続く物語
俺は屋上近くの非常階段に戻ってきている。
携帯を見てびっくりしたのだが、寄土に呼び出されてからまだ10分も経過していない。
あんとき『死んで』ればよかった……か。改めて考えれば馬鹿らしいな。
俺は多分、選ばれた人間なのだ。
中二病とかじゃなく、神様とかいうやつは俺にだけ『特別』に他性別で生きることを許可した。
気まぐれかもしれないし、何かの実験かもしれない。
どちらにせよ、この先も変わらずに『柚春』と『柚姫』の間をさまよい続けるのだろう。
「よっと」
キィーと屋上への扉を開くと、世界はオレンジ色だった。
『自分もあの太陽のように、死ぬ瞬間までみんなを照らしたい』
ふと、そんなことを考えた。
屋上の太陽に最も近い位置に二人はいた。
「どう? 話は進んだ?」
「にししし!」と恵ははにかんだ。
「なかなかいいところまで進んだわ。恵、なかなかいいお嫁さんになりそうよ」
それはなかなかいいところなのか? 進みすぎだと感じるのは俺だけなの?
「また相談に乗ってもらうつもりだから、次は柚姫も一緒にお願いしますっ!」
「ったく、仕方ないなぁ」
二人で笑っていると、日尾が呟いた。
「夕陽がきれい……」
しばしの静寂。三人でひとしきり夕陽を眺めた後に俺は言った。
「じゃあ、帰ろっか」
「うん」「そうね」
「はふぅ……」
その日の夜。湯船に浸かりながら俺は考えていた。
明日も、明後日も、来年も柚姫の人生は続いて行く。柚春という思考にも、柚姫という身体にもプラスになる経験をたくさんしよう。
そうすれば、この人生は必ず価値があるものになるはずだ。そう信じてる。
「さぁて……」
俺は湯船からあがり、慣れた手つきで長い髪を洗い始めた。