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第3話 「華麗なる逃走劇、なお痛車 -前編-」

「ここから先は王の御前である。決して無礼の無いようにな」


「俺たちがそんなバカなことをする人間に見えるのか?」


「「ああ、見えなくてもそう思う」」


「「分かった、俺たちは黙っている」」


「「ならばよし」」


こうして俺たちは兵士たちに釘を刺された後、謁見の間に足を踏み入れることになったのである。




△▼△▼△




謁見の間、それは王と触れ合える場所。一応本来の意味では王に謁見するための場所であるはずだが、“ 勇者だけど恋人探しの旅に出ます 〜愛されるほど強くなるスキルを手に入れた俺は、ハーレムを作って世界最強になる〜“のアニオリ展開で『王』と呼ばれる謎の白い犬が王冠を被って登場したことから、ふれあいの間と呼ばれている。


なお、この国にはしっかりと人間の王と王妃が存在。白い犬はその二人の愛犬だそうだ。


さて、俺は『王』に会えるのではないかと淡い希望を持って謁見の間に臨んだわけだが、残念ながら目の前に現れたのは真顔の王……と俺たちの痛車であった。


あれ、ちょっと待て。何故俺たちの痛車の上に真顔の王が鎮座しているのだ?

そんな痛車のプロモーションみたいな……


「お前たちが密かに宝物庫に忍び込んだ盗人たちであるか?」


王はたいそうご立腹らしく、威厳のある声からは静かに怒っていることがわかる。しかし、どういうことだろう? 俺たちが宝物庫に忍び込んだ? そんなバカなことがあるはずが……いや、ふと頭に嫌なイメージがポップした。もしかしたら、俺たちがこの世界に来るときに初めて降り立った場所が宝物庫なのでは!?


最悪の事態である。


確かに宝物庫の中に例え気絶していて意識のない二人組の男が現れたとしても、普通に考えてそいつらは盗人だと判断されるだろう。まさか、異世界からの転生者であるとは思いもしない。


さて、しかし王に意見しなくては現状の芳しくない状況が好転することはないのが事実である。俺たちは例え意見する意見が無くても言わねばならないのだ。だから俺たちは必死に弁解しようとした。


「なんだお前たち、ふざけているのか? そんな腕をブンブン振り回しても何がしたいのかわからんぞ?」


「……!」


「いや、だからわからんぞ。言葉がしっかり通じていないのか?」


「いえ、王よ。彼らが王に無礼のないよう黙らせておいたのです」


「その結果がこれか? 本末転倒だな、今我はすごくイライラしている。さっさとこいつらをしゃべらせろ」


「そうだぞ罪人ども! 王の命令だ、さっさと喋れ!」


理不尽だ、なんて理不尽なんだ。行き過ぎた配慮は人を傷つけると今理解してしまった。


「王よ! 俺たちは、そう、あれだ、とにかく俺たちは罪人じゃない!」


「信じられるか!」


クソッ、埒があかねえ。なんとか平和的解決を俺はしたいんだ、日本人の名にかけて! しかし、俺がなんとか弁解をしようと再び口を開けた直前、王が先に口を開いた。


「いいか、お前らは宝物庫侵入の罪があるがそれだけではない! これを見ろ、お前らと共に宝物庫にあったよくわからないものだ! なんとこれには我が王家の紋章が刻まれていたのである。まさしくこれは王家への不敬だ! 宝物庫侵入に、王家の紋章の偽造、お前らに正当な弁解はあるか!?」


なん……だと、俺の痛車に王家の紋章が? 確かウェンディルヘン王家の紋章はミツウロコ、ト⚪︎イフォースと同じ紋章だったはず。そんな模様、痛車にあったか……? っは、そうだ、そうだよ。ミツウロコ、あったじゃないか、ハンドルの中央にデカデカと刻まれていたやつがヨォ!そしてその刻印をした奴は……


「慎吾ォおおおおお、貴様ぁあああああああああああああああああ!!!」


「いや待て佐武郎、まだ焦る時じゃない」


「なにッ、まだここから入れる保険があるというのか!?」


「ここは兎に角俺に任せろ」


慎吾は一歩前に足を出した。途端、周りの近衛兵が警戒して剣を俺たちに向けてくる。が、程なくしてその行動に敵意がないことを察し、剣を下ろした。この間、慎吾は涼しい顔で、ただそこに立っていた……足だけはあいつの周りだけ地震が起きてんのかってぐらい震えていたが。


「王よ! 俺たちは王にこの車と呼ばれる鉄の馬を搭載した馬車を極東に位置する我が日本国との友好の証として献上すべく、転移魔法で遥々遠くからやってきました。ですが転移魔法の行使に失敗し、宝物庫に出てきてしまったのです」


「ほう、お前たちはその日本国とやらの使者だというのだな? なるほど、それが本当ならば我々が貴殿たちにしてきた非礼を詫びよう。だが、使者といえど転移魔法については聞き捨てならぬ」


その瞬間、慎吾はハッとしたようだ。そう、後に佐武郎も知ることとなるが、転移魔法というものは魔族のみが行使できる魔法である。つまり、慎吾は自ら自分達が無知な魔族、または魔族に与する者であると暴露したに等しい過ちを犯したのだ!


