二 閑話
取引が複雑なのは、何人も関わるやつがいるからだ。
商品を地下室に届けるやつ。優良品と良品に分けるやつ。地下室から家畜を連れてくるやつ。そいつから家畜を受け取って店に並べるやつ。
他にも雑用を任されるやつは数多く、俺の仕事は何事もなければ何もせず突っ立ってるだけの見張り。
左の地下室から出てくるのはいつも決まって一人。安っぽい木の杖を意味ありげに持った男だけだ。
地下室は遠く離れたところまで通じ、連れて行かれた優良品は反対側の入り口から出されて商船に乗る。その後は商品として売られるんだろう。
商品を調達するやつは十日に一度のペースで奴隷どもを連れてくる。それが大人数だと人目につきやすいからと、三日に一度になった。見張る役割からすれば迷惑なことこの上ない。
地下室に入りたがるやつは尽きない。なのに人が何人も消えてると噂になったせいで、五人ずつ連れ歩く羽目になる。
ゆっくり休日を楽しめる日は当分来ないだろう。
ある時、商談が延期になるトラブルが起きた。
商品の輸送役が妙な気配に気づいて引き返し、商品に解散するよう告げる。
「ここは目的の場所じゃないだろ? なんで俺たちをこんなところに捨てるんだ?」
「連中に勘づかれました。今日の商談は中止です」
それ以上は何を聞かれても答えず、商人の顔も淡々としたものだった。
俺は次の日の夜に砂の服を着て布で顔を隠した。
そして砂の者に声をかけると、そいつは仲間だと思って油断する。
「あいつは見かけたか?」
「いや。今日は中止にしたのかもしれねぇ」
親切に中止を教えてやると、
「じゃあ鷹に知らせたほうがいいな」
そう言ってマヌケな後ろを見せたから、そいつを始末した。
厄介な集団もちょっと油断させればこの通り。
足元に転がった死体を見てがっかりした。
こんな弱いやつのせいで商売が続けられなくなりそうなんて、拍子抜けだ。
二人目を見つけて声をかける。
「見つけたぞ。むこうの通りで、人数は六人。うち五人は犠牲者だろう」
「そうか。今日こそ本拠を見つけ出すぞ」
多分、地下室のことだろう。それとも地下室が続く先のことか。
「俺はむこうのやつを呼んでくる。お前は見張っててくれ」
どっかに行こうとしたその足を切りつけて、倒れ込んだその胸を背のほうから刺した。
肺に残った息が血と共に吐き出され、泡の含まれるそれは砂の薄く積もった石の上に染み込む。
少しの間だけ苦しそうにもがいて動かなくなるのを見て、次からはちゃんと一撃で済ませてやろう、と決めた。
三人目を始末した時、ふと考えた。こいつらは何人いる?
「おい! 連絡が取れねぇやつがいる! 鷹に知らせよう!」
また一人駆けつけて、足元に転がる死体に眉をひそめた。
「俺が来たときには手遅れだった。ちくしょう、なんだっていうんだ」
それらしいことを言ったら、簡単に信じた。
「任務の続行は厳しいかもしれねぇな」
「ああ。鷹に報告しよう」
後ろを見せたから首を刺した。
目の前の男が一瞬信じられないと言いたげな顔をして、そのまま倒れ込んだ。
念のために胸を刺してみたが、すでに死んでたらしい。反応はなかった。
五人目を見つけた時、相手は俺の姿を見て訝しんだ。自分の姿を見ると血だらけだ。
「お前、その血はなんだ?」
「ああ。一太刀浴びせることができたんだが、逃げられちまった」
「バカ野郎! 手は出すなと言われただろう!」
肩をすくめると、五人目は額に手を当ててため息をついた。
「これで勘づかれたな。余計なことをしやがって――」
男の言葉は続かなかった。首を切り裂いたからだ。
これだけやったら充分だ。次のことを考えよう。
新しい死体をそのままにして、巣に帰った。




