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愛情の記憶  作者: ぐれこ
頼まれ事
21/60

戦闘後

「それで、揃いも揃ってリカコ逃したわけ?」


リカコ達が屋敷を出て行った数時間後、三人は広間に集められた。

レオナは呆れたようにため息をついた。


「結局情持ったんじゃない。だめねえ。」


レオナが軽く指を鳴らすと、三人の首についたチョーカーからバチッと電流のような刺激が走った。


「痛っっ」


ミズキはあからさまに痛がったが、ハイリとダイゴは僅かに顔をしかめて耐えた。


「どうしようかしらねえ…」


わざとらしく悩むようにレオナは首を傾げた。それから、怪しくニヤリと笑う。


「……何を…」


ダイゴが訝しげに目を細めた時、片腕に急激に強い痛みがした。骨が折れそうな、締め付けられるような痛みに腕を見ると、蛇のような形の闇が腕に巻きついていた。


「つっ……いっっ……」


その蛇の形の闇が焼くような熱を持って皮膚に沈む。痛みと熱さに耐えかねてダイゴはうずくまった。


「ダイゴっ…」

「平気…だから…触んなっ……ぐっ…」


心配するハイリを無事な方の手で払う。しばらくすると闇は完全に皮膚に沈み、焼印のように蛇が巻きついた形の痕が腕全体に残った。

呼吸が落ち着くのを待ってから、ダイゴはよろよろと立ち上がった。


「今日は…俺ですか…。」

「ミズキは素直に負けたし、ハイリにはさっきたっぷり お仕置き したからね。ちゃんとやらなきゃダメよ、ダイゴ。」


レオナは楽しそうに笑って部屋に戻って行った。その姿が部屋の扉の向こうに消えてから、ダイゴは感覚のない腕を抱えた。


「…大丈夫かよ。」

「…久々に痛い思いした。」


ミズキがそっとダイゴの腕に触れた。蛇形の痕の周りはまだ赤く腫れている。

さっさと広間を出るダイゴの後を二人も追いかけた。


「レオナ様意外とダイゴにも厳しいよなー。気にしてないように見せてるわりには当たり強いっていうか。」


長い廊下を歩きながらミズキが疲れたようにだらけた口調で話す。


「俺がいつまでも上流魔族にならないのが気に食わないんでしょ。意外と血筋にこだわる人だから。」

「だったら自分で息子作ればいいのに。わざわざ甥のダイゴに期待しても仕方なくない?」

「息子ねえ。ハイリ作ってあげれば?」

「ぜっっったいやだ。」


ハイリの本気の嫌そうな顔にダイゴは気が抜けたようにフッと笑った。


「そういえば、対策チームのサクちゃん?も魔族なの?」


ミズキに聞かれて「ああ」と思い出したようにダイゴが頷いた。


「あいつもね、レオナの甥。」

「え?」


あっさりとダイゴが答えると、二人が揃って固まり、足が止まった。


「え?どういうこと?」

「従兄弟。でも向こうは俺もレオナの甥だってこと知らないと思う。…そんなに驚く?」


苦笑いで先に歩き出すダイゴの後を二人は急いで追いかけた。


「そんなことダイゴ自身はいつ知ったの?」

「三年前。うっかり俺が半殺しにしたやつが俺の従兄弟だってレオナ様に後から聞いた。」

「大丈夫なの?従兄弟と戦って…」


不安気なハイリの声にダイゴは振り向いた。リカコに散々怒られてから、ずっとハイリの顔が暗い。レオナの相手をした疲れもあって、今も足取りが重いようだった。


「…ほとんど他人だもん。てかいつまで落ち込んでるの…リカコに強く当たられたからって。」

「なんか…何も知らないの申し訳なくてさ…。リカコあんなに一生懸命怒ってくれるのに、俺には何一つ理解できないから…。」


浮かない顔で言うハイリの顔をダイゴはしばらく眺めていた。「じゃあ、」と何かを閃いたように軽く手を叩く。


「ちゃんとリカコに聞きに行けば?一番早いじゃん。」

「えっ」


何か言いた気に口をモゴモゴさせるが、嫌とは言わない。聞きに行きたい気持ちはあるようだった。


「行ってきなよ。屋敷にいたってレオナに使われるだけでしょ。」

「……うん…。」


ハイリは迷いながらも、小さく頷いた。




ふと目を覚ますと、窓の外はまだ暗かった。

本部に帰ってきてから、話すことはたくさんあったものの帰ってきたことに安心してしまい、リビングの隅のソファで寝てしまったようだ。

もう一つのソファではキユウさんが眠っている。

起き上がらずに目だけで周りを確認していると、少し離れたテーブルでサクちゃんとアキノさんが話をしているのが見えた。

アキノさんは帰ってきてから能力封じの腕輪を付けられたものの、地下室に閉じ込められはしなかった。一晩くらいは本部内で自由にしていられるらしい。


「どうしてイオンが…魔族として生きてるんだ。」


サクちゃんのその言葉にハッとして聞き耳を立てる。あの時は冷静に見せていたものの、やっぱりサクちゃんもイオンに関して動揺していたようだ。


「レオナだったらやりそうでしょ、あのくらい。」

「いくら能力が高いからって、人間を魔族にすることなんて可能なのか?」

「噂には聞いたことあるよ、そういう術。」


アキノさんは頬杖をついて、思い出すように首をひねりながら言った。


「瀕死の人間に大量の闇を流し込んで上流魔族と契約すれば魔族になれる…てやつ。そもそも契約の術自体高度だからね。やる側もやられる側も負担はかなりのものになる。…現に記憶飛んでたんでしょ?」


アキノさんの話を聞きながらサクちゃんは暗い顔で頷いた。


「……あいつが魔族になって一番傷ついたのは、絶対リカコなんだ。仲良かったし、恋人同然だったし…。記憶飛んでて、魔族になってるとか、辛すぎるだろ。」

「そうだねえ…。…でもサクちゃん、魔族になるって簡単じゃないんだよ。負担が大きすぎて死んじゃうのが大半なの。」


サクちゃんが顔を上げる。私も興味深くなって顔を二人の方に向ける。


「それでも、記憶飛んでも、生きてたってことは…生きたい気持ちだけは強かったんじゃない?そのイオンは。多分リカコ達にもう一回会いたかったんだよ。」

「…そう考えると、綺麗だけどな。」


薄く笑ってサクちゃんは頷いた。その顔を見ていられなくて、私は目を閉じた。


三年前に咄嗟に私を庇ってくれたイオンの姿が頭の中に蘇る。

いつもヘラヘラしていて死には無縁そうなイオンの顔。庇ってくれた時ですら笑っていた、その姿が、本当はずっと許せなかった。

もっと悲しい顔くらいしていてほしかった。自分ばかり平気な顔してずるい。

「大丈夫だよ」とかじゃなくて、「死にたくない」って言ってほしかった。

泣くのを堪えているうちに、再び深い眠りに落ちていく。

今日も、イオンの夢を見そうな気がした。



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