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氷魔法使いのアロリアは突然浮気相手らしき女を連れた婚約者に婚約を破棄され男に媚びたぶらかしていると難癖をつけてきたが王宮魔術師団となって評価をくつがえす〜冷酷な女性と呼ばれても気にしません〜

作者: リーシャ
掲載日:2025/10/25

 人は手元にあるものを使って、精一杯生きている。


「親より見た光景!」


 豪華なティーセットが置かれた応接室で、伯爵令嬢のアロリアは目の前の光景に思わず声を上げたのは、向かいに座る男爵令息エディワドの顔を真っ赤にしてアロリアを指さしている場面を見たから。

 彼の隣には、泣きはらした顔の男爵令嬢、フィンジィがハンカチで目元を押さえていた。泣いているようには見えないけれど?


「アロリア様!貴女のような冷酷な女性とは、婚約など破棄させていただきます!」


 エディワドの声はわずかに震えているがアロリアは、一体何が起こったのかまだ完全に理解できていなかった。数日前までは穏やかに婚約の話が進んでいたはずなのに。会っていない間になにが?


「あの……エディワド様、一体どういうことで?」


 アロリアが冷静に問いかけると、フィンジィが顔を上げた瞳には強い憎悪の色が宿っている。そんなふうに見られる会話をした覚えはないが。


「よくもまあ、そんな平静な顔ができるわね!貴女が裏で、どれだけの男性をたぶらかしていたか!」


「たぶらかす、ですか?」


 アロリアは眉をひそめた己は前世はごく普通の現代人、逆ハーレムなんて漫画やゲームの中の話だと思っていたけどまさか自分がそんな疑いをかけられるとは。証拠はあるのか疑問だ。


「ええ!近衛騎士団の隊長であるシグドラド様や、王宮魔術師団のカフィス様、それに、最近では隣国の王子までも!」


 フィンジィの言葉にアロリアは心の中で盛大にため息をついた。ああ、なるほどね。


 どうやら、フィンジィというお嬢様は、アロリアの周りにいる男性たちが皆アロリアに好意を寄せていると思い込んでいるらしく、しかも逆ハーレムを築こうとしている策略だと言われるから酷い妄想だなとしか。思い込みなのかも不思議だ。


(全く身に覚えがない……皆、社交辞令か仕事上の付き合いだと思っていたのに)


 前世の記憶を反芻させると現代社会では、異性との友好的な関係は当たり前だったし、少しばかり容姿が良いというだけでこんな誤解を招くとは。


「フィンジィ様?誤解です。シグドラド様とは騎士団の訓練でご一緒することがありますし、カフィス様とは魔法の研究で意見交換をする仲です。隣国の王子殿下とは先日、国賓としていらっしゃった際に一度お会いしただけです」


 アロリアは丁寧に説明しようとしたがフィンジィは聞く耳を持たないどころか、余計にキーキーと騒ぐ。


「嘘よ!皆、み〜んな貴女の美貌と魔法に惑わされているのよ!特にあの氷の魔法!冷たい氷のように、男たちの心を凍らせて自分のものにしようとしているんでしょう!」


 氷の魔法、それはアロリアがこの世界に転生してから与えられた特別な力。


(今になって、それを言うの?)


 冷静沈着なアロリアの性質にも合っていると言えるかもしれないが、男性を惑わすためのものだとは全くの言いがかりだ。


「私の氷魔法は、人助けやこの領地を守るために使っています。誰かの心を操るなど考えたこともありません」


 アロリアははっきりと反論したけどエディワドとフィンジィの目は、疑念に満ちている。


「もう結構です、アロリア様」


 エディワドは立ち上がり、冷たい視線をアロリアに向けた。


「貴女のような腹黒い女性とこれ以上言葉を交わすつもりはありません。婚約は今この場で破棄させていただきます」


 言い放つとエディワドはフィンジィの手を取り、足早に部屋を出て行ったので、取り残されたアロリアは静かに息をついた。婚約破棄。伯爵令嬢にとって、決して軽い出来事ではないが心は凪いでいた。


(これで良かったのかもしれない)


 逆ハーレムなど全く興味がないし、煩わしいと思っていたのだ。この婚約も家柄同士の都合で決まったもので愛情などどこにもなかった上に、ビジネス結婚みたいなものだし。


「さて、これからどうしましょうか」


 アロリアは一人になった応接室で小さく呟いた。婚約は破棄されたならば、これからは自分の好きなように生きられる。

 氷魔法の力をもっと磨いて、この領地のために役立てよう。いつか本当に心を通わせられる相手を見つけられたら、なんて夢物語なのかもしれないけれど。


(早速お父様に報告しておかないと)


