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第9話 「酒飲めば 不安吹き飛ぶ パッパラパー」

パチパチと焚き火が音を立てる中、俺たちはちょうどいい感じにあった倒木に腰を下ろしてその成り行きを静観していた。それは時間とともに大きな火柱を形成し、木々が黒く焦げついた。一方では強い光を放って我々の目を潰そうとする。それは、、、


「ウルトラ上手に焼けましたー!」


焚き火の上で焼かれていた肉たちがいい感じに焼き上がった。


「お前どこからその声出てんだよ」


あまりの本家再現度に思わずツッコミを入れてしまう。つっても焼いてる肉がスライムによってフランベ加工されてたり、無駄にゲーミング七光されてたりするからギャップが酷いのなんの。こんなのイエティでも寒暖差で風邪引くわ。


「おぉ! 美味しそうなお肉の焼ける香ばしい香り! 随分と美味しそうじゃないか」


「お前マジで言ってんのか?」


虹色に輝く肉を指さしてミラーゼに質問する。こんな得体の知れない食い物をよくもまあ美味しいと言えるものだ。


「いや、チョットナニイッテルカワカラナイ」


「とぼけんじゃねえよッ! 俺たちはこの肉を食わなきゃならない運命にあるんだッ!!!」


「命は粗末にできないんだよッ!!」


「え、えぇ!? 君たち案外律儀なんだね、、、」


驚いた顔でこちらを見てくるミラーゼ。何を言っているんだこいつは。俺たちは初めから律儀でジェントルメンだったではないか。


「んで、お前は命を大切にする側か、粗末にする側か、一体どっちだっていうんだ!?」


「マジで食べる気なの!? いや無理だって! 明らかに食べちゃいけない毒物の色してるじゃんッ!!」


「お前に、言いことを教えてやろう」


「な、なんだよ急に改まって」


「この世にはな、ピータンと呼ばれる食べ物がある。言っておくがゆるキャラの名前ではない、、、これはな、赤黒い半透明のゲルの中に青カビのような緑色の物体が入っているという恐ろしい見た目の食べ物なんだ。だがピータンは毒物ではないッ!!!」


「な、なんだってぇ〜〜!?」


「つまり、食べ物は見た目で判断してはならないと言うこと。食わず嫌いはダメなんだッ!!」


「はぁ!」


心臓を撃たれたかのようにミラーゼがたじろぐ。それに合わせて俺は膝に肘をのせ指を組む。


「さあ、それでは始めよう。抽選会(デスゲーム)を」


「いや君思いっきし毒物だって認めてんじゃん!?」


「黙れ」


そして運命は決定された。公正なるそこら辺の枝による抽選の結果、俺が神風になった。もうこの世を去る決意をするべきかも知れない。遺書もないのにッ!


「クソがッ!!!」


「じゃ、じゃ、佐武郎くん。はいこれあーん♡」


ミラーゼによって差し出される虹色の肉。ああ、肉が虹色に輝いていなければこれほどまでに和やかなシチュエーションはないと言うのにッ!!


「あーん!」


そうして肉に齧り付いてみるとあら不思議、口内に甘い香りが一気に広がり、世界がいきなり虹色に輝き出す。形容するならば、夜に輝くお月様が突然パーリーピーポーになってカラーボールに転職してしまったような状況となった。


「うぅううゔぉえ、世界が、世界がぁあああああああ!!!!!!!!!!!」


「なんだなんだ、そんなに美味いのか!?」


慎吾はラリってる俺を横目にミラーゼが持っていた虹色肉を取り上げ、ガブっと一気にかぶりつく。結果、慎吾も錯乱状態で叫び出した。あたりは阿鼻叫喚のレインボー地獄である。


「FOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!(狂乱)」


「FOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!(大狂乱)」


「だ、大丈夫君たち!?」


次の瞬間、俺たちは気絶した。




△▼△▼△




気づけば森を歩いていた。

何もかもが絶えず蠢き続け、形を持たない。しかしながら、ただ不規則に変形しているのではなく、大半のものが木から草へ、草から星へ、星から木になった。それは輪廻であり、変わらぬものである。一方でいくつかの存在は小鳥から人へ、人から鹿へ、最後には本当の混沌となった。


森は紫色だった。いくつかのものは緑色ではあるが、それらはすぐに紫になった。そして緑が消えるごとに霧が深まり、海水でも飲み込んだかのような塩辛いものが肺に吸収されていく。錆びつくようだ。森の匂いはニンニクのようで、それは混沌に近いほど強まった。


