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愛情の記憶  作者: ぐれこ
頼まれ事
32/60

協力者

カナトとエミカさんを連れて本部に帰りリビングに入ると、キユウさんがテーブルに伏せて眠っていた。また寝てるのか、と呆れながら叩き起こす。


「キユウさん、風邪ひきますよ」


私に言われてキユウさんは気怠そうに顔を上げた。その首筋にくっきりと噛み跡がついていてつい目を丸くしてしまった。昨日ハイリに噛まれたのとは別の位置だ。


「…それ」

「加減がわかんなくてな。」


サクちゃんが戸惑う私の肩を叩いてキユウさんの隣に座る。キユウさんについた噛み跡はやけに深く噛まれているような気がした。


「…キユウさんの血吸ったの?」

「じゃなきゃ、あんな力出ない。…大丈夫、ちゃんとキユウ本人に許可もらって吸ったから。」


不安気な私にそう言いながらサクちゃんが私の後ろにいた二人の方に目を向ける。


「どうぞ。応接室とかじゃなくて申し訳ないです。」


二人がどぎまぎしながらサクちゃん達の正面に座る。キユウさんは二人の姿を見てキョトンとした。


「…誰連れてきたの?」

「ダイゴの彼女と、ミズキの仕事仲間、らしい。」


さっきサクちゃんには歩きながらエミカさんとカナトを紹介した。

キユウさんはダイゴとミズキの顔を思い出すように首を捻りながらへえ、と頷き背筋を正した。


「まあ色々あった後だし正直俺自身もまだ混乱してるんですけど…」

「あのっ…サクマ…さんは、魔族なんでしょうか?人間なんでしょうか?さっきは魔族の雰囲気の方が強かったけれど今は人間だし…」


エミカさんに聞かれてサクちゃんは少し悩むように俯いた。人間、と即答しないのが意外だった。


「…正直両方ですよ。母は人間で、父は魔族です。父がレオナ…さっきの女の弟に当たります。」

「上流魔族になる、とかのあの話も…本当なんでしょうか?」

「本当ですよ。恋愛感情を持った相手を吸い殺すことによって通常の倍のエネルギーを得られるんです。俺の家族の血統が代々上流魔族って話もうっすら聞いたことはあります。」

「じゃあサクちゃんのお父さんも上流魔族だったの?」


私が聞くと、サクちゃんは黙りこんだ。何やら話しづらそうに唇を噛む。


「…あ、ごめん。また変なこと聞いちゃった…?」

「いや、平気。もう割り切ったから。」


サクちゃんは微笑んで顔を上げた。


「…俺の父さんが上流魔族になったのは俺が生まれた後なんです。……母さんは、父さんに吸い殺されて死んでる。」


爽やかな顔で言うが、衝撃的すぎて私は隣で絶句してしまった。その顔を見たサクちゃんが声を上げて笑う。


「喧嘩したとかそういうことじゃないんだよ、きっと。他の親族と絶縁してまで母さんと結婚したんだから、そんな脆い愛情じゃなかったんだよ。…だからこそ、だったんだろうけど。」

「え、そのお父さんの方は…?」

「その後すぐに自殺してる。」


サクちゃん自身はあっさりとしているが、エミカさんは不安気に俯いた。


「…脅してるわけじゃないんですよ。ただ、そのくらい魔族と人間の恋愛って難しいんです。愛情が深いほど吸血衝動は激しくなる傾向にある。あなたとダイゴの場合レオナが絡んでますし、慎重になった方がいい。」


サクちゃんが優しいトーンで話す。エミカさんは小さく頷いて、顔を上げた。


「…あの人と、縁を切らせる方法はないんですか?」

「それを我々も知りたいんですがね…。何しろ契約関係ですからそう簡単に切れるものじゃないんですよ。レオナの判断一つで簡単に殺されかねない。」


もし簡単に契約を切れるなら、とっくにハイリを解放している。サクちゃんもキユウさんもイオンの事が気になったようで一瞬目を伏せる。


「…あのチョーカー壊しちゃえばいいんじゃないの?」


横でぼんやりと話を聞いていたカナトが口を挟む。


「あの三人お揃いのやつ。」

「…壊せば解決、とまではいかないでしょうけど契約状態の緩和くらいはできるかもしれませんね。おそらくあれで三人を管理してるんでしょうし。」

「じゃああれ壊せばダイゴは私の傍にいられますか?」


少し希望を見出したエミカさんが身を乗り出す。だがサクちゃんはそう断定できないようで微妙に顔をしかめた。


「分かりません。実際は体そのものをレオナに支配されてるようなものなので、管理装置を外したところで完全に自由になれるとは思えない。」

「そうですか…。」


落胆するエミカさんを心配そうにカナトが見る。

心配なのは私も同じだった。エミカさん、あんなにダイゴのこと好きなのに。


「…あの、俺素人ですけど何か出来ることあれば協力しますよ。」


少しの間沈黙が続いた後、カナトが不意に言った。


「…でも、一般人ですからあまり巻き込むわけには…。」

「そりゃ一般人ですけど…、エミカの彼氏のこともミズキのことも心配だし。それに、俺何故か魔族の攻撃効かないから何か役に立てないですかね。」


反対的だったサクちゃんがカナトの話を聞いて「え?」と一瞬目を丸くする。


「効かないんですか?」

「はい。さっき闇に攻撃されても無傷でしたし。」

「時間差で異常とかは?」

「ないです。」


カナトは即答した。サクちゃんは何やら深い息をついて「そうですか」と頷いた。


「……じゃあ、協力して頂けますかね…。無茶しない程度に。」


「はい」と頷くカナトの横でエミカさんも「私もっ」と立ち上がった。


「私にも、手伝わせてくださいっ。ダイゴのこと諦めきれませんっ。」

「そりゃあ、エミカさんはダイゴのこと心配でしょうから…。でもエミカさんも勝手に無茶しないでくださいよ。」


意気込むエミカさんを見てサクちゃんは苦笑した。つい熱くなってしまったことを恥ずかしがるようにハッとしたエミカさんが椅子に座り直す。


「はい…。気をつけます。」


照れながら微笑む姿も可愛らしい。

その後、これからの計画を話し合っている間に外では雨が降り始めた。

…ハイリ達、大丈夫だろうか…。


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