15~過去
本日更新分になります。
暗い部屋の中で襤褸切れをまとい、カビ臭い匂いを我慢しつつ、天井をぼーっと見ていた。
頭の中ではこんなことをしている場合じゃない、もっと他の行動に移さなくては、など色々と考えが浮かんではきたが、どれも行動に移す気力は出てこなかった。
部屋の中は二人分の息遣いだけが音を鳴らし、他の音は一切無く、静かな空間であった。
考えても行動に起こせないのならもう寝ようかなと、そんな後ろ向きな考えが頭をよぎったところで、小さく くぅ~ と何かかわいらしい音が聞こえた。
自分から鳴った音ではなかったのでつい隣に座るリンちゃんの方を見ると、彼女はお腹を両手で押さえ、顔を赤くしながら俯いていた。
なるほど、お腹の音かと思ったところで自分のお腹も くぅ~ と抗議をもらした。
そういえば、木からリンゴみたいなものをもらって食べてから今まで何も食べていなかったなと思い、自分も両手をお腹に持っていった。
そこでふとリンちゃんと視線が重なり、どちらからとも無く二人で小さく笑いあった。
「…お腹減ったね。」
「…うん。」
など、お互いに意味の無い会話を続けた。
しばらく会話を続けた後、天井のほうを見ながら
「…何とかして逃げ出さないとなぁ…」
「……。」
「リンちゃんも…、やっぱり逃げ出したい?」
と、聞くまでもないことをつい聞いてしまった。
「私は……。」
そこで続きの言葉が無かったので、リンちゃんの方に視線を向けると、目は潤み、顔を歪めて泣きそうな顔をしているのが見て取れた。
一瞬何でそんな表情をしているのか分からなかったが、しばらく声をかけるでもなく見守っていると、ゆっくりと言葉に詰まりながらも答えてくれた。
「私は……、生きているだけで周りを不幸にするから…、生きてるだけで迷惑がかかるのなら…、もう諦めようかなって思って…、…でも、…自分で死ぬのも怖くて…、どうすればいいのか分からなくて…、気づいたらここに連れて来られていて…、…もう、何をすればいいのかもわかんない…。」
と、最後には涙を流しながらそう答えてくれた。
その言葉を聞いた後、先ほどまで全く動く気の無かった体が自然と動いて、彼女の頭に手を置いてその頭を優しく撫でていた。
頭に手を置いたとき びくっ と体を震わせたが、優しく撫でてあげると、強張った体から力が抜けていくのを感じた。
しばらくそのまま撫でてあげ、落ち着くのを見計らって言葉を紡いだ。
「…きっとね、どんな人でも生きてる限り、周りを不幸にすることはあると思うんだ。それを受け止めるのはとても辛いし、とても苦しいことだけど、
それでも自分は生きていかなくちゃいけないと思ってる。目を背けないで、生きていかなくちゃと。」
「でも…、私のせいで…、ママも…、パパも…、私を庇って死んじゃって…、せっかく幸せになりかけていたのに…、また私のせいで……、私の変わりにジェスおじちゃんも殺されて…、こんなの…、耐えれないよ……、辛すぎるよぉ…。」
そこまで話を聞いたとき、リンちゃんの姿と昔の自分の姿がダブって見えた。
小さいころに、自分を庇って死んだ、母親の前で泣いている自分の姿に。
「……。昔ね、今のリンちゃんのようにね、自分で抱えきれない子がいたんだけど、…その子はね、ある言葉を聞いて諦めることが無くなったんだ。
その言葉をリンちゃんにも教えてあげるね…。きっとリンちゃんにも届くと思うから…。」
そう言葉にすると、リンちゃんは泣きながら俯いていた視線をこちらに向けてくれた。
その瞳はいまだ光は無く、濁った色をしていた。…でもこの言葉で希望をもってくれるだろう。そう願いをこめて伝えることにした。
小さく息を吸い、ゆっくりと言葉にしていく。
「君は死んだ人の想いを、その人の気持ちを無駄にするのか。君の為に死んだ人のその心を、君は受け止めれないといい、ここで捨てていくのか。
君は死んだ人のことをそれだけしか愛していなかったのか、その程度の想いしか持っていなかったのか。」
自分が父親に言われた言葉をリンちゃんにも伝える。
リンちゃんはその言葉を聞き、こちらの目を真剣に見つめながら
「無駄になんかしたくない!、愛していないなんてことない!、でも…!、でもっ…!、……私独りで…、どう生きていけばいいか…、そんなの分からないよっ…!」
涙を流し、顔を歪めながらもこちらに本心を教えてくれた。
…ならばこちらも本心を伝えるべきであろう。
そう思い、今度は自分の思いを伝えていく。
「自分も、一人ぼっちなんだ。気づいたら森の中にいてね、何もできないままに盗賊に捕まっちゃってね…。もしここを出れたとしても行く当ても何も無くてね…。だからね、できたらリンちゃんに一緒にいてもらえないかなと思ってる。」
「…いっしょ…に…?」
「うん、一緒に。さっき会ったばかりで、こんな状態で言う言葉でもないけどね…、でも、自分は諦めたくないんだ。こんなところで諦めて、奴隷商人に売られて、そのまま生きていくなんて、それこそ助けてくれた人への冒涜だと思うから。だからこそ生きていく為に一緒に手伝ってほしい。ここから出る為に、ここから出た後、生きていく為に。」
そう言葉に出し、自分自身も激励していく。
そうだ、こんなところで諦めるわけには行かない。
まだ何も分かってもいないのに、このままBAD ENDなんて迎えてなるものか。
「こちらの事をすぐに信用してもらわなくてもいい。とりあえず、ここを出るまで、それだけでもいいから手を貸してほしい。」
そう付け加えて、リンちゃんの返事を待った。
リンちゃんは真剣な顔でこちらの瞳をじっと見つめ、その後に一度目を閉じ、しばらくしてから目を開き、こちらを見つめながら頬を緩めてくれた。
「…わかりました。まだお姉ちゃんの事分からないことだらけですけど、私もこんなところで死にたく無くなりました。私にも手伝わせてください。」
そう答えてくれた彼女の瞳は、綺麗なサファイアのような輝きをもっていた。




