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愛情の記憶  作者: ぐれこ
リーダーの娘
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いつも同じ夢を見る。



まず、お母さんが死んだ時のこと。

次に、あの人がいなくなった時のこと。



どちらも辛いことだったはずなのに、もう夢に見慣れてしまっていて朝起きた時には何とも思わなくなった。

嘆いたところで二人とももう帰って来ないのだから。




「リカコー。」


ドアの向こうから声がする。ぼんやりと起き上がったのと同時に部屋のドアが開いた。

いつも通りの気難しそうな顔がドアの向こうから覗く。


「おはよう、サクちゃん。」


寝癖だらけの髪のまま顔を向けると、サクちゃんは苦笑いで部屋に一歩足を踏み入れた。


「男に寝起き見られてるんだからもうちょっと気使えよ。」

「えー、いいじゃんサクちゃんだし。」


答えながらベッドからのそのそと出ると、改めて鏡を見て自分の寝癖の酷さに絶望する。


「今日は一段と酷いね。」

「自分で言うな。…遅刻するぞ。さっさと着替えろ。」

「はーい。」


投げやりに返事をして着替えを3分程で済まし、しつこい寝癖を直すことは諦めてリビングに行く。

そこでサクちゃんの隣に珍しい人物を見つけてつい目を丸くする。


「珍しい、キユウさんがこんな時間に起きてる!」


私が言うと気怠そうな顔でキノコ頭が振り返る。目の下に酷いクマが出来ていた。


「ばーか、徹夜だよ。起きるも何も寝てないの。仕事終わらなくて。」


舌打ち混じりの声で言ってトーストにかじりつく。もそもそと頬をいっぱいにして動かす姿はハムスターに似ていた。

キユウさんの正面に座り、私もトーストを口に運ぶ。サクちゃんはテーブルの横でテレビから流れているニュースに目を向けていた。


「時刻は7時30分です。本日のニュースをお伝えします」


若い女性アナウンサーが話し、画面が切り替わる。そこに見慣れた人物の姿が映った。


「魔族対策チームは昨日、先日の第3地区の被害状況について発表しました。」


私がぼんやり画面を見ていると「忙しいな、リーダー」とキユウさんが他人事のように横から呟く。

歳の割に若く見せようと頑張っているのだろうが、顔のシワや目元のたるみが誤魔化しきれていない姿が画面に映っている。


「…お父さん今日こっち帰ってきて仕事するのかな。」

私が聞くと、「さあな」とサクちゃんもぼんやり返して別の話題に変わったニュースの音量を下げる。




魔族、というものが存在している。

魔族は人の生き血を吸って生きていて、致命傷を負わない限りどんな傷も人間より早く治せる。この特徴だけでは吸血鬼のようだが、魔族には他にも特徴がある。

それは、「闇」と呼ばれる怪物を操れることである。闇は人の心の負の感情が集まってできるものであり、複数人分の感情が集まれば集まるほど巨大化し面倒なことになる。闇の強暴性や特性はその時々だが、魔族はその闇を支配し、闇の能力を自分のものとして扱うことができる。

その能力を生かし血を吸う為に大量殺人を犯す魔族も少なくない。



そこでできたのが「魔族対策チーム」である。魔族に対抗する武器を持ち、徹底的に魔族を調査し、時には魔族と本格的に戦闘する。

もちろん目標は魔族の完全殲滅。

…と大きなことを言っているが実際魔族に普通の人間が対抗することは簡単ではなく、人数もそんなに多くない。確かに魔族に関して詳しい機関であるが、成果はそんなに上げられていないのが現状である。



そしてこの魔族対策チームのリーダーこそ、私の実の父親なのである。



「じゃあ俺仕事戻るわ。」


トーストを食べ終わったキユウさんが席を立つ。その姿を目で追ってサクちゃんが笑った。


「大変だな、今までサボってたツケが回ってきて。」

「うるせー。」


嫌味っぽく言われてキユウさんは舌打ちするとリビングを出て行く。

私もトーストを食べ終わると席を立った。


「私ももう行くね、サクちゃん。」

「おう、気をつけてな。」


私とキユウさんの分の皿を片付けながらサクちゃんが軽く手を振る。

私はリビングを出ると一度鞄を取りに部屋に戻り、それからまた長い廊下を歩いて玄関に向かった。



キユウさんやサクちゃんは私の兄弟でも家政婦でも居候でもない。二人は立派なチームの職員である。

そもそも私が住んでいるのはチームの本部。さっきいたリビングだって実質は職員の休憩室だ。普通に暮らしているだけで何人もの職員と会う。

その職員の中でも私と仲がいいのがキユウさんとサクちゃんだ。


キユウさんはだらしないし仕事もサボりがちなだめな職員だが、なんだかんだ言いながらいつも私のことを心配してくれる。

サクちゃんは本名はサクマという。しっかりもので、だらしない私とキユウさんの面倒を見てくれるし仕事もできる。

二人とも事務仕事もするが魔族とも戦闘できる技術がある。もうチームで働き始めて長いし、お父さんからも信頼されている。




実はもう一人、私達三人と仲が良かった職員が昔いた。でも、その人はきっともう戻ってこない。



今でも夢に現れる。

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