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愛情の記憶  作者: ぐれこ
再会
9/60

誘拐

1日ぶりに学校に行くと、やたら皆に心配された。なんだかんだで高1の時から無欠席だったので、私が休むのは珍しかったらしい。


「リカコ大丈夫!?昨日なんで休んだの?」

「あはは…ちょっと風邪。心配しすぎ。」


特に理由は言わず、笑って誤魔化す。

高校に入ってから、自分が魔族対策チームのリーダーの娘だとは言わないようにしている。中学の時その肩書きのせいで散々な目にあったから。


私の高校生活は意外と充実している。男女問わず友達も多いし、サクちゃんやキユウさんには絶対言えないが男子から告白されることも多い。それでも、彼氏は作ったことがない。告白を断る度にイオンを引きずっていることを自覚して嫌になる。




皆の声に適当に返して学校を出る。友達が多いっていうのは嬉しいけど時々キツいよなあ、と内心思う。

ぼんやりしながら歩いていると、突然目の前に見覚えのある人物が現れた。


「リーカーコ」


よく通る軽い声。ミズキだった。

一気に一昨日のことが頭の中に蘇り、走って逃げようとする私の手を掴む。そのまま路地裏に引きずりこまれた。


「離してよ変態!」

「変態ってひどくない?」


頬を膨らませるミズキの目が金色に光り始め、急いで目を伏せる。見たら終わりだ。

目を伏せることに必死になっていた私の手が急に引き寄せられ、軽く抱きしめられた。ミズキからする花みたいな甘ったるい匂いが鼻をつく。


「見ないなら力技で平気?」

「…どういう意味ですか」

「血吸って気絶させる。それか大人しく俺の目見て気絶するかどっちがいい?」


どっちにしろ気絶させる気か、と思い離れようとするが抱きしめる力が強すぎる。やや苦しい。

それでも、また血を吸われるのは嫌だった。あの時の恐怖が頭をよぎる。


「気絶させて…どうする気ですか。」

「大丈夫、悪いようにはしないから。ただ俺らの上の人が連れてきてって言うから。」

「上の人?」


つい気になって聞く。ミズキは私が興味を持ったことを意外に思ったのか少し黙り、それからまた口を開いた。


「レオナ様」

「えっ!」


レオナの名前に驚いてつい顔を上げてしまう。ミズキの金色の目と目が合った。その途端、足の力がなくなり倒れそうになる。


「レオナ様に興味あるの?」

「あるっていうか…、それって…一昨日一緒にいた二人もその人についてるんですか?」

「うん」


瞼が重い。まずい、と思いながらも気になって話してしまう。


「リカコ興味あるなら丁度いいじゃん。来てよ。」


耳元で話すミズキの声がなんだか遠い。体が重く、沈んでいく。花のような匂いが、頭の奥を侵食していくような奇妙な感覚。

目を閉じると、私はあっさり意識を手放した。







目を覚ますと、見知らぬ黒い天井が広がっていた。最初はまだ頭がぼんやりしていたものの、ミズキに捕まったことを思い出して焦りながら起き上がる。

やたら広い部屋だった。私が寝ているの以外にもベッドが2つあり、部屋の真ん中にテーブルとソファがある。家具以外の私物はほとんどなく、殺風景な部屋だった。


「起きたの?」


声がしてソファの方を見ると、一昨日も会ったダイゴがいた。立ち上がると早足で私に歩み寄る。ベッドの隅に体を寄せて、少しでも距離を置きながらダイゴを睨む。


「ここ…どこなんですか。」

「レオナ様の屋敷。…てか俺らの家みたいな所。」


その言葉でレオナの事を思い出す。


「あのっ、レオナって三年前の本部壊した事件の主犯なんですか!?」

「…何今更…。そうだよ。」

「その時…誰か魔族にしました?」

「は?」


熱くなっている私を馬鹿にするような目で見る。その態度を見てなんとなく諦めがついた。

息をついてベッドに転がる。


「そうですか…。」


やはりイオンはいないのか。まだこの間の人にも聞いてみないと分からないけれど。

その時、ダイゴが何かに気づいたように顔を上げた。


「呼ばれた。行こうか。」

「え?」

「レオナ様のところ。」





ダイゴに連れてこられた広間も、やたら広かった。廊下を歩いた時も思ったが、レオナと三人が住むのにはこの屋敷は広すぎる。

呼んだ、というわりにはレオナの方が着くのが遅い。広間にはミズキも既にいた。


「リカコおはよう。」


笑って言うミズキとは対称的に私の顔は暗い。これからどうなるのか、不安しかなかった。


「もう来てたのね。」


女の声がして広間の端にある階段の方を見ると、黒いドレスの女性が階段を降りてきていた。手足が細くて色が白く、どこか妖艶な雰囲気が漂う人だった。

この人が、レオナ…。


レオナを凝視していると、レオナの後ろからもう一人降りて来ていることに気づいた。


その姿を見て、私は思わず固まった。



「…イオン…?」



小声で呟いてしまう。

イオンだ。顔も、体型もそのままイオンだ。


