第七話•武器化
「いくよ? 3、2、1っ」
「「アシミレーション!!」」
「うおっ、なんだこれ?」
結合したPSが合図の言葉を発すると共にブルブルと振動しだし、次第に目が眩むほどの白い光を放つーー。
「ま、眩しいーー」
「……ん? ナイフ?」
白い光が収まり手に握られていたのは、薄い赤と紫が混じった光の膜で包まれたナイフ?
ナイフと言っても、ステーキナイフのような物。
瑠衣の物も全く同じ物のようだ。
「物体化は、パートナーの信頼関係や思いの強さが重要みたいです。それで形や威力、そして制服の防御能力も変わるみたいですよ!信頼関係を強く結ぶ努力をして下さいね!」
ちょっと待ってくれ……。
そんな簡単に信頼関係なんて生まれないだろう。
それまでこれで戦えって事なのか?
「ぶっっ!! なんだそれ!」
愕然として落ち込む俺の肩に手を置き笑う裕次郎。
そんな人の事笑っといて、どうせお前らだって対した物じゃないんっーー
「裕次郎……どうやってそれ出したんだ!?」
裕次郎が手に握っているのは、しっかりとした形状のマシンガンのようなもの。
「普通にやったらコレが出たんだわ。に、しても……お前さん達それでどうやって……ぷっ、くくく。」
「裕次郎ったら、人の事笑っちゃダメですよ!ふー。重いです。」
そういや、武器?って言っていいのか分からないけど、裕次郎達の武器は、色が一色だな。
「裕次郎達の武器青いんだな。しかも光の膜?みたいなの出てないし。」
「そういやそうだな。俺は赤が好きなんだけどなー。真っ赤に燃えるような赤!!」
「きっと自分達のカラーが関係しているのですよ。私達カラーブルーなので。」
なるほどな……。
だから、瑠衣の紫と俺の赤が混ざってるのか。
でも、こんなナイフって無いだろ、裕次郎達の銃と戦える訳がない。
気に入ったのか、瑠衣は隣でずっとナイフ振ってるけど。
「それでは、今日は各自パートナーとの絆を深める為に、2人でお料理してもらいます! それを夜のご飯って事にしますね。失敗したら夕食抜きですよー。」
「料理だと!? 作ったことなんてねえぞ……。まあ、瑠衣なら出来そうだから大丈夫か。」
「……。」
「る、瑠衣? まさかだけど……」
どうやら料理は大の苦手で、春が料理上手だったからいつも任せていたらしい。
女だからって料理が上手だって限らないんだからってプンスカ逆ギレしている瑠衣。
……才色兼備じゃないかもな。
「あー、それと明日からクラスでペアー同士のマッチをしてもらいます! クラス代表のペアーは、一番最後まで残ったペアーと戦ってもらいますよ。」
「私達最後までなんもしなくていいんだね!やったあ!」
「んな、単純に考えるなよ。勝ち進めば信頼関係だって強くなっていくだろ。俺達の武器ナイフだぞ? ステーキナイフ。」
「言われてみればそれもそうね。じゃあ、それまで私達も信頼関係だかを結べばいいのよ!」
良い言い方でポジティブ。
悪い言い方でおバカさんなんじゃないか……。
これから国の人々を守るために命をかけて戦わなきゃいけないかもしれないのに、俺のパートナーこんなんで大丈夫なのか?
昼休みを知らせるチャイムが鳴り、ヒカリは一目散に授業を切り上げると、家庭科室を午後から借りる交渉をする為に消えって行った。
めいや達と食堂に行くと、食堂が学生で溢れかえっていた。
「なんやこれー! いでっ」
「関西人でもないのに関西弁使わない方が良いと言ったでしょう。」
裕次郎の頭にめいやがナイスチョップをかます。
「2人ってカップルみたいだなー。」
独り言の様に呟いた俺のことを、2人は不思議そうに見つめる。
「俺達付き合ってるぞ?」
「「え、ええー!?」」
「お、幼馴染って聞いたけど付き合ってるなんて言ってなかったじゃないか!」
「めいやちゃん、その、き、キスとかもしちゃってたりするの?」
「瑠衣ちゃんったら、ふふ。どうでしょうね。」
「ちょっと! 男子達! 席を取っておきなさい!」
めいやを引っ張り何処かへ連れて行く瑠衣。
なにやってんだあいつ?
