第四話•パートナー
目が覚めて1番にPSを確認するも春から返信はきていなかった。
今何時だ?
……。
やっべえ! 遅刻なんてもんじゃない!!
時刻は11時過ぎ、もうとっくの前に学校は始まっている。
完全に寝過ごした。
「すみません。寝坊しました!……あれ?」
入学早々に遅刻して、冷たい視線を浴びる覚悟をして教室に入ったものの、遅刻して入ってきた俺に誰一人として気付かない。
それもそのはず、教室の中央当たりに皆が集まり何か揉めている様子。
担任もいないみたいだな。
良かったー。
何事か気になり、人をかき分け中心を見ると瑠衣が男子達に囲まれていた。
「俺のパートナーになって下さいよ。」
「何言ってんだ!巣鴨は、俺のパートナーになるんだ。」
「僕も58パーセントで相性良いですよ。」
瑠衣が男子に腕を掴まれ、左右から綱引きのように引っ張られている。
周りに集まっている男子全てが瑠衣とパートナーを組みたがっている連中のようだ。
「ちょっと、やめてって言ってるでしょ! 痛いってば! あんた達なんかとパートナーにならないんだから!」
周りに女子共も集まっているが皆冷やかな目で見ているだけだ。
女の嫉妬ってやつだろう……。
正直怖い。
でも、ほっとくのまずいよな。
あんな人数の男子達で押さえたら瑠衣だって逃げれないだろう。
助けるか?
いや、なんて言って助けに入ろう。
むしろ昨日気持ち悪いって言われたしな。
悩みウジウジしていると瑠衣が俺の姿を見つけて叫ぶ。
「!? 穂白空! そうよ、私はあの人とパートナーを組むから! 相性92パーセントなんだからっ。」
男子達の視線が一気に俺に向けられる。
その中には殺意さえ感じれるような目つきをした奴もいる。
こえーよ!
マジでこえー。
瑠衣は、男子達が俺に気を取られている隙に腕を振りほどき、こちらに駆け寄ってくるなり、勝手にポケットから俺のPSを取り出し接合した。
前に同期したからか、すぐ画面には『パートナーにします』が表示され瑠衣は迷わずボタンに指をのばす。
「ちょっとお前! こんな簡単に決めていいのかよ?」
「いいの! あんな奴らとなんか絶対パートナー組みたくない。」
微かに瑠衣の肩や手は震え、目には涙さえも浮かんでいた。
今にも壊れて消えてしまいそうな、瑠衣を見て俺は考える。
俺がもっと早く助けてれば。
いや、遅刻なんてしなきゃ。
瑠衣なら大丈夫って思った俺が馬鹿だったんだ。
自分でも不思議に思うが、昨日初めて会ったばかりなのに、なぜか異常なまでに大切な存在に思えた。
『パートナー登録完了』
脳内に完了された事が伝達される。
それを見ていた男子達は、諦めた様子で俺を睨み付けながらも新たなパートナー探し消えていった。
「ごめん。無理矢理パートナーになってもらって。」
「いや、いいんだ。さっきの話を聞く限り多分俺たち相性良さそうだし。」
「ありがとう。確かに今日10人以上と同期したけど、みんな60未満だったわ。」
「何で相性って決められてるんだろうな? とりあえず5年間よろしくな。」
「こうなったら仕方ないわね、うんうん。」
ついさっきまで、元気がなかったのに、コロッと元に戻っていた。
女ってわからねえ……。
とりあえず元気になってよかったが。
「……大丈夫です?」
俺らの背後から、か細い蚊の鳴くような小さな声がして、振り向くと髪をツンツン立てた体育会系の赤毛の男と、隣に並ぶ、小柄で淡い栗色の髪をした物静かそうな可愛らしい子が立っていた。
「助けにいこうと思ったのですが、裕次郎がまだだって止めるもので……。」
「あ〝あ? 俺のせいにするのか? あの状況で既にパートナーを組んでる俺らがのこのこ行っても無駄だから、ちゃんとした助け方を考えてたんだろうが。
まあ、いよいよ助けにいこうとしたらヒーローが登場したんだけどな。」
えっ? ヒーローって俺?
