終焉への近道(B)
来たのは裏庭。屋上からは校舎が邪魔で見えないはずだから、その点は安心できる。
「で、話って?」
「お前、尋ねるときの言い方とか、立ち話するときの脚の微妙な組み方とか、ペンの持ち方とか、考えてるときに前髪を触る癖とか、全部全部、柚春と同じなんだよ。
こんな細かいことが偶然? いいや、ありえない。霜北 柚姫。お前、本当は……」
「霜北……、柚は……」「姫だよ!」
自分でも驚いた。こんな風に相手を遮って叫ぶなんて、普段の俺は絶対にしない行動だ。
でも、それが行動に出てしまうほど、『霜北 柚春』という名前をフルで呼ばれてはならない気がした。
「でも、絶対……」
「それは勘違いだと思う。私は私としてこの世に生まれてきて、霜北 柚姫として育ったの」
先刻も述べたように、初めとは違って今はかなり苦しくなってきている。いつもバカみたいに騒いでいた男子共とは距離を置かざるをえなくなった。引き換えに、たくさんの女友達ができた。
「偶然に偶然が重なっちゃって、寄土くんがそんな勘違いをしちゃうことになったんだと思う」
「霜北……」
滲む涙を堪え、俺はこう言った。
「私は霜北 柚姫! 同じ苗字で仕草も似ているシモキタくんとは別の人間よ」
自分の口から出たとは思えない、柚春としての俺を全否定してしまうような言葉だった。
でも、きっとこの選択が正解のような気がする。
「そっ、か。何回も同じこと言ってごめん」
そんなに悲しそうな顔をしないでくれよ。
きっとまた、会えるはずだ。