最終章 主役はいつも猫だった
数年後──エレドリア帝国は「魔法と平等の国」として知られていた。
貴族制度は改革され、平民も高位の職に就けるようになる。
魔法は教育の一部となり、戦争は過去のもの。
セレステは公には「名誉令嬢」として、教育機関の長を務めていたが、真の権力は──
「今日の閣議、承認しました。北方の開拓計画、来月から開始」
「ああ。移民の安全対策は?」
「既に魔法結界と医療班を配置済み」
会話の相手は黒い猫。
今やルナスは「影の宰相」と呼ばれ、帝国のすべての意思決定に関与していた。
ある日、セレステが尋ねる。
「ルナス。もし、また運命がやってきて、新しい『主人公』が私たちを悪役にする物語を始めたら、どうする?」
ルナスは窓の外の空を見つめた。
「ならまた壊せばいい。物語なんて人間が作るものだ。俺たちが新たに描けば、それでいい」
「……あなた、本当に猫なの?」
「どうだろうな。でも、今のこの身体で、お前と世界を守れるなら、そんなことどうだっていい」
セレステはルナスをそっと抱き上げた。
「じゃあ、これからもよろしくね、主役さん」
ルナスは小さく鳴く。
それは、猫の鳴き声ではなく──笑い声のように聞こえた。
THE END