【第三章 - 13】皇帝と皇后の命日
ーー三日後。
作戦会議室の椅子で少女とエリーナは向かい合って座っていた。
そして、申し訳なさそうに、エリーナはため息混じりにそう言った。
「待たせてしまったようだな……」と。
「結構です」
そう言った少女の方を見て、エリーナは不思議そうに尋ねる。
「この子が、セレディア候補の子か?」
「いえ、断ったので、もう候補などではありません」
「そうなのか……、カーロから聞いていた子で間違い無さそうだな」
そう言うエリーナに、少女は不思議そうな顔を浮かべた。
「それにしても、皇女様が何故此処に?外交期間はもっと長かったでしょう」
「まぁ、外交先が幸いにも隣町のサンクティアで良かった。色々と理由はあるが、まず一つ目は竜災の対処。二つ目は、君の妹についての話がしたかったからだな」
そして、エリーナは切り替えるように大きく息を吸ってから言った。
「ところで、ルミナスタウンはどうだ?」
「良い街ですね。久しぶりに来ましたけど……、カーロ様も宿を手配してくれて、本当に助かりました」
少し穏やかな声色で少女は答えた。
「もう、カーロと仲良くなったんだな」
「えぇ、意外にも理解能力が高かったので……。カーロ様によろしくお伝えください」
「あぁ。よろしく伝えておくよ」
すると、少女は机の上にちょこんと手を載せてからエリーナに尋ねた。
「ところで、妹のこととは?」
それを聞いたエリーナは目を細めて少女を見る。
「何をとぼけている。童には双子の妹がいるのだろう?その子を救出するため……いや、あの孤児院にいる全ての子を救うための作戦だ」
「それは、やらない方が良いと思います」
否定的な少女に、エリーナは驚く。
「もしかして、君も甘猫と同じくーー」
「甘猫さんに何があったのかは知りませんが、そういうことじゃないと思います。私が言いたいのは、全ての子供を救うべきじゃないということです」
「それは何故だ?」
「知らないんですか……」
呆れた様子で少女は言った。
「知らない?」
「あそこは、楽園の中でもトップの狂人が揃う場所だということを」
その言葉に、エリーナは耳を疑う。
ただでさえ、セイシストの内情を誰よりも知っているのにも関わらず、そんな話。聞いたことが無い。
エリーナの認識だと、一番狂人が集まっているのは、シュタリ孤児院。楽園の中で最も安定しているのがデゼルダ孤児院という認識だった。
だからこそ、れいり達を派遣させたのだ。
「ところで、貴様。何故セイシスト教会にそこまで詳しいのだ」
「僕は、セイシスト教会の英才教育を受けているんです」
「英才教育?」
「えぇ、これは初めて言いますが。セイシスト教会には何人かのスパイが混在しているのですよ」
少女の言葉に、エリーナは驚愕した。
「それは、帝国から雇われているのか?」
「いいえ、嫌われているくらいですよ。大昔からスパイなんてずっと潜んでいる……。なのに、帝国はそれを無視して、その人達を弾き飛ばした」
そんな話。初めて聞いた。
でも、エリーナに責任がのしかかる。これは、血族関係なく皇族という権利の元に背負わなければいけないということを誰よりも理解していたから。
「別に、恨んでたりはしてませんよ」
「だが……」
「悪いのはセイシスト教会ですから」
淡々と言う少女を見て、エリーナは、何故、少女がセレディアになるのを拒むのか、何となく分かった気がした。
「それで、デゼルダ孤児院には狂人が多いと言うのは?」
エリーナの質問に少女は、少し息を吐いてから言った。
「デゼルダには多くの信者が居ます。特に、信仰の深い人が集まってるんです」
「それは何故だ」
「まぁ、そうですね……。あそこには、セイシスト・リオンの血を引き継ぐ司祭が居ると……そんな噂があるんですよ」
「それは……」
と言う、エリーナの口を少女は止める。
「もう、居ない……。セイシスト教会の聖堂に置かれている旧聖書を読めば分かると思いますが、セイシスト・リオンは女などには目もくれず、一生独身のまま生涯を終えた。そう書かれています」
「では、新聖書では何か」
「えぇ。セイシスト・リオンは女性と添い遂げ、今でも子孫は残っていると、記載されています」
それを聞いたエリーナは少し俯いた。
「エリーナ様は、セイシスト教会が子供に実験をさせているのはご存じで?」
それに、エリーナは顔を上げて頷いた。
「では何故、実験をしているのかまで知っているのですか?」
「そこまでは、まだだ」
「そうですか」
「教えてはくれないのか?」
「まぁ……。そう焦っても仕方ないですよ。『虹色の剣士』様なら、いつか、その答えを教えてくれると、星が言ってくれましたから」
すると、少女は椅子から立ち上がり、その場を去ろうとした。
「それでは……話の続きは、また明日……」
その様子をみて、エリーナは何も言わない。
「僕を止めると思ったのに……」
「仕方ないだろう?今日は三年に一度の緑色の流星群が見れる日だろう。カーロがそう言っていた」
少女は驚いたような顔をした。
「それでは、止められた時に言おうと思っていた台詞を……。竜災は3ヶ月後の10月31日に来ます。それが、皇帝と皇后の命日となるでしょう」
その言葉は、帝国の変わり目を含む意味を持ちつつも、エリーナとカーロがもうじき両親を失うことも意味していた。
「その未来を変えることは出来ないのか?」
少女が扉を開けたところでエリーナは尋ねた。
「確率は99.8%。もし、残りの00.2%が欲しいのなら、僕は貴方のために命を捧げます」




