【第四章 - 2】冷徹なスナイパー
ーー三大賢者会議にて。
その部屋には、三人が会議するのに必要以上の面積の机とたくさんの椅子が置かれていて、それを囲うように三人は座っていた。
れいりが起きれないのでは無いかと心配していた甘猫であったが、今日は珍しく、れいりの母親である『掌握の魔女』も参加していたため、その心配はなんなく回避。
こうして、今回は無事『第二回三大賢者会議』が開かれたのだ。
でも、今日はいつもと雰囲気が違った。
ーーでも、それは悪い意味では無い。
ただ、れいりの斜め後ろに誰かが立っていて、その上、れいりを横からずっと見つめているのだ。
それは、もちろん甘猫では無かった。
その空気に耐えきれなくなったリフレイトはついに口を開いた。
「何故、『冷徹なスナイパー』様がここに?」
その言葉には、困惑だけではなく、どこか怒りがこもっていた。それは、リフレイトにとって彼女の態度があまりにも好ましく無かったから。
れいりが三大賢者になる前、リフレイトとシュレリファは険悪な仲だった。つまり、れいりとシュレリファの仲が良いと聞いた時の、あの発言はある種の皮肉でもあったのだ。
でも、そんな空気を跳ね除けるように彼女は言った。
「やぁやぁ。失礼したね、私はただ、後継者であり、好友のれいりに会いに来ただけさ」
「別に、今日じゃなくて良いじゃないですか」
リフレイトは吐き捨てるように言った。
「君は相変わらずだね。今のは、ただの冗談さ」
彼女は笑って言う。それから、れいりの隣に座った。
「今日は帝国から呼ばれてきたんだ」
「でも、もう貴方は三大賢者を引退したのでは?」
「まぁ、確かにわたしゃ三大賢者は引退した。でも、今は賢者ではなくもう一段階上の博士になったんだ。だから、私だって三大賢者会議に参加する権利はある」
三大賢者のもう一段階上という言い方には難がある。ーー正確に言えば、三大賢者の一個下だからだ。
でも、確かに、三大賢者よりも博士号の方が、頭脳明晰なので、上と言っても過言では無いが。正直、帝国のために派遣される代わりに手当がより厚いか、されまい代わりに手当が薄いかくらいなので正直あまり変わらないだろう。
「でも、なんでシュレリファはここへ来たの?」
お母さんの質問に、シュレリファは待ってましたとばかりの顔で言った。
「それはもちろん。竜討伐のためよ。今回、その議題に関して対策を練るのでしょう?竜討伐は得意なんだ」
「だから、帝国はシュレリファを呼んだんですね……。っ」
一瞬舌打ちが聞こえたのは気のせいだろうか。
「で、考えはあるの?」
れいりがそう尋ねると、シュレリファは首を振る。でも、これはかなり大きな戦力だ。
『冷徹なスナイパー』と呼ばれるくらい遠距離射撃が得意な彼女にとって、竜の眉間を撃ち抜くことくらい雑作もないことなのだろう。
そんなことを考えていると、リフレイトは何かに気がついたように、椅子から立ち上がって窓へ近づいた。
そして、カーテンを開けると、そこには伝書鳩が一匹、そこに佇んでいた。
窓を開けて、手紙に目を通したリフレイトは、眉をひそめた。それを見て、シュレリファは「何が書いてあるんだ?」と尋ねる。
「エリーナ様からの伝言だ。皇后と皇帝は竜災で死ぬわけじゃない。誰かに殺されるだと」
「あら」
と、お母さんは思わず呟く。
「そして、誰が守ろうと、誰か一人は必ず犠牲になる。だそうだ」
「困ったもんだね」
「えぇ、本当に」
すると、どこから出してきたのかも分からない紅茶をお母さんはシュレリファの前に置いた。
それを、シュレリファは一口飲む。
「今?」
れいりが尋ねると、彼女は「お前も飲むか?」とでも言いたげに、紅茶をこちらに差し出してきたが、れいりは身を引かせてもらった。
「でも、まずは。竜災害対策について話し合いましょう」
* * *
ーー30分後。
「これで、決定だな。もう一回確認して」
そう言って、シュレリファは書き終えたばかりの竜災害対策報告書を机の真ん中へとスライドさせた。
結局、竜災害の件に関しては、全てシュレリファに任せる結果となった。これが一番効率の良い方法だから。この一言に尽きる。
作戦としては、竜災害前日からシュレリファはルミナスタウンを囲う防御壁の監視塔に身をひそめ、竜がきたら空中に飛び上がり、そのまま眉間を狙う。
それから、下に展開した転移魔法陣で海のどこかへと放り投げる?。
それをもう一度頭の中で再確認した所で、れいりは重大なことに気がついた。
「あれ?結局、クローマってどうなったの?」
「あぁ、あの子ならーープロソポンに直接呪いを解いてもらったから問題ないわよ」
結局お母さんからの事後報告もなくすっかり忘れていたが、プロソポンはまだ掴まったまま。まだ、裁判中なので、投獄された彼に頼み込んだのだろうか。
でも、そんな普通に聞いてくれるとも思えないがーー無事なら良しということだろう。
「その……クローマとなにやらの件は知らないけど、作戦はこれで良いか?」
もちろん、満場一致で三人は頷いた。
「それで、皇帝と皇后の話なのですが……詳しい内容を話すと。自分が一番良いんですよね」
「どういうことだ。自分が命を捧げると言うのか?」
リフレイトは首を振る。
「いいえ、ここにはこう明記されています。三大賢者を引退せざる負えないくらいの負傷を負うと……、その通り、ただ三大賢者を引退するというだけです」
「リフレイトは三大賢者を辞めたかったのか?あまり、人のために自分が動くようなタイプには見えないが」
「いや、正直性に合わないですよ。三大賢者はやりたくないですけど、博士よりも手当が厚いので、こっちの方が研究が捗って良いんですよね」
「じゃあ、違う作戦でいこう。この件は一旦保留にしてもらえないかい?私が、色々検討してみる」
「別に、いいですけど……」
リフレイトがそう返すと、シュレリファはそのまま部屋を出て行った。
「相変わらず、優しい子ね」
シュレリファの、その背中を見て、お母さんは微笑んで呟いた。




