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第一話•入学


 「じゃーなっ! 親父っ。」



 半ば乱暴な声で叫ぶが、リビングのソファーに座り、イチャついてる男と女の耳にはちっとも届いていない。



 くそっ、最後まで嫌な奴らだ。



 2032年4月8日

 本来なら俺、穂白空ほろしろくうは、今日高校2年生になるはずだったんだ。

 去年の4月にめでたく高校入学だったのが、国の法律だかで全ての高校を廃校にし、新たな学園を設立する準備期間があった為、中学を卒業して丸一年ぐーたらするしかない、いわゆるニート生活をしていたわけだ。

 ニート生活自体は自由で良かったんだが、家の中に自室以外俺の居場所が無くて毎日居心地が悪かった。



 ほんの一昨年前、母親が仕事帰りに事故で亡くなったんだが、親父は母親が死んだその翌日から毎晩寂しさを埋めるように酒を飲みに行って帰ってこなくなった。

 それだけならまだ良かったのに、去年から若い女を家に住まわせるようになっていた。


 その女によって、家中の空気が甘ったるい香水で侵略されて、扉を閉めている俺の部屋まで、甘えるような猫なで声を響かせる。

 それが毎日続くと、精神崩壊しかける程のストレスでしかなかった……。



 でも、その日常ともしばらくおさらば出来る。

 今日から1年遅れの「1.5年生」として、6年間完全寮制の学園に入学だ。


 40過ぎにもなって女に夢中の親父を軽蔑視しながら、顔を合わせる事もせず足早に家を後にした。



 家前からタクシーに乗って、あらかじめ指定されていた場所に着くと、数台の大型バスが停車している。

 若干遠目に覗く限り、中にはもう人がたくさん座っているようだった。



 やべえ……俺遅刻したか?



 バス前に立つ制服を着たガイドの元へ焦りながら駆け寄る。



 「すみません! 俺も今年から学園の生徒なんでバスに乗りたいんですが、どれに乗ればいいんすか?」


 遅刻したのを悟り、息を切らすフリをしながら伝えると、バスガイドがニコリと微笑みながら2号車のバスを指差す。


 「君で最後だよ! 後ろに席が空いてるから早く座ってね?」


 「あっ、了解です。」


 ふ〜っ。セーフか……。


 バスに乗れなかったら、またあの家に帰らなきゃいけない所だったぜ。


 想像したせいで胸焼けする香りの記憶が蘇り吐き気がしたが、背後から催促するバスガイドの声がして安心する。

 胸を撫で下ろしながら2号車のバスに乗り込むと、自分と同じくらいの年齢の男女が窮屈そうに座っていた。



 当たり前か……。今年1年になる奴と本来なら2年になるやつしか居ないんだもんな。

 俺の一個上からは、就職するしかないとかキツイよな……。




 後ろから二番目の通路側の端が空いていたので、そこに座るとすぐにバスが走り出した。




ーー暗闇の中で誰かに肩を叩かれる。


 薄っすらと瞼を開いた先には、バスガイドが俺に背中を向けて歩いていく姿が映る。


 いつの間にか寝てたのか俺……。


 何度かトイレ休憩や昼食で停車したらしいが1度も起きなかったらしい。

 ニート生活で丸一日を寝て過ごす日々に慣れていた俺は、約9時間ほど物音や話し声にも屈せず寝ている事なんて余裕だ。

 むしろ今じゃ寝ることが得意分野とも言える。




 「まじかよ……これ。」



 皆が既に降りて静まり返ったバス内から、寝起きのフラフラした足取りで外に出ると、様々な方向からライトで照らされる数十メートルの高さまで積み上げられた岩で出来た頑丈そうな塀がそびえたっていた。


 学園敷地内に入ると、肩に大きな銃をかける警備員らしき者が数十人ほど立っていた。


 何でただの学園にこんな警備が必要なんだ?

 銃は本物、だよな?

 テレビでしか見たことねえよ……。



 背筋がゾクゾクしてくるような恐怖を感じながらもひたすら歩いて行くと、左手に扉を全開に開放している灯りのついた建物があった。


 近づくにつれて、そこからざわざわと若い、多分学生達であろう声とマイクを使って話す年寄りの男の声がした。



 「コホンッッ、皆さん、だいたい揃っていますかね? 静寂にお願いします。」



 俺が建物に足を踏み入れた頃にはザワザワとした、やかましいお喋り達は止まっていた。


 「よく出来たお子様方で。

 この学園には約1200人の学生達が入学しました。

 日本にこの学園は三つ。

 合わせて約3600人の子供達が居る事になりますね。

 こんなにも同年代の人達と会うのは初めてでしょうからビックリしているでしょう……。

 まあ、遅くなってしまったので詳しくは明日説明の者から聞いて下さい。

 最後に皆さん入学おめでとう!」



 ……はっ? 入学の挨拶と説明これだけ?

 というか、入学式もないって事なのか?


 喋り終えた白髪混じりの爺さんは、杖をつきながらトボトボと消えてしまった。



 あまりの拍子抜けに、口をポカンと開けながらアホずらで立ち尽くしていると、ぞろぞろと建物に入ってきた警備員達に学園敷地内にある寮へと強引に誘導され、気づいた頃には寮のエントランス内に居た。



 男子と女子の寮は学園と思われる建物を挟むように、三棟ずつ建てられている。


 まだ2学年しか入学していないからたくさん空いているのだが5年経てば、埋まる計算なのか?

 とりあえず12階にあるらしい自分の部屋へと向かうか。


 12階に着いて部屋を探そうとするも、エレベーター降りてすぐ目の前が自分の部屋だった。


 寮の1階エントランスで渡されたカードキーを差し込み扉を開けると、8畳ぐらいの部屋で白い壁紙に白と黒の家具で統一された部屋があった。



「言った通りだな……。入学前のアンケート通りの部屋だ。」



 ベッドに座り部屋を見渡す。


 デスクとベッドと冷蔵庫最新のpc。

 そういや、必要な物はpcで注文出来るって言ってたよな。

 ある程度規制されるだろうが。


 pcに電源をつけようとデスクに近寄ると、pc横に手のひらサイズの箱が置いてあるのが目に入る。

 箱には、「明日学校へ所持してきて下さい。」と書かれたシールが貼ってあった。



 なんだこれ?


 手に取り箱を開けるとスマートフォンのような物が入っていた。


 懐かしいなー。

 昔のスマホってやつか?

 今じゃ腕に付ける通信機しか流通してないからな。

 まあ、学園内は持ち込み禁止だから持ってこなかったけど。


 電源を付けようと試みるも、ボタンも見当たらないので諦め、箱のまま明日学校に持っていく鞄の中へ放り投げた。


 暇だな。飯食ってまた寝るか。

 そういやテレビとかゲームってアンケートに書くの忘れてたわ。


 夜飯はバスを降りる前に渡されたオカズの少ない質素なのり弁。

 レンジも無いので冷たいままの弁当を米粒一つ残らず全て平らげ腹を満たし、部屋にあるバスルームのシャワーを浴びてまた寝ることにした。





 この時の俺は、なぜ子供達がわざわざ親元から離されるのかとか考えもしなかったんだ。

 糞な親父達と離れられる事が好都合だったし、学費に生活費全てを国が負担してくれる。

 つまり将来親に面倒見たんだから……。とか、言われる必要もない。

 学校以外は1人の空間。

 俺にとって一つも文句は無かったんだ。

 

 


ーーあの、事件が起こるまでは。

 学園に入った事、最初にもっとこの優遇され過ぎな生活を警戒をしなかった事に後悔をする。

 











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