 窓の外では柔らかな春の陽光が、庭の草花を優しく照らしている。清々しいとアロリアの心には微かな希望の光が灯り始めていた。


 婚約破棄から数日後、アロリアは自室の窓から庭を眺めていた。新緑が目に鮮やかで小鳥のさえずりが心地よい。


「まさか、あんな展開になるとはねぇ……」


 アロリアは、一人ごちた。婚約破棄の知らせはあっという間に領内にも広まったからか使用人たちは皆、心配そうな顔をしているけれどアロリア本人は意外とケロッとしていた。


(逆ハーレムとか、本気で勘弁だったし。あれはあれで、スッキリしたかも)


 前世の記憶を持つアロリアにとって、貴族社会の慣習は時に理解しがたい。特に複数の異性から好意を寄せられる状況など、現実味がなさすぎた。ごめんである。


 そんな中、アロリアは自分の研究に没頭していた。得意の氷魔法を応用して、領地の水源管理や作物の育成に役立てる方法を模索しているのだ。


「うーん、この魔力制御の式、もうちょっと効率化できないかなぁ」


 魔法に関する専門書を広げ、難しい数式とにらめっこするアロリアは時折、指先から小さな氷の結晶を生み出しては形を観察している。

 コンコン、と控えめなノックの音が響いた。


「アロリア様、よろしいでしょうか?」


 声の主はアロリアの侍女であるフロウリス。心優しいフロウリスは婚約破棄以来、アロリアのことをずっと気遣ってくれている。


「ええ、どうぞ」


 フロウリスが手に持ってきたのは、一通の封筒。


「旦那様(アロリアの父である伯爵)がお受け取りになったものです。王都からの書状かと」


「王都、から?」


 訝しげに封筒を受け取ったアロリアは封蝋を確認したてみると、よくよく見ると特別なものだ。王家の紋章が押されている。


(一体、何?)


 中を開ける。整った筆跡である人物からの面会要請が書かれていた。


「……カフィス様?」


 書状の差出人は王宮魔術師団に所属する、カフィス・ラインハルト。先日、フィンジィがアロリアの名前を挙げていた人物の一人。


(え、なんで今さら?婚約破棄のこと、何か言ってくるのかな?)


 アロリアは少し警戒しながらも、指定された日時に王都へ向かうことにした。色々準備しないと。


 数日後、王都の王宮の一室でアロリアはカフィスと対面していた。

 噂通りの美丈夫だがその表情はどこか硬い。


「本日は、お忙しい中お越しいただきありがとうございます、アロリア様」


 こちらも礼儀を重ねる。


「いえ、こちらこそ。突然のご連絡、驚きました」


 アロリアは、冷静に返した。


「単刀直入に申し上げます。この度の男爵令息との婚約破棄の件、誠にご愁傷様でございます」


「ありがとうございます」


 ありがとうって、なんだか可笑しい。


(やっぱり、この話から入るのね)


「実はずっと、アロリア様の魔法の才能に注目しておりました。特に精密な氷魔法の制御は、並みの魔法使いでは到底及びません」


 カフィスは真剣な眼差しでアロリアを見つめた。ビジネス?


「つきましては、大変恐縮ではございますが、アロリア様に王宮魔術師団の一員として、研究にご協力いただけないでしょうか」


 なにを言うのかと、身構えていたけれど。


「……え?」


 アロリアは予想外の申し出に思わず間の抜けた声を出してしまった。


(え、ちょ、展開が急すぎない?婚約破棄の話じゃなかったの?)


 怪訝になる。


「もちろん、強制ではございません。しかし、アロリア様の才能は、王国の魔法研究にとってかけがえのないものとなると確信しております」


 カフィスは、熱意のこもった声で続けた。プレゼンみたい。


「もしよろしければ、一度、王宮の研究施設を見学にいらっしゃいませんか?きっと興味深い研究に触れることができると思います」


 アロリアはしばし考え込んだ。婚約は破棄され、これからどうしようかと考えていた矢先の誘い。しかも、自分の魔法の才能を認めてくれるという。


(王宮魔術師団……なんか面白そうかも)


 逆ハーレム疑惑は晴れないかもしれないけれど、自分の興味のある研究に没頭できるチャンスかもしれない。


 逆ハーレムなんて作らないけど。


「……ありがとうございます。ぜひ、一度見学させてください」


 アロリアは答えた。現代の感覚からすると流れは読めないけれど、新しい道が開けたような気がしたアロリアが王宮魔術師団の研究施設を訪れたのは、それから数日後のこと。広大な王宮の一角に位置するその施設。


 外観こそ歴史を感じさせる石造りだったが、内部は最新の魔法技術が導入され活気に満ちていた。


「ようこそ、アロリア様。こちらが、私たちの研究室になります」


 カフィスに案内される。様々な実験器具や魔法陣が並ぶ部屋を見学するアロリアは、目を輝かせた。宙に浮かぶ魔法の炎、複雑な紋様を描く光の線。見たこともないような魔道具の数々。


