��駅
電波が不安定で、いつ完全に途切れるかわからない。
だから、この奇妙な経験を記録しておきたい。
私は、 ��駅の待合室で、スマートフォンで文章を打ち込んでいる。
というのも、ここがどこだか分からないからだ。
意味が分からないだろうが、これについて、順を追って説明をする。
今日、私は、会社の新商品開発のため��市を訪れた。
特に何もない商談だ。
しかし、予定より遅くなり、新幹線に乗り遅れないように慌てて ��駅に向かった。
20時頃、駅に着いた時はまだ人がいた。
ついさっきだ。
だが、待合室に入ったとたん、世界が変わってしまった。
ここは ��駅のはずなのに、どこか違う。
誰もいない。
誰かに助けを求めたいが、周りには誰もいない。
ただ、待合室に、私一人がいるだけだ。
先ほど私は、駅を出ようとした。
しかしそれはできないことが分かった。
駅の外には、出ることができない。
一面の闇だからだ。
漆黒の闇だ。
そんな闇に入っていくことは不可能だ。
この駅が闇の中にポツンと存在している。
暗闇の海にある孤島が、この駅というわけだ。
電波が不安定なので、電話はまともな会話も出来ずに途切れてしまう。
私はこの異様な状況を伝えるため、必死で文章を書いている。
そして、ネット上の目のつくところに文章を書きこむか、投稿するしかないのだ。
この電波は、携帯キャリアのものではない。
駅に設置されている公衆無線Wi-Fiだ。
このWi-Fiが私の通信の命綱だ。
もうとっくに携帯の電波が入らないことは確認しているからだ。
私の登録しているSNSのアカウントには接続ができない。
まるで誰かが見ているように、接続しようとすれば通信が切れるのだ。
画像や動画のアップロードをするのが一番なのだが、困難だ。
繋がるサイトは、検索サイトやそこから飛べるどうでもいいサイトしかない。
掲示板でもいいのだが。
監視を搔い潜るかのように、どこかのサイトにこの文章を投稿するしかない。
しかし、どうしてこのようなことになったか。
全く心当たりはない。
奇妙な音が遠くから聞こえてきた。
まるで歪んだ汽笛のような、人の悲鳴にも似た音。
一番初めに聞こえた時より、音が近づいてきた。
近づいている。
間違いない。
近づいてくるのだ。
その音が段々と大きくなってくる。
もうだめだ。
今、音が消えた。
駅の照明が切れた。
今は、このスマホの明かりがすべてだ。
静まり返っている。
暗闇の中、何も音が聞こえない。
今の私には、状況を詳細に記録するしかできない。
しかし、これで状況が変わるとは思えない。
そもそも、これを読む人がいるのだろうか。
突然、スマートフォンにメッセージ着信がきた
呪呪呪呪呪呪呪呪、というメッセージ。発信者は匿名だ。気が滅入る。
わずかな希望は、この通信しかないのだが。
れっきとした現実世界から切り離されて、不穏なメッセージ。
ろくに確認する間もなく、次のメッセージが来た。
死死死死死死死、こんな調子で同じような文言だ。
ネットワークが不安定になった気がする。
どちらにしても、メッセージを送り返す気力もない。
ここにいても何も解決しない気がする。
私は、移動した。
スマホの光源を使って駅内を移動した。
新幹線のホームへと。
ホームから見えるのは一面の闇だ。
電車が来るようにも見えない。
私はホームの端まで歩いた。
ホームは真っ暗で、ホームの端から先は、闇に満ちていた。
それは崖のようにも見える。
非常に危ない。
ホームの端から先に進むと、底なしの穴があるようだ。
私はホームの端に立ち、底なしの闇を照らす。
スマホの光は、その闇をほんの少しだけ照らすが、それ以上は何も見えない。
まるで世界の果てに立っているみたいだ。
ここには何もない。
私は、引き返した。
今、私は待合室にいる。
この ��駅には、新幹線と��本線のホーム。
あとは、よく知らなかったが私鉄のホームがあるらしい。
新幹線改札内から��本線に移動することにした。
改札を乗り越えて、私は��本線へ移動した。
闇の中に駅がある状況には、変わらない。
人もいない。
電気も消えたままだ。
��本線のホームへ移動することにした。
周囲は真っ暗で、スマホの光だけが頼りだ。
��本線のホームに立っている。
ここも新幹線ホームと同じように、闇に包まれている。
スマホの光が届く範囲は狭く、その先は底知れぬ暗闇だ。
ホームの端に近づくと、また例の奇妙な音が聞こえてきた。
悲鳴のような、汽笛なような音。
しかし、目の前には何も見えない。
音だけが近づいてくる。
私はホームの中央に戻ることにした。
すると突然、風が吹いた。
電車が通り過ぎるような感じだ。
もっとも電車は見えないのだが。
私は、なぜだかよくない予感がした。
だから、急いでホームを離れた。
改札を通り抜けると、風は止んだ。
しかし、代わりに聞こえてきたのは、かすかな音だ。
あの悲鳴のような音。
音が近づいてきた。
私は、先ほどまでいた待合室にいく。
そこなら安全だと思ったのだ。
待合室に入った瞬間、スマホには着信が来ていた。
次々とメッセージが届く。
内容は見るに堪えないメッセージだ。
意味はない。
呪いのような文字。
気が滅入るので、すべて読んでいない。
私は、ここにしばらくいることにした。
私が、この駅で探索していない場所は、私鉄のホームだ。
��線らしい。
私は利用したことがない。
ネットの情報がすべてだ。
あとしばらくしたら、そのホームに向かうことにする。
結論は、不可能。
駅を一度出てから、その��線へと行かなければならないらしい。
駅の外の闇を抜けることは不可能だ。
とすれば、私に残されたのは、やはりこの駅舎内しかない。
新幹線、��本線のホーム。そして、今いる待合室。
スマホの充電は、残り30%を切った。
この駅舎のコンセントを使用しても充電ができないことは先ほど、確認した。
また、電気がついているものは皆無。
一度、この文章をどこかに投稿しなければ。
私は、サイトを検索して投稿先を見つけることにした。
闇が一層深まった。
今、待合室にいるのだが、周囲をまったく識別できない。
スマホの光は、その闇をほんの少しだけ照らすが、それ以上は何も見えない。
まるで世界の果てにいるようだ。
周囲は闇だ。何も見えない。
何も見えない。
見えない。
駅の外にある闇が、中に入ってきたみたいだ。
今、遠くからかすかな光が見えた。
それは徐々に大きくなり、列車のヘッドライトのように見える。
ここは駅舎の中であるはずだ。
だけど、暗闇に包まれているので、何も見えない。
少なくとも、私の周りに線路は見えない。
光は闇の中を浮遊しているかのようだ。
光がゆっくり近づいてくる。
私は今、見つけたサイトに、この文章を投稿することにする。
あの光は良くない気がした。
何か良くない光だ。
警告
光を信じるな。
闇の中は底なしで危険
待合室が避難所。だが、永遠ではない
SNSは使えない。
もう一度新幹線ホームに行けばよかった。