第二話•出会い
寝過ぎでガンガンと頭痛がして目を覚ます。
軽く寝癖を直しクローゼットを開けると新品の匂いがする制服が用意されていた。
スーツのような黒い制服で、胸のポケットには透明なチューブ状のラインが入っている。
スーツに着替えおもむろに鏡の前に立つ。
やっぱり髪色を金髪にしたの間違いだったか?
スーツに金髪じゃ、まるで一昔前のホストみたいだな……。
髪色は、一回染めるとまたメディカルファッションクリニックに行かなければ変えれない。
伸びてくる髪の毛も染めた色で生えてきてくれるので、めんどくさがりな俺にはぴったりなんだが。
今はDNAを変換する注射一つで、髪色も目の色も肌の色も変えられる。
最初は、人体への危険性が恐れられ試す人も少なかったが、メディアなどで安全だと数年言われてる内に危険視する者は、ほとんど居なくなった。
ーー支度が終わり部屋から出た途端自分より頭一つ分背の高い男にぶつかりよろける。
「おっと、ごめんよ。」
その男は上から小さな女を見るように俺を見下ろす。
ちょっと待て、俺176cmだぞ?
先輩か?
でも、俺より上の学年は居ないよな。
「いや、俺も急に飛び出したからわりいな。」
近すぎて顔が見えなかったので、一歩下がり男の顔を覗く。
なんなんだ! このイケメンは!!
美形で背が高くて。
黒髪なのに無造作に整えられた髪型がオシャレでかっこいい!
それに比べて俺……金髪にまでして高校デビューみたいじゃねえか……。
むしろ高校デビューか。
「僕は、1年の巣鴨春ていうんだけど、もしかして君も1年? 良かったら食堂まで一緒に行かないかい?」
「俺は1.5年だ!! 1.5年の穂白空。 別に構わないが、食堂までって場所知ってんのかよ?」
たかが1学年しか違わないのに、意地を張って強調してみる。
確かに春って奴の方が俺より数倍大人っぽいな……。
「先輩か! 失礼したよ。僕の姉と同じ学年なんだね。
場所は、昨日pcで確認済みだから着いてきて。」
タメ口か……舐められてるな。
でも、場所も分からないし、探すのも面倒だ。ここは大人しくついて行くか。
「そういや、確認してなかったわ! 案内よろしく。」
高校生になったら、たくさんの人に慕われ憧れられるクールな男を目指す筈だったんだが……。
初日2日目から自分よりクールな年下の男に出会い、ふざけた目標が早くも崩れ去る。
学食に着いて結局春と朝食を共にし、色々学園についてなどを話す内にすっかり仲良くなってしまった。
あっという間に、学校が始まる時間がきて別々に指定されていた教室へと向かう。
教室に入るとほとんどの人がもう席に座っていて、急いで教卓前の大型電子スクリーンに表示されている席順から自分の名前を探しだし席につく。
「おっはようございますー!!
新入生説明担当の間宮ヒカル(まみやひかる)です!」
気付かぬ間に教卓には、アニメに出てきそうなピンク色した胸下まである髪をなびかせる、深い緑色の目をした20代全般の派手な女が、目をキラキラさせ教卓に両手をつき立っていた。
顔は可愛いけど、あれメディカルやり過ぎだろ。
元の顔がもったいねえ。
「……人間離れしすぎ。」
ボソリと隣から小さく呟く声が聞こえる。
隣の席には、艶やかな黒髪ロングの薄い茶色の目をした絶世の美少女が座っていた。
あまりの美しさに雷に打たれたような衝撃をうける。
すっげえ可愛い!
