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第一話 【覚醒】 13





「クソッ! おい、インスタントを早く装備しろ!」

「え?あ? お、おう!」


「させるか!“たゆまぬ進撃”」


 弛まぬ進撃は動作終了後の休止ターンをすっ飛ばして活動動作に入れるカードだ。カードを弾くと星々がかがやくように小さな輝きの飛礫が少女騎士の身体に纏わり付く。光が内側に巻きこまれるように効果を及ぼすと行動を終えた少女騎士の身体に更なる活力が宿った。

 疾風のように戦場を一足にて駆け抜けると


「ひ、ひぃぃぃい!!」


 取り巻きの男を名剣にて薙ぎ払った。

 情けない悲鳴を残して取り巻きのもう一人が絶命してしまう。烈火のような進撃。空汰自身も驚いている。それはそのはず、たった一枚のカードで両雄の形勢をひっくり返してしたのだ。


「流石は神薙。カードを投下するタイミングやコツを弁えている」


 白い鎧を纏う騎士の姿を民兵たちに紛れてしまうように追いかけると鼓動が高なった。

 風をたっぷりと含んで膨らむローブが重くて進軍を拒む。だがそれすら生命の高鳴りだ。足に纏わり付くような天然の砂塊ですら踏み込んで蹴り上げる爽快感に溶け込んでいく。

 風が頬を叩く。熱風をはらんだ風は額に浮かんだ汗をもはね飛ばして焦げ付く戦争の香りを空汰の脳内に叩き込んできた。

 つよく、歯を噛み締めた。


 生きている、生きている、生きている!


「これがLOM! これが対戦型カードゲーム……!」


 わずか一手が相手の勝ちを突き崩す。この快感は何物にも代えがたい。例えるなら白球が空高くへと伸びていく――あの風景に似てた。


「そうか―――」


 背中を向けていただけだと気付く。隣り合わせの場所に自分が求めるような活力はあったのだ。それを知らず、それとは思わず、目を閉ざし、耳を塞いで惰眠を貪るように生きてきた自分を詰りたくなった。

 だいぶ回り道をした気がする、が――。


「俺はまた戦場フィールドに戻ってこれたんだな」


 感慨深くなって溢れそうな水滴を目尻でこらえた。そんなところまでしっかりと再現しているらしい。本当に余計なことを、と空汰は悪態を漏らして走った。


 空汰は高揚する意志のままヴェクターを睨みつけると叫び声をあげる。


「あとはお前だけだ! ヴェクターぁぁぁぁ!!」


 その言葉を聞くとヴェクターの額に青筋のようなものが剥き出しになる。それは僅か数十分前に始めたばかりの小僧に形勢逆転をもたらされた己の不覚と敵への怒りを露わにしているためだ。