「近衛兵、その者たちを捕まえ即刻処刑しろ! 魔族に与する者は何がなんであろうと許してはならぬ!」


「慎吾ォおおおおお、貴様ぁあああああああああああああああああ!!! やりやがったなああああああああぁああああああああああ!!!!!!」


現在の状況は控えめに言って地獄。ジリジリと近衛兵が臨戦体制で近づいてきており、逃げることは難しいだろう。どうすれば良い?現状手は縄で縛られ、有用そうな持ち物は何もない。今更王を説得できるなんて到底思えない。そんな絶望的な状況の中、俺の視線は王が鎮座していた、今は近くに誰もいない痛車に向いた。


「ふ、ハハハハハ! バレてしまってはしょうがない!」


そうだ、俺たちには痛車がある!なんとかあれに乗り込めば、この窮地をなんとかできる自信が俺にはある!根拠のない自信ではあるが、どのみち俺たちに選択肢はない!!


ひとまず、ガキの頃に習得した筋肉収縮式手縄取り外し術を発動、効果は今まで俺を拘束していた手縄を外す。兵士の皆さんが人体について無知で良かったぜ!これで鬱陶しかった拘束が無くなった。


「行くぞ慎吾! このピンチ、痛車でなんとかするッ!」


「オーケー、佐武郎、で、何をするんだ」


「プランは、無いッ!」


「なんだとぉう!?」


車までは6m程。

まだ、近衛兵たちは俺たちの周囲4m程にいる。しかしッ、俺の拘束がなくなっても相手は剣を持った熟練の兵士!勝てるわけが無い。


残り3m


考えろ俺、生身の人間が剣を持った人間に勝つ方法を!

今あるものは?ロープ!

今ないものは?目の前の敵を滅ぼすマシンガン!


残り2m


待て、ロープ?ロープで剣を巻き取り無力化するか?ってそういえばこのロープ、慎吾つきじゃねえか!あいつ義務教育《年上の人間からボコボコにされる》を受けてないのかッ!


残り1.5m


もういい、慎吾を犠牲にしよう。そうすればその隙に俺が痛車にたどり着けるだろう。いや、だが親友のクソ野郎を殺していいのか?例え勝手に人の愛車を痛車に改造するやつでも見殺しになんて、、、


残り1.0m


もうだめだ、やはり慎吾を差し出して、、、そんな思いに惑わされ、慎吾に手が伸びかけたその時、聞き覚えのある痛車のエンジンがかかる音がした。続くように、痛車のオートライトが点灯し、そのままハイブリッドの強みを生かした初速アタックで目の前にいた近衛兵をノックバックした。その光景に周りの兵士は大混乱、今まで動かない物だとばかり思っていたものが意識の外から襲ってきたとあれば自然だろう。これはチャンスだ!今なら痛車に乗れるぞ!


「慎吾、今だ乗り込め!」


「お、ちょっと、このロープをなん」

「さっさと乗り込むんだよ!」


車に飛び込むようにして乗った俺はすぐさま扉を閉める!慎吾が乗り込んだことを確認すると、シートベルトは着けずに全力アクセル!


「日本の痛車はぁああああ、世界一ぃいいいいいいいいいいいいい!」


「FOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」


「さあ、この王城から脱出するぞ!」


目指すは入ってきた時に確認できたでかいガラス窓!幸いにもこの王城はド⚪︎クエ方式みたいな狂った構造だ。従って、俺たちが確認できたあの窓を突き破り、外に出ればこの痛車でもなんとか持ち堪えらえるだろう。なんたってここ、2階だぜ?


「もってくれよ、俺の愛車ぁ!」


謁見の間の大扉を突き破り、お得意のドリフト走行で左に勢いよく曲がる。その結果、折角の真っ赤なカーペットにはタイヤ痕がベッタと付くが俺の知ったことではない。途中、使用人の悲鳴とともに皿が割れる音が聞こえたような気もしなくもないが、それも俺の知ったことではない。


「突っ込むぞ!

 衝撃に備えろ!」


「FOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!

