プロローグ
「僕達なら大丈夫だよ。2人は先に行って!」
「任せた! 絶対死ぬなよ。」
ウイルスに侵された者達通称YWに、春と麻衣美が囲まれたが、今立ち立ち止まって応戦している時間は残されていない。
今朝の空爆で、自分が何処かに居るか分からないほどにグチャグチャになった街の中を瑠衣と2人で無我夢中で走る。
「間に合わなかったらどうしよう……。」
「大丈夫だ!絶対に間に合う!」
余裕の表情を見せながら瑠衣に答えたが、正直間に合う保証は無い。
でも、絶対間に合わなきゃいけないんだ……。
諦めかけて虚ろな瞳をした瑠衣の手を掴む。
予告無しの突然の空爆で、YWを一斉に排除する計画は失敗に終わり、まだウイルスに侵されていない国民をシェルターに避難させていた場所へのクーデターによる奇襲が始まろうとしていた。
ようやくシェルターがあるドームが視界に見えてきた時あいつらが現れた。
大量のYWを兵とし、改造されたPSを持った奴らが。
「ここからは行かせないんだから。のんたん達は何も悪い事してないのに、あんた達が私達を殺そうとするから……。」
「こらこら、感情的になるとYWウイルスの侵攻が早くなってしまいますよ。」
「さっさと政府の駒を粉々にして、あっちに行こうよー。」
まだ幼さが残る10歳くらいの日本人形のような着物を着た双子の女の子達と30代半ばぐらいの白髪のメガネをかけ白衣を着た男が武器を手に持ちこちらへと向ってくる。
クソっ!もう来たか。
「違うっ……。私達は国の味方をしてる訳じゃない。お願いだからもう誰も殺さないで。」
ふらりとした足取りで、女の子の元へ腕を伸ばす。
「瑠衣!! やめろ!」
「今さら無駄なんだから。」
一歩遅かった……。あと一歩。
真後ろに居た俺の元へゆっくりと瑠衣の身体が倒れてくる。
お腹を支えた右手に、生ぬるいヌルヌルとした感触がした。
顔を上げると、女の子が銃をこちらに向けて構えているのが見える。
「瑠衣っ! 瑠衣!頼むから死なないでくれ。わああああっ。」
抱えている俺の腕から、瑠衣の力がだんだんと無くなっていくのを感じる。
「こいつら片方死ねば、どっちも死ぬんだよね? ほっといても死ぬよ。早く行こ。」
3人の足音がだんだんと小さく遠くなって、次第に俺の意識も薄れていく。
ああ、俺も瑠衣もここまでだ。
誰も助けられず、あいつを殺す前に終わる。
最後まで国の言いなりになって死ぬのか……。
春ごめん……。
瑠衣の事守ってやれなかった。
ここで、スーッと俺の意識が消えた。