「すごい……まるでSFの世界みたい」


 思わず漏らしたアロリアの言葉にカフィスは少し驚いたような表情を見せた。


「SF、ですか?それは初めて聞く言葉ですね」


 焦る。


「あ、いえ、故郷の言葉で……えっと、素晴らしいという意味です!」


 慌てて取り繕うアロリアにカフィスは微笑んだ。


「アロリア様の故郷は随分と進んだ文化を持っているのですね」


 その後、アロリアはいくつかの研究プロジェクトの説明を受けたそのどれもが知的好奇心を刺激するものばかりだった。特に、氷魔法の応用に関する研究はアロリアがこれまで個人的に進めてきたものと共通する部分が多く、すぐに興味を持った。


「もしよろしければ、アロリア様にはこのプロジェクトにご参加いただきたいのですが」


 指し示したのは大気中の水分を凝縮させて乾燥地帯に安定した水源を確保する、という壮大な研究だった。


「私が、ですか?」


 思わず聞き返す。


「ええ。アロリア様の精密な氷魔法の制御技術は、研究に不可欠です。それに……あなたの斬新な発想がきっと新たな道を開いてくれると信じています」


 カフィスの真剣な眼差しに、アロリアの胸は高鳴った。自分の能力が誰かの役に立てるかもしれない。何よりも、純粋にこの研究に惹かれる。


「喜んで、協力させていただきます!」


 こうして、アロリアは王宮魔術師団の一員として、新たな生活をスタートさせることになった。過大評価されている気もしたが研究に没頭する日々は、アロリアにとって充実したものだった。

 カフィスをはじめとする魔術師団のメンバー達は、魔法に対する情熱にあふれながらも互いに意見を交わし、協力しながら研究を進めていた。


 アロリアも、現代の知識や発想を活かしながら、積極的に研究に参加していった。楽しくて、寝食を忘れる日もある。

 そんなある日、研究室にシグドラドが顔を出した。近衛騎士団の隊長である彼は、王宮内でも一目置かれる存在だ。


「カフィス、少し話がある」


 シグドラドは普段の凛々しい表情を少し和らげ、カフィスに声をかけた。


「ああ、シグドラド殿下。何かありましたか?」


 カフィスが問い返すと、シグドラドの視線は、研究に集中しているアロリアに向けられた。


「アロリア嬢……いや、アロリア様は、こちらでの生活には慣れましたか?」


 突然、自分の名が挙がりアロリアは顔を上げた。


「はい、おかげさまで。皆さんと一緒に研究できて、とても楽しいです」


 アロリアが笑顔で答えるとシグドラドは微かに微笑んだ。


「そうですか。それは何よりです。もし何か困ったことがあれば遠慮なく私に申し付けてください」


 随分と気にかけてくれる。


「ありがとうございます」


(あれ?シグドラド様って、フィンジィさんの件で私に悪い印象を持っているんじゃなかったっけ?)


 アロリアは、少し不思議に思った。しかし、シグドラドの表情は穏やかで、敵意のようなものは感じられないなと首を傾げる。


 その後も、シグドラドは時折、研究室に顔を出しアロリアの様子を気遣うようになった。まあ、気にしないでおこう。また、他の貴族たちも、アロリアの魔法の才能と研究への貢献を認め始めるや以前のような誤解や噂は、徐々に薄れていった。そもそもデタラメなのだ。強くなりようがない。

 そんなある日、アロリアはカフィスに、以前から気になっていたことを尋ねてみた。


「カフィス様、あの……私が婚約破棄になった時、フィンジィ様が私のことを、色々な男性をたぶらかしていると言っていたのですが?」


 少し言い出しにくそうに尋ねるアロリアにカフィスは苦笑した。


「ああ、その件ですか。ご心配には及びません。シグドラド殿下も私も、アロリア様がそのようなことをするはずがないと分かっております」


「え、どうしてですか?」


「アロリア様の普段の言動や研究に対する真摯な姿勢を見ていれば、すぐに分かります。それに、シグドラド殿下はフィンジィ嬢の……その、少しばかり激しい性格をよくご存知なのです」


 カフィスの言葉にアロリアは肩の力が抜けるのを感じた。悪評は信じられていなかったらしいから、誤解が解けていたことに安堵した。


(あー、よかった……これで、堂々と皆と接することができる)


 アロリアは、改めて研究に身を入れようと決意した。後に聞いた話で、元婚約者のエディワドと浮気相手のフィンジィは嘘がバレて大人や周りに怒られたり嘘つきと、後ろ指を差されているとか。


(カフィス様が昼職に誘ってくれるし、心地いい職場でかなり上向きになってる)


「アロリア様、よければこれを」


「え?あ、綺麗なバレッタを」


 カフィスが照れたように差し出してきた、綺麗な装飾品。


「あ、ありがとうございます」


 断ろうとしたが、彼の耳が赤いのに気付いて、こちらも照れながら受け取る。研究の有用性も知られて、今後もやりやすくなるに違いない。

 自分の魔法が、誰かの役に立つ。その喜びを胸に、彼女は今日も、研究室で氷の魔法と向き合っている。

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