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第一話 【覚醒】 7





「あんた、誰だ」

「私か。名乗る名など捨ててしまったが敢て言うなら“ファントム”とでも名乗っておこう」


 何故だかわからない。男の言葉に心中を揺さぶられてしまった空汰は男の背中を追いかけるように付いて行く。違うと言って帰ればよかったはずだ。それだけで話は終わっていたというのに何故か男の従うまま付いて行っている。


「ファントム……怪人ファントムか」

「おや、ガストン・ルルーは好きかい」

「読んだことはないけど知ってるくらいだ」

「ふむ、気に入ってくれると嬉しいね」


 先程の対戦ゲーム区域を通り抜けて更に奥へ。メダルスロットコーナーがあってそこも通りすぎると先に階段があった。そういえば自分は上に上がったことがないと空汰は思いながら男の後を追うように階段を登っていく。


 階段を登ると真っ直ぐ伸びた通路があり、その先でなにかがキラキラと輝いて見える。一番突き当たりの部屋になにかがあるのだけは見える。そこに続くまでに小部屋らしき扉が転々と続いている。ちょうどカラオケBoxなんかを想像すると分かりやすいかもしれない。


「さて、ちょうど開始の時刻だ。キミは運がいい」


 周囲を見渡しながら後に付いて行ってると突然、ファントムが立ち止まる。振り向いて空汰を見下ろしながらそう告げた。


「なんの話だ?」


 空汰の言葉にチラリと腕時計を見やる。


「試合の刻限さ。たっぷりと愉しむがいい、少年。ここがキミの戦場だ」


 頭を下げて案内人の名に相応しく手のひらでユルリと扉のほうを指した。


「ここに入れってことか」

「拒否権はある。ただ今後は“魔術師の名汚し”として誹りを受けることになるだろうね」

「誰がだよ」

「さあて。私には判りかねるよ」



 ファントムは頭を下げたまま、空汰の詰問を慣れたような態度でやり過ごす。本当にこういう対応に慣れているのだろう。そして魔術師とやらに拒否権を行使出来ないように仕向ける。


「…………。」


 だというのに。

 デッキを見つめる。

 心が踊る。精神が高揚している。

 胸の奥底でくすぶるだけだった火がチロリと炎への鱗片を見せた。

 湧き上がる熱意と激しく高鳴る胸腔を手のひらで押さえ付けるとデッキを強く握りしめた。


「わかった。参加する……!」

「GOOD! では参加申請をしておこう」


 パンッと軽快な音を立てる手拍子。ファントムが迎え入れるように部屋のドアを開いていく。


「さあ、魔術師よ。一夜かぎりの狂宴に踊り狂うがいい」





                 /





 部屋内に入ると簡素で小さな四角のスペース。飾り気ないのっぺりとした壁紙に先程、下の階で見たようなポスターがところ狭しと貼られている。そして室内の大部分を占拠するように一台の大型筐体がその中心にのっしりと置かれていた。


「これが“LOM”か」


 大きさにして24、5インチほどのモニターにしっかりと“Lord of Mages”と表示されているから間違いはないだろう。80度くらいの傾斜をした画面の下はテーブルのようになっており、そこにカードを広げるスペースがある。磁気読み取り式なのだろうか、などと考えながら緑色をしたテーブルを触ると滑らかな感触がした。


 テーブルの下には長椅子が添えつけられている。筐体にくっ付くようにして用意されているということはこれもLOMの一部なんだろう。空汰は椅子をすこしズラしてそこに座る。懐からカードデッキを持ちだした。


 一方は神薙が所持していたデッキ。また一方はトモミからもらったスターターデッキだ。空汰は神薙のデッキを再びポケットにしまうとスターターの箱を開けてカードを取り出した。新品の紙の匂いがしてより緊張感が否が応に高まってくる。カードをひと通りみてみたものの、まるでわからない。


 添えつけてあった説明通りに山札デッキを真ん中に置いて五枚だけ手元の枠に置いてみる。合ってるかどうかも判断できないのが困るが仕方が無いだろう。友美に少しだけでも話しを聞いておくべきだったな、なんてことを空汰は考えながら脇にあるコイン投入口にインカムした。


 コインコインコイン、と耳に残るような音が響いて“Push Start”と画面に表示されたのを確認し、言われるままにそれをタッチする。



刹那。急激に五体が引っ張られるような感覚に襲われる。なんの感覚なのかすら皆目見当が付かない。抗おうと四肢に力を込めるがまるで力が入ってはくれずその場で悶えてしまう。やがて抵抗も虚しくゴッソリと全身が引っ張られる感覚に意識を刈り取られてしまうと、空汰の思考はそこで止まってしまった。




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