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愛情の記憶  作者: ぐれこ
魔族
4/60

帰宅

翌日、学校から帰ってくると昨夜の事件で多くの職員が出払っていた。リビングに行くとキユウさんとサクちゃんが揃って疲れた顔で眠っていた。

自分の部屋で寝ればいいのに、と思いながらも二人の間にまだ書きかけの資料があって納得する。二人で話し合いながらまだ仕事をしていたんだろう。

二人はここで働いて長いし仕事の量のこともあってほぼここに住んでいるので、狭い空き部屋ではあるが自分の部屋がある。キユウさんなんかは特に自分の部屋にこもって眠っていがちだ。そのキユウさんが部屋にこもらずこんな所でサクちゃんと仕事しているということは、余程一人では手に負えない仕事なのだろう。

資料を覗きこんでいると、急にサクちゃんが目を覚ました。切れ長の目を大きく見開く起き方に驚いて思わず私は体を引く。


「サクちゃん…大丈夫?」


おそるおそる聞くとサクちゃんはゆっくりと体を起こした。深く息をついて目の前の資料に目を向ける。


「………おはよう、リカコ。」

「やっぱり徹夜だったんですか?」

「……まあ、別件も色々重なってて、寝る暇なかったな。」


目をこすって資料をまとめる。滑舌も良くなく、目がしっかり開いていたのも一瞬だけで今はもう目を閉じたり開けたりを繰り返している。

そんな会話をしている間に、突然リビングの扉が開いた。振り向いたサクちゃんの目がまた大きく開く。私も驚いて立ち上がった。


「お父さん!」

「ただいま、リカコ。」


微笑むお父さんはひどくやつれていた。政府への報告関係で出張続きだったせいだろう。


「サクマもキユウも、なんだか久しぶりだな。こっちのこと任せっきりで悪かった。」

「いえ、全然…大丈夫です。」


眠いのを堪えるように目を見開いて会話するサクちゃんの顔が面白くて私は横でつい吹き出す。

サクちゃんはそんな私には目を向けずキユウさんを急いで叩き起こす。

何度か叩かれてようやく起きたキユウさんはお父さんを見て「あれ?」とやや寝ぼけた声を出す。


「帰って来たんですか。」

「こっちも色々被害多いそうじゃないか」

「…そうっすね」


お父さんは私達の横に座ると、サクちゃん達の前の資料を見る。


「大量殺人の件はほとんど情報なしか」

「ほとんど吸い殺されてますからね。生きてても回復にだいぶ時間かかりますし。」

「まあこれが大きな案件だとしても、放っておけない別件も潰さないとだな。」

「それなんですけど」


サクちゃんが別の資料を取り出しお父さんの前に広げる。大量殺人とは別の、第6地区で起きてるらしい被害の資料だった。


「第6地区にあるホストクラブ周辺で連続して魔族の被害が出てるんです。吸い殺されてはなくとも噛み跡は一致してます。妙なのは、全員吸われた時の記憶がない。」


魔族に血を吸われた時はほとんどの確率で意識が朦朧とするらしい。でも吸われたこと自体は覚えてたり、吸った魔族の顔も覚えていることも多い。何も覚えていないというのは逆に珍しいのだ。


「記憶ない?皆揃って?」

「はい。そして、吸われているのは全員女性、しかもこのホストクラブに出入りしたことある人です。」

「…どう考えてもそのホストクラブが怪しいじゃない。」


つい私が口を出すと、「そう」とサクちゃんが真剣な顔で頷いた。


「だからここのホストクラブを調査したいんです、リーダー。魔族はいなくても目撃情報くらいあるかもしれない。」

「そうか。…なるべく早く調査しに行った方がいいかもな。早く潰せそうならそっちの件を優先してくれ。」

「はい。今夜にでも行って話聞いてきます。」


さくさく話を進めてお父さんは自分の部屋に仕事を済ませるために戻る。

お父さんがいなくなってから私はサクちゃんの腕をつついた。


「サクちゃん、その調査私も行っていい?」


私が聞くとサクちゃんは「えっ」と驚いて資料をしまう手を止めた。


「サクちゃん達の手伝いしたいの。最近サクちゃんもキユウさんも疲れてるし、私で出来ることなら…と思って。…まあ私なんかじゃ魔族の知識なさすぎて役に立たないかもしれないけど。……だめ?」


サクちゃんはしばらく悩むように俯いていたが、それを見かねてキユウさんが「別にいいんじゃないの」と口を出す。


「調査で横に座らせとくくらい平気だろ。俺の仕事が減るなら大歓迎。」


欠伸混じりに呑気な口調でキユウさんが言う。

サクちゃんは溜め息をつくと「分かった」と頷いた。


「でも勝手なことはしないこと。連れてくだけだからな。」

「はーい。ありがとう、サクちゃん。」


私は軽く返事をして笑った。

調査に行く時間の約束をして、リビングを出る。





その頃、まだ営業していないホストクラブの裏で倒れた女の前にミズキはいた。女の首筋から流れた血と自分の口元にもついた血を手で拭う。最後の一滴を丁寧に飲み込むと後ろを振り返る。


「何、ダイゴ。」

「こんな時間から食事か。」

「夜じゃないとダメって決まりないもん。」


後ろにいたダイゴに血のついた手を「舐める?」と差し出す。

ダイゴはやや呆れながらその手を取り、軽く舌を這わせた。


「不味い。」

「えー、美味しい方でしょ。」


不貞腐れながらミズキは残りの血を自分で舐めた。


「何でダイゴ生き血吸わないの?相当美味しいのでも飲んだ?」

「いや…そういうわけじゃないけど。…別にいいでしょ、そんなこと。」


はぐらかすように言ってダイゴは「そんな事より、」と話を変える。


「場所くらい変えろ。目つけられるってずっと言ってるだろ。」

「ここが一番便利なんだもん。プライベートで会いたいって言ったの女の方だしね。」


俺に罪はない、とばかりの態度に呆れてダイゴは息をついた。こういう手を使って食事を取っているのが最近のミズキのやり方だ。


「今日は仕事あるの?」

「あるよ。だからまた遅くなるって言っといて。」

「はいはい。…ま、気をつけてな。」


まだ血を吸おうとしているミズキを放ってダイゴは早足でその場を立ち去った。青黒くなってきた空を見上げて、嫌な予感を振り払うように首を振る。


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