この言葉しか出て来ない。
美少女が俺の視線に気付き、まるでゴミの山を見るような目つきで見つめてくる。
まさか、さっき食べた朝食のカスが顔についているのか? 口の周りを触ってみるが何もついていない。
「何見てんのよ? アホずら時代遅れの金髪馬鹿。気持ち悪いからこっち見ないで。」
違かったらしい。
俺の存在自体がゴミに見えていたんだ。
美少女の口から出てくると思えないキツイ一言……。
真っ白な透明感のある長い脚を組み直しながらプイと前を向く。
気持ち悪い……。
気持ち悪い……。
気持ち悪い……。
アホずらで、時代遅れの金髪。
ショックのあまり何も言い返す事が浮かばず言い返す事が出来なかった。
騒がしく一生懸命ヒカルが喋っているので仕方なく逃げるように教卓に目を向ける。
「はい、みなさん! 注目! ちゃんとPS持ってきたかな?」
ヒカルが電子パネルに、昨日箱から出したスマートフォンみたいなのを表示させると、クラスの皆がポケットや鞄からそれを取り出し机の上に置いた。
「みんなちゃんと持ってきたの偉いねー! 今日は、PSと自分自身を同期してもらうから、先ずはPSの下の方にある蓋をペンか何かで開けて針に親指を刺してね。」
「何の為にPSとやらに同期するのですか?」
隣の美少女がヒカルに疑問を問うと、ヒカルは少し困った表情をしながら首を傾げる。
「私も説明受けたばかりだから詳しい事は分からないの。
でも、学園で安全に暮らしていく為の物だって聞いているよ?」
「そんな! 使用用途を先生が良く理解していないのに生徒に使わせるんですか?」
「ううぅ……。」
ヒカルは涙目になりながら、美少女からの鋭い質問に返す回答を考えている。
「とりあえずやってみればいいじゃん。」
クラスの誰かがそう発言すると、次々と見様見真似で針に指を刺し始める。
人って周りがやると警戒しながらもやり始めるよな……。
よしっ、仕方ない俺もやるか。
ペン先で蓋を開け親指を針に刺す。
プスリと音がしたが痛みは全く感じない。
強麻酔か?
よくメディカルでも部分強麻酔は使われる。
特に目の色を変える時には絶対必要不可欠だ。
PSの画面が白く点滅し、OKと表示される。
「OKが表示されたら、指を外していいみたいだよー!」
ヒカルは手元にある説明文を必死に読みながら話していて全然生徒の方を見ていない様子。
指を外すと同時に針があった部分が閉まり、脳に直接インドのような不思議なメロディが流れ出す。
音楽が止まると機械じみた声が話始めた。
『PS同期完了シマシタ。幌白空•A型•レッド•生命ゲージ100』
脳に直接音が伝達される!?
こんな技術ネットでも見たことも聞いた事もねえぞ?
「カラーって、ブルーとレッドそして本当稀にバイオレットってあるんだって!」
「ヒカル先生ー! 生命ゲージってなんですか?」
「え? ええっと……。」
生徒に聞かれたヒカルは、慌てた様子で説明書から生命ゲージについて探す。
「か、書いてないよぉ……多分健康ですよーって事じゃないですかね?」
まあ確かにそれっぽいが……。
適当過ぎません? 仮にも先生でしょうが……。
「私紫だ。」
寝言のような独り言を呟くので無意識に横に視線がいく。
机の上に、神様からの極上の贈り物を2つ乗せている場所へと目が奪われる……。
で、でけえ!!
顔にしか目がいってなかったが、この美少女はどれだけ神に恵まれてるんだ!
ん? さっきと……。
「!? 変態男どこ見てんの! 信じられない。」
気付くと自分でも知らぬ内に、顎に手をやり胸元を食い入るような体制になっていた。
いや、違うんだ!!
違う決して、巨乳だから見ていた訳じゃ……。
「ち、違うっ! 誤解だ! 制服の胸元のリボンの中央と胸のポケットのラインの色が変わってるぞ?」
「えっ? 何誤魔化そうと…… 本当だ。紫になってる。あっ! あんたも赤になってるわよ。」
「わっ、マジだ! 赤になってる!」
透明だったラインが赤になってる?
制服まで同期だと?