「おっ、あそこ席空いたぞ! ほれ、行くぞ空!」
裕次郎がズルズルと俺を引きずり席まで行くと、なぜか急に手を離す。
「いってえ、いきなり手離すなよな。」
「ここは、俺達が座るんだー!」
振り返ると叫びながら空いている席に飛び込もうとして、空中をジャンプしている裕次郎の姿があった。
バカ過ぎる。なんでわざわざ飛ぶ必要があるんだ。
恥ずかし過ぎる、いっそ他人のフリしようか……。
「危ないじゃないか。僕のパートナーにぶつかる所だったよ。」
この声はもしや……
「おーすまん、ここの席に4人で座る予定でな。」
「すまんってそれ謝ってるつもりかい?」
春だよな。
はー仕方ない。
春が怒ってるし俺も行くしかないよな。
「ごめん春、この赤髪は俺の連れなんだ。今から瑠衣とかと座る席を取ろうとしてくれてさ。」
俺の姿を見て呆れ顔をしながら深い溜息をはく。
「空のお友達なんだね? まあ、瑠衣姉ちゃんの為なら許すよ。でさ、空は信号コンビでも組みたいの?」
「んな、こいつ誰なんだ? 俺らをバカにしとるぞ!」
「赤と黄色!本当ですの……。」
春の後ろでぶつぶつ言っているのは、麻衣美だな。
それよりも、なぜか春ずっと機嫌悪いような気がする。
俺なんかしたっけか?
「良かった! 席取れたのね?」
「パンと飲み物買って来ましたよ。」
ちょうど良いタイミングで2人が帰ってきてくれた。
「あれ? 春じゃない! 一緒にご飯食べる?」
「いや、遠慮しとくよ。行こう麻衣美。」
瑠衣にまで冷たいなんてやっぱりおかしいよな。
なんかあったのか?
「ここ人いっぱいだし、中庭で食べませんか?」
何か察しためいやがみんなを連れて中庭へ行こうとする。
「せっかく取ったのに」と文句を言う裕次郎をうまく慰めながら手をつなぎ歩きだす。
「瑠衣、春のやつ機嫌が悪かっただけだろうから気にすんなよ?」
「……。」
なんでなんも喋らないんだ?
そんなにも気にしてるのか……。
「てっ、て」
「てって? 瑠衣顔真っ赤だぞ!?」
「手繋いでる……手を繋いで……絆強くなるかな?」
顔を真っ赤に染めながら俺に右手を差し出す。
ちょっと待って!! 春の事で落ち込んでたんじゃないのか?
手を繋ぐって……おいおいおい!
俺までみるみる顔が赤く染まっていく。
「なにしてんだよ。あいつらは付き合ってるから手を繋いでるんだろう?」
「そうゆう事なの? めいやちゃんが、信頼関係も絆も私達は自信がありますって言うから2人を見習えばいいと思って……。」
「カップルと一緒にするな!」
「なによ! 私が彼女だったら嫌って事?」
あー、違うだろう。
そうじゃなくて、なんで分からないのか……。
「違くてさ、じゃあ俺と付き合う?」
「はあ? 嫌よ!」
「そうだろ? だから俺らには俺らなりの信頼関係の結び方ってあるんじゃないの?」
「……そうだよね。ごめん。私早く強くならなきゃって焦ってた。」
照れた表情から一変して、暗い表情になる。
瑠衣は、よっぽど外に居る大切な人を守りたいんだろうな。
なんか複雑そうだし義理の妹の事は聞くに聞けないな……。
参ったなあ。
「早く食べないと、昼休み終わってしまいますよー。」
校舎の入り口付近でめいやが手招きをしているのが見えて、瑠衣が笑顔に戻り走っていき俺も追いかける。
中庭でたわいも無い話をしながら昼食を食べている間、瑠衣がジーっと、めいやと裕次郎を観察していた。
「なんで、さっきからそんな俺らを見てるんや?」
「な、何でもないわよ!」
「ふふ、瑠衣ちゃん面白いんですよ。さっきもーー」
「あー! ダメ! めいやちゃんその事は秘密にして!」
慌てふためく瑠衣。
さっき何を話していたんだ?
気になる……。
「さっき女2人で何を話してたんや?」
良いタイミング!
でかした、裕次郎!
「裕次郎は、悪魔よ! めいやちゃんに気を付けてって言ったの!」
「どうして俺が悪魔なんや! でも……強そうだからありかもしれんな。」
またまた、めいやがチョップをかます。
「納得しないで下さい。そして偽関西弁!」
「2人に馴れてきた証拠だからええやろ! 俺流関西弁に慣れてくれ。」
「悪魔! 人食い虫!」
2人が言い合いしている隙に俺の横に、めいやがきて耳打ちをする。
「瑠衣ちゃんが恋人達がキスをするのは、男が女の魂を食べているからと教わったらしいのです。可愛くて面白いので、食べられても良い程大好きなのでいいですよ。って言ったので。」
よほど大事に育てられていたのだろうか。
よく、キスしたら赤ちゃんが出来るとか聞くけどその例えは無いだろ……。
そして、めいや最初の印象とだんだん違くなってきたな。
掴めない性格だ……。
昼休みも終わりの時間に近づき教室に戻ると、電子板に直接家庭科室に来るようにと書かれていた。
地獄の調理実習が始まろうとしていた。