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愛情の記憶  作者: ぐれこ
最終決戦
54/60

急所

飛んできた闇がミズキにぶつかるより早く、カナトがミズキを庇うように抱きしめた。

闇はカナトを直撃したが、弾かれ破裂して消えた。レオナがやや驚いたように目を丸くする。


「…ミズキ、平気?」


カナトは恐る恐る自分の体に異常がないことを確認しながらミズキの顔を覗き込んだ。


「近いし痛い…。傷口触んな。」


いつもの調子で答えるミズキを見て安心したようにカナトは息をついた。


「…変な人間もいるものね。」


冷静さを取り戻したレオナはそう呟き、銃を取り出した。サクちゃん達が持ってるのと同じ、対魔族用の銃だ。それをカナトに向ける。

咄嗟にカナトとミズキは体を逸らしたが、銃弾がカナトの腕をかすめた。魔族にも効きやすいというだけであとは他の銃と変わりない。故に人間にも普通に効いてしまう。


「いっ…」

「ああ、普通の武器は効くのね。じゃあ思ったより厄介じゃなさそう…」


レオナがもう一発撃とうとした時、突然レオナの体が吹き飛び、壁にぶつかった。

さっきまでレオナがいた場所にダイゴが着地する。


「隙だらけじゃねーかよ、ババア。」


どうしてダイゴがそんなに動けているんだ、と思っていると口元に血が付いていることに気づいた。

レオナの方はそれなりに痛かったのかよろよろと起き上がる。


「ババアって何よ。」

「本当のことだろ、歳的に。」


二人が睨み合っていると、突然階段の上のレオナの部屋の扉が開いた。中からエミカさんが飛び出してくる。


「ダイゴ!」


上から何かをダイゴに投げ渡す。ダイゴがいつも持っていた鞭。今までレオナに奪われていたのだろう。


「ありがと。」


ダイゴが微笑むと、エミカさんも嬉しそうに笑った。そのエミカさんの首筋から血が僅かに出ている。


「…吸わせたの?よく殺されなかったわね。」


レオナがどこか馬鹿にするように言うが、エミカさんは動じずレオナにも笑いかけた。


「むしろ 吸ってもらった、んですよ。信じてますから。ダイゴのこと。」


堂々とした綺麗な笑顔にレオナは一瞬戸惑ったようだがすぐにいつもの調子に戻る。

エミカさんに向かって手を上げたレオナにすかさずダイゴが鞭を打つ。


「つっ…」


苛立ったようにレオナが指を鳴らすと、部屋中に強い突風が吹いた。体が吹き飛ばされ、壁に強くぶつかる。


「いったあっ…」


壁に打ちつけた背中がびりびりと痛み、呼吸が苦しい。他のみんなも同じようで立ち上がるのに時間がかかっている。

その間にレオナは階段の上に上り、今の突風のせいで倒れているエミカさんに歩み寄った。

さっきの銃を取り出し、エミカさんに向ける。


「エミカ!」


ダイゴの声がしたと同時に銃声が響いた。


「………ダイゴ…?」


咄嗟に目を閉じていた私はエミカさんの声におそるおそる目を開けた。上を見ると、壁際に追い詰められたエミカさんとレオナの間にダイゴが割って入っていた。

そのダイゴの胸から、血が流れていた。体から力が抜け、エミカさんの方に倒れこむ。


「…ダイゴ……、ダイゴ!」


状況が飲み込めず、パニックになったようにエミカさんが叫ぶ。

続けてエミカさんにも銃が向けられそうになったところでアキノさんが素早く上まで行き、二人を抱えて階段から飛び降りる。

私達のところまで急いで戻ってくると、アキノさんも苦い顔でダイゴを見つめた。


「急所かもね、これは…」


ダイゴは目を閉じたままぴくりとも動かない。急所を撃たれて即死したら、いくら魔族でも治せない。


「嫌だ…ダイゴ、ねえ……ダイゴ…!」


混乱しながら涙を流すエミカさんはダイゴから離れようとしない。止まらない血がべったりと小さな手に付く。


「………俺が…….」


か細い声がしたのはその時だった。ハッとして私達は声のした方を振り向いた。


「…俺が………治す……」

「……サクちゃん…」


目線だけをこちらに向けたサクちゃんが、どうにか体を動かせないか葛藤していた。



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