第零章 PLOLOGUE
いま、全てが燃えている。
「――さん家の方から来ているぞ!」
猛り狂う紅蓮の炎の中を蜘蛛の子を散らすかのように逃げ惑う人々が口々に叫びを上げている。
「こ、こっちに来る!」
「きゃあああああ」
「今、助けるぞ! こいつ……がはっ」
焔の朱か、血糊の朱か。
華やかに世界を彩る朱は美しい。
「きょ、協会はまだなのか!?」
「ま、まだです。村長……うっ!?」
助けを求める声は無情にも闇によって呑みこまれてしまう。
「お、お父さ……」
「こいつぅぅぅ! ……ぐふっ!」
立ち向かう行為はこの相手に対しては無謀としか言えず、ただ空しく命の華を散らすだけであった。
「遅くなりました! 協会の者です!」
そこに一つの光明が。
「やっ、と……来て、くれましたか……」
現れた光に力ない声の中に少しの安堵が混じる。しかし、その瞳はすぐに無を映し出してしまう。
「抑え込みます」
その光は目前の死に、そしてそれ以前に多くの命が消え去ってしまったことに悔しさを滲ませながらも自らやるべきことを実行に移す。
消え去った者たちに対して出来る報いはただそれだけなのだ。
「さぁ、いきますよ……」
決意の言葉と共に闇に差しこむ光が解き放たれた。
いま、全てが輝いている。