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相合傘

作者: 日向真
掲載日:2015/07/17

 遅れた梅雨と台風の時期が重なった。

 ここ一週間は雨の日が続いた。

 今日の予報では久々の晴れらしいが、油断してはいけない。

 放課後、湿った温かい空気は雨を降らした。

 機関銃を掃射したような地面を打ち据える雨だ。

 ここ最近の雨続きで傘を準備している人もいれば、覚悟を決めて走る人もいる。

 家族が車で迎えに来る者もいるがそれは少数派だろう。


 生徒会の仕事があってボクはすぐには帰れなかった。

 校舎と体育館を繋ぐトタン屋根を叩く音がした。

 今が雨のピークなのだろう。遠くから雷の音がする。

 正面玄関の下駄箱近くの傘入れを見て安堵する。

 盗まれてなかった。

 今日のような日のために準備しているボクの名前入りの傘があった。

 名無しのビニール傘なら盗まれてしまうだろう。


 玄関を抜けてすぐに一人の少女が立っていた。

 雨宿りをして家族の迎えを待っているのだろう。

 何回か見かけたことがある。

 たしか隣のクラスの女子だ。

 でも名前は知らない。もちろん話しかけたことも、ない。

 ボクは傘のボタンを押して傘をバッと広げた。

 傘を、ダダダダダッと叩く、雨の音が傘の柄を伝って手の平まで響く。


 その時だった。

 ボクを通り抜けて、さっきの少女が駆け抜けた。

 彼女のローファーが水溜まりを踏んで水の王冠をつくりながら駆け抜けていく。

 家族の迎えを待っているのではなかった。

 あるいは連絡しても繋がらなかったのか、誰もいなかったのかもしれない。

 彼女の決心がついていないところで、校舎に残っていた最後の生徒が傘をさして出て行く姿を見て決めたのかもしれない。

 ボクは彼女を追いかけて校門の手前で、彼女の手首を捕まえた。

 捕まえた手首にボクは自分の傘を握らせて、ボクは無言で走り去った。 


 ずぶ濡れになる女の子を不憫に思ったからでもある。

 でも、映画の主人公のように見知らぬ他人を助けて名乗らずいなくなる。

 というシーンに、誰だって一度は憧れて感傷に浸ることくらいあっただろう。

 ボクが好きな映画は西部劇とか時代劇とかレトロな趣味で……

 だいたいが無頼の用心棒がピンチを救い、すぐに次の旅に出るという話だ。

 雨の機銃の中を一人で走り抜けるボクの心は、多勢に無勢に一人で挑むガンマンや、敵に囲まれて窮地のサムライのような気分だった。


 次の日も、予報では晴れのはずだった。

 でも、ボクは油断していた。

 ボクのビニール傘は盗まれていた。

 そして据え置きの名前入りの傘を貸してしまったことを。

 生徒会の仕事は今日もみっちりとあり、そして今日も雨が降り続いた。

 正面玄関で立ち尽くすボクの背中から声がかかった。

 振り返ると、昨日の少女がいた。

 間近で見ると、長い黒髪に隠れた肌は白く、凛とした顔立ちだった。

 ボクは赤面して声に詰まった。

 彼女もしゃべらない。

 おとなしい子なのだろうか。

 傘を一本、胸に抱えている。


 彼女は傘をボクに渡した。

 お礼の言葉を、どもりながら言った。

 小走りに玄関を抜けて外へ出たが――――

 どうも、今日も、自分の傘を忘れたようだ。

 ボクは傘のボタンを押して、傘をバッと広げる。

 一人用だが、詰めれば二人はいけそうだ。

 ボクは立ちすくむ彼女の背中に声をかけた。

 

 

  

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