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第一話 【覚醒】 4




「LOMってのはね。世界的に大ブームになってるカードゲームの名称ね。本当の名前は“Lord of Mages”。色々な世代のファンを取り込んだ名作カードゲームよ」


 自転車を扱ぎながら後ろから聞こえる声に耳を傾ける。トモミは後部座席にゆったりと座って足をユラユラと揺れていた。元々運動神経が抜群の女傑というのもありフラフラ運転でも空汰の背中に掴まることもせず自分のバランス感覚だけで座っている。


「聞いたことがあるな。確か若者から火が付いて大人を巻き込むと今や世界大会が何度も開催されるくらいの規模になったとかってテレビでもいってたか」

「もともと漫画とアニメ企画だったらしいんだけど思ったより人気が出たんでカードゲームとして出したんだって。それが大ウケだったらしいわね」


 真っ赤な夕焼けの中、ぶち当たる風は身を切るように冷たい。踏み込むペダルも荷重に応じて重さを増すのは当然の道理である。ふたり分というのは結構な重さらしく、気がつけば額に僅かだが汗が浮かび上がっていた。踏み込む足が棒になる頃には十分な加速も付いてようやく推力だけでコゲるぐらいまでに持っていくことが出来たのだった。

 チラリと背中を見ればトモミのロングマフラーが風に流れて揺れている。


「で?」

「なによ」


 背中を反らして背後を向くと友美に話しかける。トモミは答えると背中を押して「前を向け」と促した。


「“デッキホルダー”がなんなのかってのと。なんでそんなもんを神薙が持ってたかってのが気になるんだが」

「矢継早に説明を求めない。質問はひとつずつがルールよ。じゃまず“デッキホルダー”ね。“デッキホルダー”は説明するまでもないけどカードを纏めた山をデッキ、でそれを収めてるのがホルダーなわけね」


 「で――」とピトッとトモミが空汰の背中にくっ付くようにして話しかけてくる。背中に当たる二の腕から肩のラインを感じられて焦ったのか空汰が二度、三度とバランスを崩しかけてしまった。慌ててハンドルを正して平衡を保つように持って行くと事無きを得た。


「あっぶなー。転けたらどーするのよ」

「いきなりトモミが体重を前にかけるからだろ。俺は普通に運転してたって」


 半分は本当だが半分は嘘である。空汰くらいの歳になれば異性の肌というのは毒だったりする。その柔らかな感触は明らかに魔的だ。暴きたいという衝動に襲われても仕方のないことだった。けれど空汰がそうならないのはトモミが相手だったからというのもあるだろう。トモミとの付き合いは異性という感触を忘れさせるのだ。


「もう一個は既に解決したでしょ」

「え?」

「神薙さん」

「ああ、そういうことか」

「本人の所有物かどうか怪しいもんよ。盗品とかじゃないとは思うけど」

「盗品って。そんな疑いかけてんのか?」

「言ってないでしょ。ただカードゲームって子供に人気があるモンだけど結構高いのよ。中には相手のカードを盗んじゃうような子もいるみたいだから」

「貧乏そうには見えなかっただろ。なんかトモミにしちゃえらく懐疑的じゃないか」

「うーん。なんでだろ。あたしもよくわかんない」


 トモミが空汰の肩に両手を置いて後輪の縁に足をかけると二の足で立ちあがった。ちょうど橋に差し掛かったところだったこともあってか真正面から風を浴びて気持ちよさそうに髪を振り乱している。


「きっもちいい―――ッ!」


 冬の風は冷たいだろうに真正面から凍るような風を浴びている。橋の歩道は特に海からの風が存分に流れてくるので余計に冷たさが増している。空汰も少しだけ潮の香りが入り交じる風を受けとめてると自分のマフラーで口元を覆うようにした。まだまだ冬は寒さを増していきそうである。








「LOMってのはね。世界的に大ブームになってるカードゲームの名称ね。本当の名前は“ロードオブメイジ”。色々な世代のファンを取り込んだ名作カードゲームよ」


 自転車を扱ぎながら後ろから聞こえる声に耳を傾ける。トモミは後部座席にゆったりと座って足をユラユラと揺れていた。元々運動神経が抜群の女傑というのもありフラフラ運転でも空汰の背中に掴まることもせず自分のバランス感覚だけで座っている。


