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愛情の記憶  作者: ぐれこ
最終決戦
49/60

落下

広い屋敷の中、どこを探したらいいのか見当もつかずひたすらに走り回っていた。

息が切れて立ち止まった私の肩をカナトが掴む。


「ち、ちょっと待って、一回冷静に探そうっ」


屋敷に入るまでも散々走ってきたのでさすがに疲れが出てくる。カナトは疲れたように私の背中にもたれかかった。その更に後ろからのろのろとアキノさんが歩いてきた。


「もうちょっと俺を役立てようとしなよ。わざわざ俺のこと引っ張り出してきたんだから。」


お父さんには内緒でアキノさんを地下室から出してついてきてもらった。さすがに私とカナトだけで魔族の居住区に踏み込んでレオナの屋敷に入るのは無理がある。

そもそもお父さんにはここに来ること自体言っていなかった。勿論、止められるからだ。


「…血の匂いがするね。人間のじゃないだろうけど。」


疲れを一度休めるように俯いているとアキノさんが呟いた。

私達は顔を上げたが、そんなこと人間の私達では分からない。


「魔族の血の匂いってこと?」

「そうだね。こっちかな。」


マイペースにアキノさんは勝手に歩いていく。その後を私達も追った。


「魔族の血の匂いってことは…ダイゴさんのとかってこと?」

「そうだね。…サクちゃんってパターンもあるけど。」


その言葉に一気に自分の顔から血の気が引くのがわかった。サクちゃんが怪我してたらどうしよう。戦闘には慣れてるし頑丈な体をしてるけれど、レオナを相手にして無事でいられるか分からない。

祈りながらアキノさんの後を追うと、どんどん下の階に降りて行った。一階をうろうろと歩きまわる。


「…この下、なんだと思うんだけど。どうやって下りるんだろう。」


アキノさんは悩みながら俯いた。これ以上下に降りる階段は見当たらなかった。


「隠し扉とかあるんじゃない?」


カナトが言うがアキノさんは「うーん」と首を傾げた。


「…探すの面倒くさい。」

「え。」


アキノさんはあっさりと言うと私達の手を掴んだ。嫌な予感がして私は苦笑いになる。


「絶対手離さないでね。」


アキノさんに微笑みながら言われた次の瞬間、がくん、と体が下に落ちた。



その直後、私は硬い床に叩きつけられた。さっきまでの柔らかい床の廊下とは違う。空き部屋なのかフローリングの床だが、ひどく冷たい。というか、この部屋の空気自体が冷えきっていた。


「リカコちゃん?」


聞き覚えのある声に顔を上げ、起き上がった。目の前に私を心配そうに見るエミカさんの顔があって驚く。


「エミカさん!大丈夫ですか!?」

「私は平気。カナトくんと…そっちの人は?」


私と同じく床に叩きつけられたまま寝転がっていたカナトが起き上がる。アキノさんだけは余裕の表情で既に立ち上がっていた。


「アキノさんっていいます。対策チームで保護してる魔族の人なんですけど、悪い人ではなくて今回もここに来るまで手伝ってもらって…」


私が説明する横でアキノさんは部屋を見回した。つられて周りを見て、私とカナトはハッとした。


「ダイゴさん!ミズキ!」


私でも分かる程の血の匂い。よく見ると、狭い部屋の床に赤い気味の悪い血が広がっていた。

二人の服は血で元の色が分からない程に汚れていた。

ダイゴは目の光は弱いものの、意識ははっきりしてるようで私達を見ていた。


「ダイゴさん…、大丈夫なんですか?」

「俺はわりと平気だから…ミズキのこと心配してやって。」


そう言われてミズキの方に先に歩み寄る。本当にまだ生きているのか不安になるくらい、ピクリとも動かない。


「…一応気をつけな。急に意識戻って吸い殺されるかもよ。」


アキノさんに言われて、無防備に近づこうとしていた足を止める。少し距離を取りながら、ミズキの前にしゃがんだ。


「…ミズキ…」


そっと呼んだだけでは起きなかった。手を伸ばし、頬に触れた。まだ熱い。まだ生きている、と少しほっとした。


「ミズキ….、ミズキ」


何度か呼んでも起きない。吐息も微かすぎていつ息絶えてしまうか不安だった。

頬に当てていた手を離そうとした時、不意にミズキの唇が僅かに開いた。


「…ミズキ!」


ミズキの顔が微かに動き、私の手を舐めた。


「………噛んでいい……?」


ミズキとは思えないほど掠れた声だった。この間アキノさんにやられて死にかけた時の比にもならないほどに、老人みたいな声になっている。

私が許可するより先にミズキは私の指に噛み付いた。指からなら眩暈もしないし、大した出血量にもならない。逆に言うと、これだけ弱っているミズキがその程度で満足できるとはとても思えなかった。


「どうしよう、絶対これじゃ足りないよ。」

「俺と違って血飲まない生活慣れてないからね。…監禁されてる間一日に血液パック一つ飲むか飲まないかの生活してたから余計弱ってる。…出血量と補給量が合わない。」


ダイゴさんは冷静に話すが、そのダイゴさんだって例外ではないだろう。

エミカさんが心配そうにダイゴさんの顔を覗き込む。


「やっぱり私の血飲む?」

「…いい。」


ダイゴさんはエミカさんから顔を逸らし、俯いた。


「…今噛んだら吸い殺しそう。」

「でも…、それ言ってたらいつまで経っても吸えないじゃない。」


エミカさんに説得されるものの、ダイゴさんは顔を上げようとはしなかった。

沈黙が部屋に流れた時、誰かの足音がして私達は顔を上げた。すんなりこの部屋の前に来るのかと思ったが、時折足音が止まる。

レオナ…じゃない?

そう思った時、私達がいる部屋の前で足音が止まった。


「ここ鍵穴ないじゃん。」

「は?なんで?」


聞き慣れた声が部屋の外でしている。鍵穴がない扉はどうやら押しても引いても開かないようで音を立てるだけだった。


「レオナ様だけが何かしらの能力で開けられるんじゃないかな。…明らかにここが怪しいね。」

「じゃあこの鍵何だったんだよ?」

「知らない。とりあえず無理やり開ける。」


そんな会話が聞こえた直後、扉が向こう側から突き破るように壊された。飛んできた扉の破片に当たりそうになり寸前で避ける。


「…リカコ!?」

「キユウさん!ハイリ!」


壊れた扉の向こうから、キユウさんとハイリが顔を出した。




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