決意
私達はダイゴのそばに集まった。いつ闇が攻撃してくるか分かったものではないが、今は力を溜めこんでいるのか全く動かない。
「考えって何だよ。もうあの闇の支配権はレオナ様にあるからレオナ様しか破壊できないぞ。」
「お前俺達の立場分かってるか。」
ダイゴが静かな声で言い、チョーカーを指でつつく。
それを見ていたハイリが苦笑いになった。
「レオナ様の下僕?」
「そ。レオナ様に支配されてるってことは、レオナ様とも繋がってるってことだ。」
何が言いたいのか分からず、ミズキが首を傾げる。その鈍さに呆れたようにダイゴはため息をついた。
「…これを使って、レオナ様経由であの闇破壊する。」
あっさりとした口調でダイゴがチョーカーを再び突きながら言う。
それを聞いたミズキとハイリは「はあ!?」とひっくり返った声を上げた。
「何言ってんの、そんなの無理でしょ!」
「レオナ様がこれ使って俺らに罰与えたり管理できるんだからその逆もできるだろ。やった事ないけど。」
「….危なくない?」
隣にいたエミカさんが不安気に聞く。
「まあ、あの大きさだからね。三人がかりでも壊せるかどうか…。壊した反動も尋常じゃないだろうし。」
「そうだよ。それに今ダイゴ、エネルギーゼロの状態じゃん。」
淡々と話していたダイゴにハイリが言う。不安なのは魔族側も同じようだった。
耐えかねたようにミズキが髪をわしゃわしゃと掻く。
「絶対無理だろ!レオナ様に反撃してるようなものだよ!?あの大きさの闇はさすがに…」
「もう一人いれば、どうにかなるか?」
突然聞き慣れた声がして、私達は顔を上げた。横を見ると、いつの間にいたのかサクちゃんが立っていた。片目が黄緑色に光っている。
「……サクちゃん……なんで…」
さっきの事を思い出してまともに顔を見れない。まだ、謝っていない。
「何で闇出てるのに連絡しなかった?」
サクちゃんは私の方は見ずに聞いた。怒っているのかどうなのか分からない声で、余計に不安になる。
「……ごめんなさい….。」
俯きながら言うと、不意に頭を撫でられた。顔を上げるとサクちゃんが笑っていた。
「何かあったら、ちゃんと連絡すること。安易に魔族について行かないこと。昔から言ってるだろ。」
「…怒ってないの?」
「怒ってるよ。お前の俺への信頼はそんなものだったのかと思って。」
和やかに微笑みながらもそう言う。
違う、信頼してないわけじゃない。私がそう言おうとすると、サクちゃんに手を握られた。
「でも、不安がってても仕方ないから、ちゃんと受け入れるべきなんだと思ったんだ。」
意味深に言うと、サクちゃんはダイゴの方を振り向いた。
「俺はレオナと繋がってないから直接破壊できないけど、闇の力弱めて負担軽減くらいだったらできるが。」
「…魔族の力使うの嫌だったんじゃないの?」
「…この大きさだ。普通の人間の力じゃ無理。」
今だ力をため込んでいる闇を見上げてサクちゃんが言った。
「…それに、そう言うお前の方はどうなんだ。サポートなしでそのギリギリの体で破壊できると本気で思ってるのか。」
サクちゃんに言われて、珍しくダイゴさんが口ごもった。
その会話を横で聞いていたエミカさんが慌ててシャツの襟元を開ける。
「ダイゴ、私の血使って!」
「え、エミカのは…」
「何でよ、五年前に気絶するくらい吸ったじゃない!不味かった!?」
「不味くはないけど、あの時は……、……ごめん…。」
たじろぎながらも謝るダイゴを見てエミカさんは「大丈夫だよ」と笑った。
「早くしないといけないんじゃない?」
「……悪い。」
ダイゴはそっとエミカさんの首筋に触れた。そのまま軽く噛むと、一口血を飲み込んで離れた。
「…それだけでいいの?」
「…エミカ相手だと飲みづらい。」
素っ気なく言いながらも顔色はさっきより良くなった。唇についた血を拭って、エミカさんの支えなしで歩き出す。
「…リカコ」
ダイゴの姿を眺めていたところで、サクちゃんに呼びかけられた。まだ握ったままの私の手に視線を落とす。
「……何?」
「…一瞬、目閉じてろ。」
何故か緊張感のある神妙な顔をしたサクちゃんに疑問を感じながらも目を閉じる。
軽く手を引っ張られる感覚がしたかと思うと、手首に小さな痛みがした。少し待っていると「もういいぞ」と言われてサクちゃんの手が離れた。
「…何したの?」
「…何も。」
素っ気なく答えて私に背を向ける。
改めて自分の手首を確認すると、手首から僅かに血が流れていた。
…噛み跡?
ハッとしてサクちゃんの方を見るが、サクちゃんは素知らぬ顔で闇の方に向かっていた。
「首から吸えばいいのに。照れ屋だね。」
ミズキが私の後ろで呟いた。もう反論することは諦めたようで、闇を破壊する気になったらしい。
「リカコとエミカちゃんは隠れてな。カナト盾にしていいから。」
「えっ」と戸惑うカナトを置いて前に出て行く。
私はカナトとエミカさんを連れて建物の影に隠れた。私が動くと、闇の意識が少しこちらを向く。
「…大丈夫…なんでしょうか…。」
エミカさんが不安気に呟いた。そのエミカさんの肩をカナトが軽く叩く。
「大丈夫、大丈夫。強いんでしょ?エミカの彼氏。」
「…強いわよ。」
エミカさんが少し微笑んで言う。エミカさんの視線は、ずっとダイゴの方に向けられていた。




