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12、13「見落とされた可能性」

    12


 部屋に帰ってきた僕は、今日の出来事を仔細にノートした。二時間近くもかかってしまって、我ながら厄介な日課だと思う。しかしこれも仕事だから仕方ない。桜野の傍にいるために凡人の僕が唯一できることなのだ。

 部屋の入口にはソファーをひとつとテーブルをひとつ置いてバリケードとしている。錠がないのでそういう策を取るしかない。扉が内開きなのは幸いだった。もしかすると、はじめからこれを見越しての設計なのかも知れない。

「あ……」

 閃きが起こった。僕はノートを手に取り、この塔にやって来たところから読み返した。

「そうだ……見落としていた……」

 ある可能性に気が付いた僕は、途端に寒気に襲われ、他に誰もいない室内をキョロキョロと執拗に見回した。

 この塔を建てたのが獅子谷氏というのは間違いがない。この塔には、数々のギミックが仕掛けられている。たとえば、獅子谷氏の部屋の扉が〈針と糸のトリック〉を拒絶する造りをしていた等だ。

 今日の朝、義治くんが、獅子谷氏がはじめからいないことによって、あの〈密室からの消失〉は説明できると云った。これがいけなかったのだ。あのとき植え付けられた先入観……それを鵜呑みにしなかったという点において、無花果ちゃんの推理は優れていた。無花果ちゃんは、獅子谷氏が首切りジャックふんする枷部さんに殺害された可能性を指摘した。だが枷部さんが殺されて、それは間違いとなってしまった……。

 ここで今一度、立ち返ろう。

 この白生塔の内部に犯人が潜んでいることは明白だ。無花果ちゃんを犯人と考えている杭原さんはともかくとして、枷部さんの首の出現状況から、その犯人は僕らの知らない犯人――首切りジャックかも知れない――と判断されている。だが、見落としている。

 獅子谷氏が生きていて、殺人を繰り返している可能性。

 それははじめ誰もが思い至るケースなのに、義治くんの推理から、気付かぬうちに盲点に入っていたのだ。

 これが獅子谷氏の狙いだったなら……。

 僕はまた身震いし、ベッドに潜った。


    13


 後から思い返せば、僕はこのときに真相に気付いていてもおかしくなかった。取っ掛かりを掴んでいたのは確かだったのだ。

 もう一歩、思考を進めてさえいれば……。

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