第三話•予兆
エレベーターを降りた時、俺の部屋の目の前に人の影が見えた。
「空! 遅かったじゃないか! 色々話したい事があって待ってたよ。」
俺の帰りを待っていたのは、今朝親しくなったばかりの春。
男子寮だから当たり前だが、可愛い女子が待ってるなんて事はない。
春は待ちくたびれた様子でその場にしゃがみ込む。
……そうだ!!
何で忘れてたんだ? 春の苗字が巣鴨だ!
って事は、春の姉なのか?
「もう終わってたのか? そういや巣鴨瑠衣って奴とクラス同じだったけど、もしかして朝言ってた春の姉?」
「まさか! 瑠衣姉ちゃんとパートナー組んだの?」
高速でスクッと立ち上がり、俺の肩を勢いよく掴む。
俺は、春のあまりの動揺っぷりに驚いて壁に激突した。
「なにそんな動揺してんだよ? してねーよ! 隣の席だから同期しただけだ。」
春は安心したのか、肩の手をスッと離し爽やかに髪をかきあげる。
「それなら良かった。僕の姉可愛かったでしょ?」
「そこかよ!? まあ、可愛かったけど性格がなあ……」
「性格がキツイのは、男嫌いだからだよ! 変な事したんじゃないよね?」
「まっ、まさかしてねえ! まず全然俺のタイプじゃねえ!」
いや、もろタイプなんだけどさ……
気持ち悪いって言われた手前否定しておこう。
「そう? ふーん。まあ、時間も時間だし昼食食べながら少し話さない?」
「そうだな、腹減ったわ」
ーー学食に着き席に座ると春が俺の目の前にPSを置いてくる。
「急になんだよ?」
「同期して連絡先だけ交換する!
何か姉にあったら連絡してよ。」
「男同士で出来んのか?」
「説明受けてないの?」
詳しく何も説明されなかった事を言うと、春がPSについて知ってる事を話してくれた。
「パートナーは男女間のみだけど、本来の目的はコミュニティフォンだから性別問わず同期出来る。
連絡先は誰とでも交換出来るみたいだよ?
僕は隣の女子が先走ってボタンを押してパートナー決まっちゃたんだけどね。
パートナーと協力しなきゃならない授業ばかりらしいから、僕としてはちゃんと選びたかったよ。」
ふーん、なるほど。
あのヒカリって新米その辺言ってなかったな。
たっく……適当なやつだ。
食事を終え、連絡先を交換し春の部屋にテレビがあるとの事で、お邪魔する事になった。
ーーくっ、全然俺の部屋と違う!
春の部屋は、高級そうな絨毯が敷かれ、大型のテレビと部屋の真ん中にソファーが置いてあった。
「いっぱい家具をアンケートに書いたらこんな部屋だったよ。
窮屈で申し訳ないけど、ソファーにでも座ってて。」
春が制服から部屋着に着替え出す。
チラリと見えた制服のポケットラインが紫色をしていた。
「お前もバイオレットなのか?
瑠衣もバイオレットだったぞ。」
「そうなの?」
着替えている春を見ているのは何か嫌な気持ちになり、デスクの方へ目を向けると写真立てが置いてある。
瑠衣と春と小さな女の子?