俺は一体何をしているのだろうか。

ふと自分の手を見てみる。自分の指は何本だろうか? 5本? 9本? 確か20本だった気がする。指から指が生え、その指からも指が生える。無数の指が指数関数的に増えていく。己の定義がより微細に決められていくようで、しかし実際は認識できない領域が広がるばかりだった。


いつしかここで俺は空間と調和するのだろうという確信が無根拠に強まっていく。空間に固定された私はどうなるのだろうか? ボクはきっと段々と私を忘れるのだろう。己が掻き回され、周りとの境界線を定義する膜だけが残る。ああ、私はきっと幸せである。俺がそう思うのだから。


ここで一句。


『酒飲めば 不安吹き飛ぶ パッパラパー』


by み⚪︎お





「ハッ!? 世界の真実を知ってしまったッ!!!」


「カルたんがたくさんッ!?」


「そ、そうかい。ともかくおかえり君たち」


ミラーゼがなんかすごい顔でこっちを見つめている。こっちは道連れにならなかったミラーゼを怨みがましい目で見ている。弟子よりも先を逝かない師匠などいていいのだろうか? いや、そんなの存在してはいけない。


「あぁ、えっとぉ。そ、そうだ君たち! イノシシャのお肉残ってるけど食べる?」


そう言ってミラーゼがこちらに寄越して来たのは本来の体積の1/3になったこんがり肉だった。


「「は?」」


「ほ、ほらほら、遠慮しないでいいんだよ?」


グイグイと骨を俺の頬に押し付けてくる。てか、よく見ればこいつの唇あたりが炎で照らされてテカってんだけど。遠慮するべきはお前の方じゃねえか!?


「そうかそうか。ミラーゼ先生、あなたも遠慮しないでいいんですよ?」


こちらもその辺に転がっていた虹色肉で応戦する。ミラーゼの頬に虹色光肉の骨が当たって面白い感じに顔が歪む。この譲り合い精神によって勃発した押し付け合い合戦は穏やかに進行するが、どちらも結局受け取らない。


「貴様ァ! 肉を食え、肉を食うんだッ! あんたも一緒に夢の世界にぶっ飛ぶんだよッ!」


「そんなヤバそうなの食べるわけないじゃん! そんなことより君たちのために残しておいた思いやりのお肉を食べなよっ!! 私の優しさをその身に刻みつけるんだ!」


「何ぉ? 思いやりとか言いつつ2/3消えてるんだが? 俺たちの肉を返せや! 吐き出させてでも取り立ててやるッ!」


「な、なんてことを言うんだ君ッ!? 乙女に向かってそんなことを言うなんてっ!」


「ッチ、埒があかねえ。慎吾、この肉持ってろ! 俺がこいつの口をこじ開けたタイミングで肉を中に突っ込むんだッ!」


「イエッサー!」


「わ、わ、何をするんだァーーーー!!!」


ミラーゼの鼻と顎を掴んで上下に引っ張る。しかし、レベル差というものがでかいからなのかまったく口を開ける気配がない。既にこちらはレベル400ほどに達しているというのに。腐っても、というかこんなやつでもやはり勇者の師匠だということだろうか。


「いい加減にするんだ君たちっ!!!」


その一言に続いて強烈な平手打ちが放たれ、虹色光肉が遠くに飛ばされる。直後、木にぶつかりグチャッと音を立ててその根元に落ちた。かと思えばいきなり木が虹色に輝きだし、根っこを器用に使って地面からすっぽり抜け出した。


「レインボーユーカリ!?」


虹色に輝き出した木は己の存在を確かめるように幹という幹や枝を動かし、そのうち近くに三体の生物がいることを認識したのだろう。突如としてこちらに向かって高速で走り出す。心なしかマ⚪︎オのあの音楽が聞こえてくる。


「人生ってさ、本当によくわからないもんだよな」


「そ↓れ↑な→」


「そんな呑気なこと言ってる場合じゃないでしょ!?」


もうあの音楽が近くまで迫ってきている。きっと虹色に光り輝く配管工のおっさんに迫られたク⚪︎ボーの気持ちってこんな感じだったのだろう。正直もう諦めてしまいそうな絶望感である。しかし、俺の異世界ライフはこんなところで終わってはならない。そう、終わってはならないのだ。


「逃げるは恥だが生き残る! さあ楽しい楽しいランニングの時間だぞぉ!?」


「FOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」




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