6 言いくるめ
『この話おもろないんじゃ、ボケ』とか、
『テメェ、なろうの機能使いこなせてねぇよ』とか、
小さな事でも感想がいただけたら幸いです。
6
校舎裏とは何せ、人が近付きにくい物だ。
用向きが発生する事は稀だし、日当たりも悪いし、近付くのに利がほとんどない。
そんな場所に、一人の男が立っていた。
「お待たせしました」
俺はその姿を確認した後、校舎の陰から姿を現す。
「き、君が私を呼んだのか?」
「ええ、突然お呼び立てしてすみません」
目の前の男は動揺しているように見える。
そりゃそうだろう。俺はコイツを呼び出す時に、アンタの秘密を知っていると言って呼び出したのだ。身構えもされなければ、逆にこっちが怖くなってしまうね。
「何の用だ。私は忙しいんだ」
「……ご自身の進退が関わっていると言うのに、他所に気を使ってる暇なんてあるんですか?」
「き、君は一体何を言ってるんだ。私に後ろ暗い事なんて何もない!」
「そうですか。……では貴方は、生徒の弱みにつけこんで、自分の意のままに動かしていた事について、これといって何の感慨も沸かない、という事ですね? 尾張教諭?」
俺の目の前にいる男。それは数学教師、尾張。
コイツが今回の事件の黒幕だ。
「な、何を根拠にそんな事を……」
「実際、本人から聞いたんですよ。アンタは不破会長の弱みにつけこんで、自分の良いように使ったんだ」
「そ、そんなのは不破の狂言だ! 私は関係ない!」
「あー……先生。今のご時世、そんな言い訳は通用しにくいですよ? テレビをご覧になった事はありますか? 学校で生徒に被害のあった事件が起きた場合、更には加害者が教師だった場合、どちらが悪役に立つか、わかりますかね?」
尾張はグッと口ごもる。
「そうでなくとも、学校側は事を荒立てないように、極力大事にならない様に事件を解決したがる物です。その場合、一番手っ取り早いのは関係者を学外に追放する事。しかし、学校にとって不破統司とは欲しい人材です。アレほどの文武の両道を行く学生を、学校側が易々と手放す事はないでしょう。では、貴方は?」
「わ、私とて数学教師としてこの数年……!」
「それでは弱い」
尾張の言葉に被せ、心持ち語気を強める。
「アンタの学校に尽くした数年と、不破会長が今後、学校に貢献してくれる集客力、どちらを優先するか、少し考えればわかりそうな物です。不破会長が貴方を摘発すれば、学校側は貴方をすっぱり切るでしょうね」
「……く、くく……そ、そんなことにはならない」
尾張の雰囲気が変わる。
しかし、何のプレッシャーもない。コイツの放つ雰囲気は小悪党のそれに類似している。
「君は不破の弱みとやらを知っているのか? アイツは良い家庭のお坊ちゃんだ。厳格な両親の元で育っており、特に父親には頭が上がらないらしい。悪事がバレれば、さぞ大目玉を食らうことだろうな! だが、アイツは近所のコンビニで万引きを働いた! それが家にバレるのを、アイツは死ぬほど嫌がってるんだよ! アイツが自分から私を摘発する事はない! そうすれば自分の悪事も白日に晒されるのだからなッ!」
「では、俺が摘発すると言えば?」
「それならば、私がもみ消してやる! お前みたいな一介の生徒の発言なんて、教職員の誰も聞く耳を持たないだろう!」
「……まぁ、そうでしょうね」
この学校はやる気のある生徒は応援しても、俺みたいなあまり目立たない生徒をバックアップするほど暇ではない。
俺が何がしかの功績を残していれば話は別であろうが、それには時間がかかる。
「わかったか、小僧! お前の目論見なんて、私には通用しないのだよ! それに、不破を利用して何が悪い! お前たち生徒は、何かって言うと私をバカにしやがって! それに仕返しをして、何が悪いって言うんだ!?」
「確かに生徒になめられてた先生の境遇は同情に値しますがね。だが、そんな事は関係ないし、その程度の動機だなんて……ぷっ、ふ、ふふ……いや、失敬。あまりの小物っぷりに笑いが……」
「き、貴様ぁ!」
「まぁ、落ち着いてくださいよ、尾張先生。実のところですね。もう勝負はついているんです」
俺は懐から紙を取り出す。
「貴方の言っていた近所のコンビニと、不破会長の家との示談成立書類です。ちょっと借りる事が出来まして、持ってきてみたんですけど」
「なッ!? なにぃっ!?」
……実はこの書類、俺が勝手にでっち上げた偽者である。だが、この小物相手なら十分効果を発揮してくれるだろう。
俺の思惑通り、尾張は書類を確認する事すらしない。
まぁ、近いうちにこれと同じような物を、不破が作ってくれるはずだ。偽造しちゃっても何の問題もあるまい。
「不破会長は自分の罪を認め、償う事にしました。……では貴方は?」
尾張は不破が自己申告をしない、と言う事を笠に着て、不破を利用し続けた。
だが、それもこれで終わりだ。
不破はもう、自分の罪を認め、ある程度清算してしまったのだ。
「今から不破会長が貴方を摘発すれば、貴方は高確率でクビにされるでしょうね」
「……し、しかしッ! まだ手はある!」
「かもしれません。なので俺からも後詰めを出します。……貴方はこの学校の理事長の苗字を知ってますかね?」
「理事長? 立風吾郎氏の事か?」
「そう、立風さん。偶然ですね、俺の知り合いに立風さんの大事にしている一人娘がいるんですよ」
これは不破との勝負の後、喜野から教えてもらった事だ。
どうやら立風ノブコは、この学校の理事長の一人娘らしい。
学校内で暴虐の限りを尽くし、行き止まり番長を名乗っても退学にされなかったのは、そういう理由があったりするのだ。金持ちの恐ろしさよ……。
「俺から立風さんのご息女に一言添えてもらえば、貴方のクビなんて軽く飛んでしまうんです」
「な……なっ……なぁ……!?」
最早言葉も継げないらしい、尾張教諭。
哀れかな、その表情は悲しいほど小物だ。
不破との勝負の後では、こんな勝ちが決まった勝負なんて、何の感慨も沸かない。
消化試合と言ってもまだ過大評価ではないのか、と思えるぐらいの一幕。
「出来れば、アンタが勝手にいなくなってくれると、こちらも手を焼かずに済む」
それだけ言い残し、俺は校舎裏を後にした。




