にある小瓶に目を落とし、気付いたかのように駆け出した。
一分足らずで水を持ってきたメリアはとても良いお付きだと思う。
その粉末を溶かし、アルトリシアに飲ませる。
すると、徐々に顔色が良くなっていく。安心したように、リベリアは溜息をついた。
これで峠は越えたと思い、リベリアは部屋を後にしようとドアの方に歩み寄る。
「リベリア・・・・・・待ちなさいッ」
だが、高い声がリベリアの体の動きを止めさせた。軽く溜息をつくと、彼女は姿勢を母の方へ向けた。
「何ですか、お母さま」
私の声は硬い。眉根を寄せて母を見ると、彼女は傷ついた顔をした。
「何を、したの・・・・・・」
「別に何も?」
母の能力は希少性の高い『未来視』。絶対に外れることはなく、今まで外れたところを私も見たことはなかった。おそらくその能力ではアルトリシアは死んだのだろう。彼女は自分のその能力が外れたことが無い為、自分で抗おうとはしない性格だった。
死ぬとわかったら、そのまま死なせるような人だ。
人間らしさを失ったその姿勢は、私をイラつかせる。
「私の知人がよく効く薬をくれまして。それがたまたま入っていただけです」
口角だけで笑みをつくる。元々表情がない、といわれていた私の表情筋は上手く活動をしてくれなかった。
ごきげんよう、と挨拶をして、リベリアは部屋を出た。