「えーっと、体内に血液中対応マイクロチップが埋め込まれたので、PS及び学園内で支給された指定物に同期されます。
PSは、学生内のコミュニティフォンとする。らしいよ? あっ! 渡し忘れてました!」
教卓脇に置いたクリアケースからプリントの束を取り出すと、席に配り始めた。
「学生へ、PSについて??」
いまさら? 渡すの忘れんなよ。
『生徒諸君へ。
PSは、日本の研究者が発明した、DNA同期型次世代フォン。
出生率が少ない為、子供同士のコミュニケーションが減少し、成人までの思考設計が崩壊しつつある。
それを、改善する為に正常な思考を持った成人へ成長出来るよう同世代同士のコミュニケーションをはかるように作られた物である。
PSを通し国で個人のDNAを監視し、学生達を安全に守るとする。
これよりたくさんの人と関わり合いを持ってもらう為に、他人のDNAと同期し協調性をはかってもらいます。
』
意味がわからねえ……。
監視だと!? ただ実験動物にされてるだけじゃねえか。
「…………。」
俺の頭では理解出来ずに周りを見渡すと、隣の美少女も他の生徒も皆無言で渡された紙を読んでいた。
「あっそれと、今日は手始めに隣の席の方と同期してみてくださいね!
PS同期には相性があるようで相性パーセンテージによって来週にクラス振り分けがあるようです!
明日から教室にいる皆で交互に同期してもらい、自分にとって相性が良かった物同士学園生活で協力するパートナーになってもらいます。
パートナーは、男女ペアーのみですよ!」
ヒカルがようやく説明文を最後まで目を通しきり、やりきったような表情をしながら俺ら生徒へ告げると、周囲が一気にざわつき始めた……。
「どうゆうこと?このクラス仮って事?」
「なんかめんどくせーな…ブスとパートナーになったらどうすんだよ」
「おいっやめろってそんな事言うの」
「相性ってなんの相性?」
隣や後ろの席と皆が会話を交わし教室中がパニック状態になる。
「みんな落ち着いて!!
とにかく皆には、同期してもらわないと始まらないの!
今日は、隣の人と同期してもらえば各自解散だから、午後から自由行動だよ?
正式なクラスになれば授業が始まるからそれまで頑張ってね?」
クラスの奴らが『自由』という言葉を聞いただけで、文句を言いながらも隣の席と同期を始める。
「ねえ、早くっ!」
「えっ?」
「さっさと同期して帰りたいの。」
「おっ、おう……いいのか? 訳も分からない物を使って同期とかして。」
「……。」
隣の美少女が俺の方へ向きながら無言でPSを目の前に差し出す。
不機嫌表情をしている彼女は、よほど早く帰りたいのであろう。
「でっ……どうやってするんだ?」
トボけた顔をしながら美少女に問うと、美少女は呆れた表情を浮かべながらPSを持つ俺の右手を掴みPSの下を接合させた。
「裏に図解付きで書いてあったわよ! ちゃんと読みなさい馬鹿男。」
まただ! 脳内からあの異様なメロディが流れ、声が聞こえる。
『同期確認シマシタ。
カラーバイオレット、巣鴨瑠衣。
カラーレッド、穂白空。
相性92パーセント。
パートナーにシマスカ?』
画面に『パートナーにします』というボタンが点滅している。
「あっ! まだパートナー決めちゃダメだよ!」
先生っ言うのおせーよ!
本当危ねえ。
数名間違って『パートナーにします』を既に押したみたいだ……。
「ごめんねえ。先生新米だからおっちょこちょいで。
一回パートナーになると解消出来ないみたいだからその方達は頑張ってね。」
新米とおっちょこちょいは関係ないだろ。
しかも解消出来ないのかよ!
瑠衣は、ブチッと手荒に結合を解除すると席を立ち足早に帰って行った。
「あっ、おい!」
無視しやがって……。
……巣鴨瑠衣? 巣鴨? 聞いた名前のような。
今日の課題である同期が終わった俺も、ここに残る意味がないので寮へ帰る事にし教室を後にする。