冬のある日…それは突然起きた
「…てゆか何でそんなに隠したいの?」
「そ、それは、中学生の時こういうことをしてるのを当時、仲の良かった友達が最悪な形で知って…その…イメージと違ったって…言われて…それで…ってすみません。(苦笑)
あまり話したくないことでして…。」
=3年前=
「草華ってさ、アニメになるとめちゃめちゃ語りだすよね(笑)」
「それ思った!すごい、そーちゃん早口になる!」
「そうかなぁ?なんか無意識って怖いけどある意味すごいね(笑)でも本当にいい声すぎたんだもん!」
当時アニメが好きなことを友達に言えていた私は、よくアニメについて話していた。このシーンが好きだとか、あの声優さんが好きだとか…当時は楽しく話してた。友達はアニメよりもドラマやアイドル好きが多かったけど、お互い好きな人やものを共有し語り合い、共感しあっていた。
そしてもちろん当時も憧れの声優になりたくて、好きなアニメのセリフを覚えては、自分なりに練習をしていた。
冬のある日…それは突然起きた。
「おはよう!百、ちーちゃん!」
「お、おはよう…そーちゃん。」
?…。何か2人の様子がおかしい。
「何かあったの?なんか2人とも元気なくない?」
「え、それ草華が言う?」
「ちょ、百ちゃん…。」
「ご、ごめん、分からない…んだけど。私、何かしちゃったかな…。」
百がこんなにもイライラしてるところを見るのは初めてだった。気が強く、自分の芯を持つ百は、思ったことをはっきりと口にする子だった。
「北条先輩。草華知ってるよね?」
北条先輩は、当時ちーちゃんが付き合っていた彼氏であり、私の部活の先輩でもあった。
ちなみに百とちーちゃんは同じ部活で、私だけ違う部活に入部していた。
「うん…だって先輩はちーちゃんの彼…」
「そう、千恵美の彼氏。んで昨日、部活終わって北条先輩と何してた?部室で。私達聞いちゃったんだけど。
好き。俺も好き。みたいな謎の会話。これ完全浮気だよね。」
「違う!これはセリフの練習に付き合ってもらってて。それの掛け合い…。それに他の部活の人たちだっていた…。」
そう、私は部室でセリフの掛け合いの練習を手伝ってもらっていた。
憧れの声優になるために反対する両親を頑張って説得し、やっと高校からならやってもいいと許可も得ることができた。それからずっと私は声優オーディションに向けて練習していた。
将来についてよく相談していて、そのことをよく知っていた同じ部活の人たちは応援する!と言ってくれ、よく掛け合いの練習に付き合ってくれていたのだ。
昨日はその一部を聞いたのだろう。
2人には、あまり将来の話について話していなかった。
ちゃんと説明しないと…
「じ、実はね私、声優に…」
「え、何それ。何掛け合いって。それを口実に一緒にいたの?他の人がいたのもどうせ嘘でしょ。」
「本当だよ!それなら他の部活の子に聞いてみて!」
どうしよう。話…話さなきゃ。
2人ともお願い、聞いて…!
「…確かにそーちゃんはアニメ好きだもんね。掛け合いっていうのも、あれだよねアニメ業界の言葉なんだよね。まぁ確かに北条先輩もアニメ好きだって言ってたし、それに先輩は、優しいから手伝うっていうだろうし…。」
「ちーちゃん、本当にごめんね。事前に伝えておくべきだった。私ね、声優目指…」
「そーちゃんは、なんかもっと真面目な人だと思ってた…。
だから、アニメ観てるって知った時は正直びっくりしたし、今回のことなんて…もっと驚いた。
なんか…話していくうちに、私の思ってたイメージと全然そーちゃん違ってた。」
え、何それ。
話信じてくれないの?
私と同じ部活の人達に話聞いたの?
それよりも…
真面目な人ってアニメ観ないの?
イメージと異なることしちゃダメなの?
私は沢山の疑問を頭の中で生産しては、その場で処分した。もう何言っても無駄だと思った。
心がスコップで沢山掘られたかのようにぽっかりと穴が開いた気分になった。
それから2人とは関わらず、中3になると私は学校を行く回数が減ってしまった。事情を知った家族は、心配をしてくれるものの、裏では声優という道をこれで諦めるだろうと安心していたようにみえた。
とにかく私はこれを機にアニメが好き…いや
“私=真面目”
というイメージを崩さないよう無意識に好きなことを伝えるということに蓋をするようになった。