「図に乗るな、小僧がァァァ!!!」


 駆け寄る空汰を睨み付けて激昂するとドンッとブックを拳にて叩いた。


「駄目っ! 空汰、避けて!」


「え?」


 神薙らしくない叫び声に驚いた。

 だからこそ動きを静止させてしまう、だがそれが良くなかった。

 ドッと衝撃が身体を貫いた。

 自分の身になにが起こったのかも分からない。

 なぜか身体が流れて背後へと飛んでいってるのを確認する。

 まるで緩んだテープのように引き延ばされた時間の中で自分の胸を覗き見た。


「……あ。れ?」


 ぽっかりと穴が空いている。

  それがなんなのか、なぜこうなったのかも理解できないが大きな穴が身体に開けていて、それが自分の致命傷になっていることだけは理解できた。


「あ」


 短音。声にならぬ音が口から漏れると急速に引き延ばされた時間が収束し、そのまま地面に叩き付けられた。


「ハハハハっ、ざまあみろ素人が! これが俺の宝具アミュレット凄まじき風矢アーバレスト”だ!」


 ヴェクターの背後には巨大な弓引き器のようなものが浮かんでいた。そこから発射された眼にも止まらぬ攻撃が空汰を貫いたのだ。

 風に溶けるように少女騎士の素体テクスチャーが光に散っていく。無念のように目を伏せるとそのまま恨み言もなく消えていった。


 敗北。空汰は微動だにしない。あとは絶命信号ログアウトに従い消え去るだけだ。


「空汰……くん。御免なさい……!」


 ガクッと顔を落とす神薙。計画では一人だけでも自分が倒さなくてはならなかった。そうすれば空汰に勝たせるという作戦が成り立っていたはず。ただ予想以上に三人の連携が取れていた。予定通りに事が運ばず、逆に焦りから追い詰められてしまうと、目的である“一人を倒す”ことが出来なかった。計画通りならさっきの空汰のコンボにて彼らを一網打尽に出来ていたというのに。


「全部……私のミス、だ」


「ハッハッハッ! これに懲りて二度とこのゲームをしようなんて考えるんじゃねえぜ!! ヒャハハハハッ!」


 高らかに宣言するヴェクターの声が遠くから聞こえてきて空汰は耳を疑った。敗者となった魔術師に五感が感じられるのはおかしい。ログアウトを待つのみの身体は戻るために五感を切断していないとならないはずだ。だというのに何故だろう、死んだはずの身体に感覚が残っている。


 不可思議な現象にある。なにかのバグだろうか?

 空汰が光の宿らぬ眼でなぜかブックを見つめた。淡く点滅するカードがある。それはさっきバグと思われた煤けたカード。

 力の宿らぬ腕を伸ばして触れようとする。死亡ゲームオーバーしている空汰になんの意味があるのか、その理由すら見つけられてはいないというのに、震える指でカードを弾いた。




     “宝具解放”




 光が満つる。隠されていたカードの能力が空汰の身体を巻きこんで強引に死の淵から掬い上げた。




「空汰くん……」


 神薙が倒れている空汰を見つめ肩を落とすと悲痛な面持ちで項垂れた。長い黒髪が地面に流れ、穢れるのも気にしてはいない。それほどまでに少女の意志がへし折れているということ。


「もう……しない、と誓ったのに」


 ギリ、と歯の根が軋む。いまなにより欲しいのは悔恨の痛みだというのにVRは痛みを曖昧にしてくれる。


「――また私は、あなたを犠牲にしてしまった……」


 忸怩の念に押し潰されそうになりながら胸ぐらを握りしめた。喪ってしまったのは彼という仮想体ではない。自分自身の意志そのものだ。


「さて。竜姫さんよぉ。あとはオタクだけだぜ」

「…………。」


 とても煩い雑音。神薙にとって憎らしい存在そのものだ。今だけは話しかけて欲しくないというのに。どれだけ空気が読めないのだろう。ほどけてしまった意志を再び強固な殻が覆い尽くす。その不愉快な声に自分の作り上げた強い自分が持ち直した。ユラリと身体を起こして立ち上がるとブックに手を叩きつけるように手のひらを当てた。


「いいわ。ただ、いまものすごく虫の居所が悪いの、どんな惨めに殺されてもあとで文句言わないでちょうだい」


 挑発への応答に背筋が凍る。俯いた顔を上げると燃えるような眼光がヴェクターを睨んでいた。生理的な恐怖より半歩後ろへ下がってしまう、たかだかゲームだというのにこの底冷えする感覚はなんだ、とヴェクターは心の底で毒づいた。


「あ、ああ、いいぜ。どちらにせよ、次の行動ターンで決まりだ! 俺の勝ちが揺るがねえんだからな!」


 カードを手にした。そう、どうあがこうとこの決定的な状況は覆らない。いくらAAクラスの女傑であろうとそれだけは有りえないのだ。


 ヴェクターが最後の行動を宣言しようとした時、背後より光が爆ぜた。


「な!?」

「……?」


 ふたりが同時に目を疑う。

 それは光ではない、炎のかたまりのようなものだ。

 とぐろを巻くようにウネウネと身を捩って燃え盛る炎の束たち。

 その中に、陽炎のごとく立ち上がるひとつの影があった。


「空汰く、ん……」


 のそりと起き上がる姿は炎の中に紛れて確認し辛い。だが神薙にはその正体が何者であるのか一目で知見する。あれは風祭空汰なのだと。





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