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愛情の記憶  作者: ぐれこ
ハイリとイオンの真実
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ハイリへ

こんにちは、イオンといいます。

この手紙を開いたのがリカコなのかサクマなのかキユウなのか、はたまた職員の誰かなのかは分からないけれど、ハイリ自身が見つけてくれることを祈って書いています。

俺は、俺がいなくなってもリカコ達は俺の荷物は処分しないだろうという確信がありました。俺のことを大事に思ってくれていることは、俺自身がよく分かっていたから。そして、いつかハイリが俺の荷物を見た時、一番に仕事の物に目をつけるだろうという確信もありました。俺は仕事が大好きです。きっと記憶をなくしても、本能的に仕事の物に興味を示してしまう。だからここに手紙を入れておきました。


今は何で俺がハイリの事を知っているのか、ということが気になっていると思います。そもそもこの手紙は、ハイリの為に書いたものです。

俺とハイリが同一人物だということは一度無視して、双子の兄が書いたもの、くらいの感覚で読んでください。


まずこの手紙を書いている数ヶ月前、俺はサクマがレオナの血を引いている半魔族である、ということを明確に知りました。

勘ではずっと分かっていたことだったけれど、レオナの甥だというのは予想外でした。

すぐに俺はレオナに興味を持ち、サクマにも興味を持ちました。サクマのことを研究対象として見ていたことは後で謝っておいてください。

魔族というのはもっと潜んで生活しているもの、という印象が一般的ですが、普通の人間に紛れて暮らす魔族はたくさんいます。血と引き換えに情報をくれる魔族はたくさんいました。

ましてやレオナは有名な上流魔族なので情報はすぐに集まりました。そこで集まった情報の中に、ハイリの名があったのです。

情報を集めていた当初は、これを重要な情報だとは思わず、雑学程度にしか思っていませんでした。

ハイリとは、幼くして死んだレオナの息子の名前です。


一人でレオナの情報を集めることは思ったより簡単だったし、やりがいもありました。できればレオナの弱点でも見つけて殺すなり何なりして自分の手柄にしたい、という下心もありました。でも俺は、探りすぎたのだと思います。


今俺は、レオナに目をつけられています。何人もの魔族に情報を探り歩いていたのだからそうなって当然ではあるのですが。

残念ながら俺にはサクマやキユウほど戦闘のスキルはありません。近いうちにあっさりレオナに捕まると思います。捕まるのが俺一人でいる時か、はたまたサクマもいることだしチームそのものを襲いに来る時かはまだ分かりません。


集めた情報の中に、レオナはハイリを作ろうとしている、という話がありました。しかしこの話の奇妙なところは、レオナは素直に子供を作る気はない、ということです。

人間を、魔族にする。上流魔族の中でも使える者は滅多にいない、高度な術です。リスクも高く、使われた者は体が耐えきれず死ぬか、何かしらの異常が起こりかねない。それでもレオナは、何人もの人間を使ってその術を試しています。

おそらく俺もレオナに捕まった時、その術を試されると思います。

そうなった時、どうか素直にその術が効いてほしい。何が起こっても、俺自身には生きていて欲しいです。


術を使われた時何かしらの異常が起こる、と書きましたがその異常、というので一番起こりやすいのは記憶喪失だと考えました。

今までの仕事のデータを見返すと、魔族の術というのは攻撃系以外のものは一番相手の脳に負担がかかりやすいのです。


俺の予想通りなら、ハイリになった俺は記憶を失くしているでしょう。でも、もしハイリ自身でこの手紙を開いたのなら、ハイリは対策チームと接したということになる。リカコ達と知り合ったかもしれない。

魔族として生きているハイリからすれば対策チームは敵だと思いますが、リカコや、サクマや、キユウや、チームの職員のことを、どうか大事にしてあげてください。俺にとって、とても大切な人達です。愛せなくてもいいから、傷つけないであげてほしい。


もう一つ、伝えておきたいことがあります。それは、人間を魔族にする術があるなら、魔族を人間にする術なんてものもあるのかもしれない、ということです。これは可能性の話で、俺の力では充分に調べきれていません。

しかし、理屈だけなら考えることができます。人間を魔族にするのには大量の闇を体内に入れ、上流魔族と契約する、というのが術についてのざっくりとした情報です。なら、人間に戻すにはその逆を行えばいいのではないか、と思いました。

契約を切ることも、人間を魔族にする程の大量の闇を取り除くのも簡単ではないです。

でも、もしハイリに人間に戻りたい感情があったら、考えてみてほしい。


最後に、リカコについて。もう知り合ったかどうか分かりませんが、その子はとても大切な子です。さっきサクマもキユウも職員みんな含めて大事だと書きましたが、リカコには尚更特別な気持ちがあります。

もし会ったら、「イオンはリカコのことが好きだった」と言っておいてください。自分の口からは照れくさくてとても言えません。


もっとイオンとしてちゃんと生きていたかったけれど、全ては俺の身勝手な行動が招いたことです。みんなにも迷惑をかけるかもしれない。もしチームの人に会ったら、全て謝っておいてください。


長々と書きましたが、ハイリにはハイリのやりたいように生きてほしい、というのが俺の結論です。勿論俺としては人間として生きたいのが本音ですが、魔族として生きて満足しているのなら、それを邪魔する気はありません。

ただ、イオンとして、ハイリになるまでにこんな過去があったことを知ってほしかった。伝えたいことがあった。それだけです。


どうか、幸せに生きてください。



イオン





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