 WE CAN FLY!!!!!!!!!!!!!」


*ここからはル⚪︎ンの曲を脳内再生しながらご覧ください。


直後、痛車の先頭が窓ガラスに接触し、豪快にガラスが吹き飛ぶ。そうして痛車はガラスの破片と共に宙に舞った。それはもう鳥のように……とはならず、痛車は重力加速度約9.8m/s^2に従って地面に落下する。


「「FOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!(恐怖)」」


しばらくの間、俺たちは運動法則を生身で体感していたが、そいつぁ唐突に訪れたデカい衝撃と共に終わりを告げた。どうやら王城の中庭に着地したらしい。しかし、幸いなことに痛車はまだペシャンコにはなっていない。そう思ってホッとした時である。


「おい佐武郎、後ろから早速追っ手が来てるぞ!」


「ナニ!?」


急いでサイドミラーに視線を移すと、青筋を浮かべ、表情筋をピクピクさせている王の姿が確認できた。どうやら、王は複数の馬車を連れて俺たちを追ってきたようである。うせやん、早すぎんやろ。兎に角アクセルを全力で踏み、痛車の最高スピードで走り出す。


「どうだ慎吾、馬車との距離は開いたか?」


「いや、全然だ。というか追いつかれてる」


「何!? こっちは現代技術の粋を集めた車だぞ?」


「佐武郎、お前も知ってるだろ……この世界のUMAは文字通りマッハで走る」


「はッ!」


慎吾の言っていることは強ち間違いではない。確かに某アニメの中では筋骨隆々のUMAがソニックブームを伴いながら、周囲の魔物を薙ぎ倒すというシーンがあった。しかしながら、それは一部のイかれたUMAのみができることであり、一般的に飼育されている馬はそのような芸当はできない。ただし、地球の馬よりもこの世界の馬の方が目に見えて高性能なのは事実である。


「クソッ、マッハでなんかこられたら俺たちは終わりだ!」


「だが佐武郎、ここで諦めたら人生終了だぞ?」


正論だ。確かにそれは正論だ。だがヨォ、代案のない批判に現状を打開できるほどの価値は無いんだぜぇ!?


一旦整理しよう。クソ速い馬車に直線スピードでは少なくとも劣っている我らの痛車。しかもあっちにとっては知り尽くした王国内でのカーチェイスだろうが、こっちにとっては初めてのフィールドで行われるカーチェイスという形。

勝てるのか、これで?


……いや、待て。

考えてもみろ、馬が本当にマッハで走れるなら俺たちは今頃捕まっているはずだ。つまり、奴らの馬はそこまでのスピードが出ないのでは!?どのみちいくら早く走れる奴でも馬車という重荷を背負っていればスピードは落ちるはず。


そうだ、まだ勝機がない訳ではない。


いくら速かろうと馬は馬、馬車は馬車である。相手が生物である以上、必ず体力の限界は到来するはず。しかも、馬車ならば急な方向転換はできない。無理にでも方向転換すればそのまま車体が傾いて大事故となる。


「っふ、慎吾。見えてきたぜ、この勝負カーチェイスの勝機がヨォ!」


「佐武郎、お前ならやれると思ってたぜ!」


現在走っているのは王都の市街地だ。そして俺たちがこの市街地で達成しなければならない目標は当然追手を撒くこと。ならばその前提として王都から脱出することは必須となる。この王都はナーロッパの伝統としきたりを受け継ぎし城塞都市であり、そのため脱出に使える場所は俺が覚えている限り南門ただ一つ。


「よし、南門から脱出するぞ!」


「オーケーボス。ただそれはいいが、いい加減馬車の方をなんとかしないと追いつかれるぞ?」


再びサイドミラーを覗くと、確かに先ほどよりも鮮明に王のお怒り顔がよく視認できる。なるほど、馬車との距離は残り10m程といった感じか。


「それに気をつけなければならないことがもう一つ」


「なんだ、慎吾?」


「魔術師様のご登場だ」


魔術師。正確には《学者》と呼ばれる職業を中心とした保持する魔力量の多い人々がそう呼ばれている。魔術とは先天的に得られる《スキル》に対抗するために発達した技術でなんか遠距離攻撃できたり色々できるやつでだな、、、


まあ、ともかくだ……


やあ危機的状況君、また会ったね。


「うお、エッグ!」


魔術師が放ったらしき氷弾の雨が車の側面を掠める。やべえ、あと数メートルずれてたら車体に直撃してた。兎に角こうなっては直線的に走るのは危険だ。次の十字路で曲がらなければ。


「あーもうッ、やってやろうじゃねえかクソ野郎、俺のドライブテクで全員地獄送りにしてやるッ!!!」

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