異形
冒険活劇が書いてみたくなった。
不定期更新になると思います。
樹々が鬱蒼と茂り下草の生えたる
昼なお暗い峠へと通じる細く曲がりくねった山道を
独りの壺装束の女性が歩いている。
奇っ怪ではある。
斯様なる女人が供の独りも付けずに
山道を苦にもせずに歩いているのだ。
時は、乱世と呼ばれて久しい。
人という名の魑魅魍魎が跋扈する時代でもある。
強きもの。猛々しきもの。怜悧狡猾なるもの。
人という魔物が世に巣食う。
そんな時代の荒れ果てたる山の道である。
歩調は一定であり、疲れたる様子すらみせない。
そんな女の様子を窺う複数の眼があった。
「奇怪だ。」
歩く娘を追う彼らは餓えてはいた。
しかし、野山に巣食う野生の獣たちがそうであるように
獲物を慎重に狙う男たちの群れでもあった。
この男たちの群れに、最近加わったばかりの者が声を発する。
「か弱そうな女の独り旅じゃ。何故すぐ襲わぬ?」
頭目と思わしき髭面の男は
この男に「こちらへ来い」と手招きを送る。
近づいてきた男を頭目は、その大きな手で張り倒す。
「馬鹿者めが」
手下を張り倒した頭はそう呟く。
「荒れた山道を苦もなく歩く、か弱き女子などおるものか。」
しかし、このままでも埒は明かぬ。
物見の者が帰ってきた。追捕の兵が潜んでいる様子はない。とのことだった。
つまり、あの女人は仕掛けられた餌ではない。と云うことだ。
しかし只人とも思われぬ。
(仕掛けてみるか?)頭目としては迷ってはいた。
者どもに号令を掛け、獣道を通り女の先回りを指示する。
細い山の街道にへと出ると、手下たちに得物を構えさせ女を待ち伏せる。
やがて程なく、女はやって来た。
近づいて見れば女は、若い娘であるようだった。
「娘よ。何処から参った?」
頭目は大音声で威嚇するように問うた。
娘は無言で北を指差し示す。
「ならば、うぬは人か?魔か?それとも何処の山の神か?」
「………」娘は黙して語らない。
(くちが訊けぬのか?)
頭目がそう思った時の事だった。
「……自分でも、わかりませぬ。」
美しい鈴を鳴らすような声だった。
自分でもわからぬとは、こやつ、少し頭がおかしいのではあるまいか?
狂したる娘を厄介払いよ。と山に来させたか。。。それはそれで哀れな。
頭目に僅かな同情心が湧く。
「とりあえず、その市女笠を取ってみよ。」
哀れ。とは思うが、我らも食わねば餓えて死ぬ。
売り物になるなら、この娘も何処へかと売らざる得まい。
娘は頭目の言葉に従い、ゆっくりとかぶりの市女笠を外す。
そこから顕たのは。。。。
黄金に輝く金色の髪。青く碧く透き通ったような瞳を持つ。
異形の娘であった。
これは某所で言ってた
「玉ちゃん暴れ旅編」のさわりを書いてみましたものです。