唖然としている私には目も向けず、シャツのボタンを留めている。


「ハイリ、早く。」

「…はい。」


そこでようやく顔を上げた。目の色が吸い込まれそうな深い青色で、見入ってしまう。

確かに姿はイオンだが、イオンとはどこか雰囲気が違っていた。感情のない、冷たい雰囲気。近くに来てみると、髪も少し巻いているのがわかった。

私と目が合っているはずなのに、その瞳に私は映っていない気がした。それが余計に怖くて、つい私の方から目を逸らす。

ハイリはレオナから離れて、ミズキの隣に歩いてきた。


「…今日はどうだった?」

「……いつもより、長かった。」


ミズキに聞かれてハイリが小さな声で答える。何の事か全く分からなかったが私が会話に割り込むことはできない。


レオナは私に近づいて顔を覗き込んだ。


「あなたがリカコ?三年前に見かけてるかしら。」


三年前、と言われてドキリとする。確かにあの時会っていてもおかしくない。イオンがいなくなったショックであの時の事は感覚としてしか思い出せないが。


「意外と可愛い顔してるじゃない。何歳?」

「17…です」

「あら、意外と若い。」


レオナの冷たい手が私の頬に触れる。それから、その手が私の首筋へと下りていく。


「ミズキに噛まれたんですって?」

「…はい」

「まだ傷残ってるわね。」


ミズキに噛まれた辺りを撫でられて、くすぐったさに首をすくませる。


「…なんで私をここに連れてきたんですか?」

「だって人質に取ると便利じゃない。」

「……人質っ?」


聞き慣れない響きに顔をしかめて見せるが、レオナは動じずニッコリと笑った。


「あなたを人質にとって街のいくつかを魔族の物にしたいの。エサも欲しいし。」

「何それ…」


横暴な考えにまた固まってしまう。どうしてそう身勝手なことを平気で口に出来るんだ。


「魔族はね、人間を支配したいの。それくらいは知ってるでしょう?だったらまず魔族側の陣地を増やすことと、邪魔な対策チームをなくすことが第一なの。分かる?」

「…そういうことよく平気な顔で私の前で言えますね…」


つい苛立ちを露わにしてしまうとレオナは楽しそうに笑った。


「大丈夫。向こうが言うこと聞いてくれたらあなたも無事に帰してあげるから。それまではここで大人しくしてて。」

「私が無事でもチームは無事じゃないかもしれないじゃないですかっ」

「そりゃそうでしょう。」


余裕のレオナに怒りが込み上げ殴りそうになると、手を後ろから掴まれた。振り向くとすぐ後ろにハイリがいて心臓が跳ねそうになる。

ハイリは何も言ってこなかったが、私の手を離そうとしなかった。手の感触も忘れもしないイオンのものなのに、全く知らない他人の手に触れているような気がした。

その自分の手を見て、手首に見慣れない腕輪がついていることに気づいた。


「…何ですか、これ…」

「ああ、それつけてるとこの屋敷から出られないようになってるの。」


レオナに平然と言われて「はい!?」とひっくり返った声が出てしまった。腕輪を外そうとしてみるがどんなに力をこめても全く外れない。


「当然でしょう。逃げられたら困るもの。」


もしかしてこれはとてもマズい状況なのでは…いや、ミズキに会った時点でマズいとは思っていたが。

魔族の屋敷に人間の私一人。何をされるか分かったものではない。


「じゃあ私は対策チームに交渉の連絡しないと行けないからあんた達は部屋戻ってていいわよ。…ハイリは、また後でね。」

「…はい。」


ハイリに目配せして、レオナは階段の方に帰っていく。文句を言い足りない私は追いかけたかったが、「まあまあ」とミズキに宥めるように肩を叩かれる。


「しばらくは殺されるわけじゃあるまいし、ゆっくりしてろって。」


のんびりとしたその調子にすら腹が立って、空いている方の手でミズキを殴った。


「痛っ」

「そもそも誘拐したのもあんたでしょ!チームがそう簡単に降伏するわけないし、どうするのよ三年前みたいなことになったら!今度こそサクちゃんもキユウさんも死んじゃうかもしれないじゃない!どう責任とってくれるのよ、ただでさえあの時はイ…」


イオン、と言いかけて後ろで私の片手を掴んでいるハイリのことを思い出す。

おそるおそる振り返ると、ハイリは私の手をじっと見つめていた。


「……あの…いつまで掴んで…るん…ですか…?」


姿はイオンなのに雰囲気が違いすぎて話しかけづらい。

ハイリはぼんやりと顔を上げると、私を見て手を離した。

誰も味方がいないこの状況に急に寂しさが込み上げて泣き出しそうになる。涙を堪えながら俯くとダイゴに髪をくしゃくしゃと撫でられた。


「部屋戻ろう。寒い。」


慰めるでもなく罵るわけでもないその態度が一番傷つかずに済んだ。

とにかく今はどうしようもできない。「はい」と小さく答えて目をこすり、歩き出した。


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