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愛情の記憶  作者: ぐれこ
魔族
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魔族との遭遇

裏口から外に出ると、そこは真っ暗だった。建物から漏れる灯りでわずかに足元を確認できるが、歩くのも怖い。それでもミズキに手を引かれるがままに私の足は進む。

建物の壁を背にして私が立ち、ミズキが私に向き合う。金色の目が夜の闇の中で映えていた。

明らかに人間の使える技じゃないし、目の色も普通の人間ではそうはならない。


「……魔族、なんですか?」


動けないが声は出るようで、震える声で聞く。

怯えていることをバレないようにしようとしたが、こんな気の弱い声ではバレバレだ。

ミズキは面白そうにクスクスと笑うと私との距離を詰め、肩を叩いた。


「怯えすぎ。対策チームのリーダーの娘なんでしょ?そんなに怖い?」


静かな場所で聞くと、ミズキはよく通る声をしていた。その声が頭に響くようで余計に恐怖を煽られる。


「……あなたが、この辺で被害出してた魔族なんですか?」

「多分俺のことだね。でもほとんど普通の 食事 だよ?吸い殺したのなんて3、4回しかないし、そんなに目つけなくても良くない?」


軽い口調は元からなのか真剣味のない声で言う。近距離で話すミズキの口の中に牙が見えて内心益々怯えてしまう。

怖い…。


「最初見た時から美味しそうだったんだよね。17歳の血なんて久々だなあ。」


目を細めて笑いながらミズキが私のシャツの第一、第二ボタンを外す。ミズキの手が首元に触れ、ビクッと体が震えた。


「…触らないで…」


声だけで抗う私の体を壁に押し付けると、少し背を屈めて首筋に唇を滑りこませる。

首筋に舌が這わされる感覚にくすぐったさと嫌悪感を覚えて必死でミズキから逃れようとするが私の体はまだ動かない。


不意にミズキの口が少し開くと、牙が私の首筋に食い込んだ。


「いっ……」


僅かな痛みの後、体が急に自由になったかと思うと力が抜ける。足元から力が抜けていき、頭がボーッとする。血を啜る音が耳元でして全身に寒気が走った。


「つっ……嫌……いや!」


頭の中のモヤを振り払うように叫んだ時、裏口の扉が開いた。


「リカコ!」


サクちゃんの声に顔を上げる。サクちゃんがミズキに向かって銃を撃ったと同時にミズキが私から離れる。銃弾は私とミズキの間を通り、奥の別の壁に当たった。

震える手で自分の首筋に触れると、指先に血が付いた。サクちゃんが私に駆け寄ってくる。


「リカコ、大丈夫か!?」

「あ……あんまり大丈夫じゃ…ない…」


私の指先と首筋に付いた血を見てサクちゃんが顔をしかめる。

私の正面にいるミズキに向き直ると銃を構えた。


「それ魔族用の銃?」

「ああ。」

「…じゃあ当たったら治りにくいやつだね。面倒だなあ。」


そう言いながらもミズキは余裕の表情で口元に付いた私の血を舐めた。


「超美味しい。やっぱり若い血っていいね。」

「お前っ…」


怒りに駆られてサクちゃんが再び銃を撃つ。


が、その瞬間ミズキの前に黒い影が現れた。ミズキ自身も驚いたように目を丸くする中、その人物があっさり撃たれる。


「……え」


一般人撃っちゃったんじゃないの、と思いながら私が駆け寄る。ミズキの前に現れて撃たれたその人は黒いパーカーのフードを深くかぶっていて顔は見えない。

ただ、腹部に触れるとそこから血が流れ出ていた。


「……お前…急に何しに来たの」


ミズキが苦笑いでその人を見下ろして呟く。知り合いなのか。…ということは魔族?


よくわからない状況に固まっていた私達は誰かの足音で顔を上げた。見ると、さっきまで誰もいなかった少し離れた場所に誰かいる。相変わらず暗くて姿はよく見えないが緑色の瞳だけがはっきり見えた。


「普通に撃たれでどうすんの…」


呆れた声がこちらに近づく。サクちゃんが私を守るように前に立つ。

近づいてきたその人の容姿が少し確認できるようになる。細身で姿勢が良く、ミズキより暗い茶髪。ミズキよりもいくらか落ち着いていて、チャラいミズキに比べて少し年上に見えた。


「……どーも。」


その人がサクちゃんを見て言う。サクちゃんを見ると、驚いたような顔でその人を見つめていた。


「…サクちゃん知り合い?」

「…三年前の…」


三年前、と聞いて嫌な記憶が蘇る。私達にとってひどいトラウマになっていた、大きな事件。


「ダイゴどうしたの、来ちゃって。」

「今日はコイツ追いかけてただけ…。そしたらミズキは対策チームに狙われてるしね。どうしたの、はこっちのセリフだよ」


ダイゴ、と呼ばれたその人は私の前に倒れている誰かの前まで来ると、まだ血の流れ出ている傷口を蹴り上げた。「うっ」と小さな呻き声がして息を吹き返したように指先が動いた。


「ダイ…ゴ…」

「正気に戻った?今日何人殺したと思ってんの。」


聞きながら傷口に足を強く押し当て続ける。痛みに震えながら浅く呼吸する姿に見ていられなくなって「ちょっと」と止めに入る。


「…魔族でも…痛いんじゃないですか…さすがに…。」


ダイゴの緑色の瞳が私を見下ろす。無感情なその瞳が怖いが必死に睨み返す。


「…リカコに手出すなよ。」


睨み合っていた私達の間にサクちゃんが入る。

ダイゴはサクちゃんを見ると片頬を吊り上げて笑った。


「ビビってるのよく分かる。俺に半殺しにされたのそんなにトラウマ?」

「……うるさい。」


苛立って銃を構えかけたサクちゃんの体が、急に跳ね飛ばされる。壁に強く体をぶつけて地面に落ちた。


「サクちゃん!」


ダイゴの方を振り向くと、いつの間に取り出したのか鞭を手にしていた。


「ごめんね、撃たれたくないからさ。」


私が相当怖い顔をしていたのか、私に謝って鞭を仕舞う。

サクちゃんが動けなくなっていることを確認して私の前に倒れていた人を抱え上げた。


その時、倒れていた人のフードの隙間から少し見えた耳に、見覚えのある物があって心臓が跳ね上がる。


まさか。


「一度戻るよ、ミズキ。店の人の記憶は後で操作しといて。」

「了解。…じゃあね、リカコ。」


私が止める間もなく三人はどこかへ姿を消した。


衝撃的なことが多すぎてしばらくその場を動けなかった。頭が真っ白になっていた私はサクちゃんがのろのろとこちらに歩いてくる音で我に帰る。


「サクちゃん!大丈夫!?」

「平気だ…。ちょっと体打っただけ。」


そう言いながらも呼吸が苦しそうだった。サクちゃんの体を支えながら本部に連絡を取る。

それから迎えに来たキユウさんに珍しく叱られたが、ほとんどその声は頭に入らなかった。




あの人の耳にあったピアス。


あれは………。



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