自分の事を指差すと、二人が同時に仲良くうなづいてみせる。
「私は、美月めいやです。
隣に居るのが岩侍裕次郎。
私達は、幼馴染で昨日学校帰りにパートナーを組みました。というより組まされました。」
「人聞き悪い言い方するなや! 変な奴とめいやが組まなくて済むように、俺様が組んであげたんだろうが。」
「余計なお世話です。裕次郎以上に変な奴は居ないと思います。」
2人のやりとりを見てる瑠衣がクスッと笑う。
「頼むから笑わないでくれ、俺変な奴じゃないからな?」
「あなた達面白いわね! ありがとう心配してくれて。」
「空だよな? さっきそこの姉ちゃんが名前叫んでたからよ。よろしくな!」
「叫んでなんかないわ!」
瑠衣が耳まで真っ赤に染めながら叫んだ事を否定する仕草は何とも可愛らしい。
「おう、よろしく!」
「今日からパートナーが決まった人達は月曜まで学校休みらしいですよ。今から食事に行くので良かったら一緒にいかがです?」
俺らはその提案にのり、食堂へと移動して、しばらく四人でくだらない話をしながら談笑していた。
中学も学年10人ほどしか居なくて、誰とも特に仲良く出来なかった俺は、同世代と仲良く話しているのが不思議な気分だった。
何時間かした後解散して、瑠衣と2人きりになる。
ーーパートナーを組んだ同士のみ寮の行き来も承諾されるらしく、年頃の男女が良いのかよって思いながらも自分の部屋へ瑠衣を招待することになった。
別にやましい気持ちは無いからな?
弟に会いたいと瑠衣が言うから仕方なく招待したんだ。
「質素な部屋ねー。」
「うるせえ! 男は黙ってシンプルでいいんだ!」
「空の髪の色はどう見てもシンプルじゃないけどね。」
瑠衣がイタズラな顔をしながらペロッと舌を出す。
瑠衣はいちいち図星を差し痛い所をついてくる。
賢そうだし、まさに才色兼備だよな……。
こんな俺なんかとパートナー組んで良かったのか?
色々と考えていると、ガンガンと乱暴に扉を叩く音が部屋に響く。
こんな事してくる犯人は春しかいない。
扉の鍵を開けると、一目散に瑠衣の元へ抱き付きにいく春の姿がみえた。
「良かった! 空に何もされてない?」
「大丈夫よ。」
「まさか空とパートナー組むなんて。」
「私も聞いて驚いたんだから、空と知り合いなんて。」
二人はまだ抱きしめ合いながら会話を交わしている。
美男美女で抱きしめ合う姿はまるで映画のワンシーンのようだ。
でも、姉弟だ。
それを考えると少々気持ち悪く感じてきた。
普通姉弟ってこんな感じなのか?
春の顔を見ると目元には薄っすらとクマが出来ていた。
まさか一睡もしていないのか?
昨日のままの部屋着だし。
「春あれからずっとーー」
春は俺と目が合うと瑠衣に見えないよう、クビを横に振った。
瑠衣の前で話すなって事なのか?
「どうしたの?」
ようやく2人は抱き合うのをやめ、ベットに座った。
俺はもちろん床だ。
所詮そんな扱いだ。
「何でもないよ。」
「あれ? 春学校は?」
「僕はパートナーが決まってて、今朝パートナーから月曜日まで休みと聞かされたから。」
「そうだったんだ。」
「とにかく無事で良かった! 今日は、連絡先交換して寮へ帰りな?空寮の前まで送ってくれ。」
「ああ、いいぜ。」
2人が連絡先を交換して、俺が女子寮の前まで瑠衣を送り部屋に帰ると、春が俺のベットで豪快なイビキをかきながら寝ていた。
相当疲れてるんだな。
はあー、ソファもない唯一の俺の場所占領しやがって。
ベットの柱に、もたれかかりPSをいじっていたら、いつの間にか寝てしまったようだ。
俺どんだけ寝れるんだ……。
人生のほとんどを寝て過ごしてるな。
起きた時春の姿はもう無くて、俺の身体の上には毛布がかけられていた。
結局月曜日まで春から連絡が来ることもなかった。