あいつこんな顔して笑えるんだな。
写真は、瑠衣が春と小さな女の子を両手に挟みながら満面の笑みを浮かべている物だった。
「DNAの関係かな?」
「ふぁっあ!? ああ、わりい!DNA?」
瑠衣の笑顔に見惚れ、春が着替えを終えて隣に座っていた事に気付きもしなかった。
「そっ、家族だからカラーが同じでもおかしくないかな? って思ってさ! たまたまだけど、パートナーもバイオレットだったんだよね。」
「ああ、なるほどな。」
確かに親が同じ血縁者ならおかしくないよな。
「明日色んな男達と同期する際に、必要以上に絡まれていたら助けてあげてくれないか?」
うっ、「もちろん! 俺が守るよ!」と言いたい所だが、あまり人と絡んだ事がないからそうゆうのは苦手だ。
「あの性格なら自分で解決出来るだろう。」
「そうだといいんだけど、女の子は意外に弱いんだよ? 空君?」
春は、不安でしょうがないらしい。
そりゃ、あれだけ可愛ければ心配にもなるか。
「まあ、何かあったら助けるよ。」
こういう時お決まりなセリフ「何かあったら」を使い、何もない事を願い、テレビの電源を勝手につける。
午後だからワイドショーみたいな番組しかやってないな。
「日本の秘密を私たちは知る」と何とも胡散臭いネーミングのテロップが流れる番組を仕方なく見ることにした。
「えー、私は匿名者に聞いてしまったんですよ、日本の恐ろしい計画を
。」
「どんな計画なんですか?」
「今日本は必要価値のない人間で溢れかえっているから、必要価値のない人間を排除する計画があるとかないとか。」
「それが真実なら殺人ですよ! 恐ろしい事ですね。」
明らかに誰が見ても分かるようなカツラ頭丸出しな男が、興奮しながら激しく手振りをつけ解説している。
アホらしい……。
何月何日に世界が滅びるとかそうゆうのと変わらないな。
春が「馬鹿馬鹿しい。」と言いながらブツリとチャンネルを変える。
「はー。何か面白い番組もないし、夜暇だったらまた連絡するわ。」
「ああ、分かったよ。」
暇だったらってか、絶対暇なんだよな。ゲームも出来ねえし。
昼寝でもするか。
ニートで引きこもって体力がなくなった為か少々疲れを感じていたし、寝る事に決め、部屋へ戻り制服のままベッドに横になると数秒で眠りにつけた。
俺の眠りはPSへの着信で覚まされる。
起き上がると部屋は真っ暗で、暗闇の中光るPSだけが眩しく光っていた。
今何時だ? いつの間にか真っ暗じゃねえか。
時計を見ると時刻は、深夜2時を回っていた。
電気を付けると、今度は部屋の扉がノックされる。
「だれだよ、こんな時間に。」
「空? もう寝たのか? 起きてくれ!」
ドアの向こうから聞こえてくるのは、春の声。
鍵を開けた途端、春は何も言わず俺の腕を引っ張り自分の部屋へと連れていく。
「どうしたんだよ?」
「いいから! PC見て!」
強引に起こされた事もあり機嫌が悪かったが、春があまりに真剣な眼差しでPCを見つめるので渋々覗き込む。
「これ……。昼間のオヤジじゃねえか。」
PCに映されていたのは、首を吊って死んでいる昼間テレビで見たズラオヤジだった。
場所は倉庫のような所で、ピントがズレていてちゃんと見えないがあと数名同じく首を吊って死んでいるように見える。
「集団自殺か?」
「いや、違うと思う。」
記事を下の方へスクロールすると、もう一つ画像がある。
国を脅かす物達、必要価値のない人間達?
ワイシャツの腕の部分にマジックのような物で殴り書きされている箇所がアップされている画像だった。
「なんだよこれ。国に殺されたって事か?」
「いや……。国がこんな分かりやすく殺すとは思えない。」
「じゃあ、やっぱり自殺なんじゃないのか?」
「分からない。でも何か妙なんだ。年齢層も性別もバラバラで集団自殺って。ちょっと調べてみるよ。」
「じゃあ」と手を振りpcで調べ事を始める。
人を無理矢理起こしといて、用が済んだら次は帰れかよ。
「はあー。もう寝るわ。」
「おやすみ。」
何のために呼んだんだよ。
あーちくしょう! もう一度寝れるか?
でも、本気な話あのオヤジ確かに妙だな。自殺するような奴に見えなかったし。
部屋へ戻ると、PSにメッセージが入っていてメールマークを押すと脳内に春の声が流れる。
「たった今ネットからあの記事が消えたよ。
それに関連するようなワードを検索しても一切出てこない。
強制ワードブロックされているみたいだ。昨日の番組も俺らが消した直後強制的に終わったらしい。気になるからしばらく探ってみるよ。」
メッセージも脳内に流れるのか。
というか、あんな人の死んだ画像がネットに流れてちゃ普通にマズイから消えたんじゃないのか?
そんな簡単な事の訳ないか?
返信ボタンを押すと録音開始と送信ボタンが表示され、録音開始ボタンを押す。
「聞こえてるか? 確かに変だがあまり首を突っ込まない方がいいんじゃねえか?」
短く返信をし、起きたばかりであまり頭も働かないので、そのまま眠りにつくことにした。