「聞いたことがあるな。確か若者から火が付いて大人を巻き込むと今や世界大会が何度も開催されるくらいの規模になったとかってテレビでもいってたか」

「もともと漫画とアニメ企画だったらしいんだけど思ったより人気が出たんでカードゲームとして出したんだって。それが大ウケだったらしいわね」


 真っ赤な夕焼けの中、ぶち当たる風は身を切るように冷たい。踏み込むペダルも荷重に応じて重さを増すのは当然の道理である。ふたり分というのは結構な重さらしく、気がつけば額に僅かだが汗が浮かび上がっていた。踏み込む足が棒になる頃には十分な加速も付いてようやく推力だけでコゲるぐらいまでに持っていくことが出来たのだった。

 チラリと背中を見ればトモミのロングマフラーが風に流れて揺れている。


「で?」

「なによ」


 背中を反らして背後を向くと友美に話しかける。トモミは答えると背中を押して「前を向け」と促した。


「“デッキホルダー”がなんなのかってのと。なんでそんなもんを神薙が持ってたかってのが気になるんだが」

「矢継早に説明を求めない。質問はひとつずつがルールよ。じゃまず“デッキホルダー”ね。“デッキホルダー”は説明するまでもないけどカードを纏めた山をデッキ、でそれを収めてるのがホルダーなわけね」


 「で――」とピトッとトモミが空汰の背中にくっ付くようにして話しかけてくる。背中に当たる二の腕から肩のラインを感じられて焦ったのか空汰が二度、三度とバランスを崩しかけてしまった。慌ててハンドルを正して平衡を保つように持って行くと事無きを得た。


「あっぶなー。転けたらどーするのよ」

「いきなりトモミが体重を前にかけるからだろ。俺は普通に運転してたって」


 半分は本当だが半分は嘘である。空汰くらいの歳になれば異性の肌というのは毒だったりする。その柔らかな感触は明らかに魔的だ。暴きたいという衝動に襲われても仕方のないことだった。けれど空汰がそうならないのはトモミが相手だったからというのもあるだろう。トモミとの付き合いは異性という感触を忘れさせるのだ。


「もう一個は既に解決したでしょ」

「え?」

「神薙さん」

「ああ、そういうことか」

「本人の所有物かどうか怪しいもんよ。盗品とかじゃないとは思うけど」

「盗品って。そんな疑いかけてんのか?」

「言ってないでしょ。ただカードゲームって子供に人気があるモンだけど結構高いのよ。中には相手のカードを盗んじゃうような子もいるみたいだから」

「貧乏そうには見えなかっただろ。なんかトモミにしちゃえらく懐疑的じゃないか」

「うーん。なんでだろ。あたしもよくわかんない」


 トモミが空汰の肩に両手を置いて後輪の縁に足をかけると二の足で立ちあがった。ちょうど橋に差し掛かったところだったこともあってか真正面から風を浴びて気持ちよさそうに髪を振り乱している。


「きっもちいい―――ッ!」


 冬の風は冷たいだろうに真正面から凍るような風を浴びている。橋の歩道は特に海からの風が存分に流れてくるので余計に冷たさが増している。空汰も少しだけ潮の香りが入り交じる風を受けとめてると自分のマフラーで口元を覆うようにした。まだまだ冬は寒さを増していきそうである。






 三部町は臨海都市としていま注目を浴びている土地である。

 特にここ十年の発展はめざましいもので畑とオンボロだった家ばかりの土地が高層ビル郡へと様変わりする様子をリアルで追うことが出来るのは希少な経験であると言えるだろう。


 空汰達が暮らす住宅地はまだまだ開発途上だったり手付かずの場所が点在しているが橋を隔てた商業区は、その名の示す通りこの街の隆盛を一目で表していた。立ち並ぶビル郡、流行の最先端を盛り込んだ意匠の数々は奇形のオブジェクトに見える。オフィス街と言われる高層ビルたちの中で1つだけ異彩を放つくたびれたビルがある。外装にヒビが奔り、蔦などが絡み付いていてさながら幽霊ビルのようだ。


 その一階。店構えだけはキチンと! という名目の元作られた看板がキラキラと夕日に輝いている。ここがトモミがアルバイトをしているゲームショップ『カードチャンプル』。通称“カーチャン”である。






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