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第2話 「痛車転生」

「っは!」


目が覚めると俺は牢屋に居た!

何を言ってるのかわからねえと思うが、大事なことなので2回言う!

《《目が覚めると俺は牢屋に居た》》!


はあ、誰も聞いてないのに俺は何を言っているんだ……と思ったら近くに慎吾がいた。てか、一体今どういう状況なんだよ!






△▼△▼△






さぶろうは こんらんしている


▶︎しんごの ゆめじょうたい


▶︎しんごは ゆめをみている


▶︎しんごは うみに ただよっているようだ


「っは! ここは一体!」


気づくと、慎吾は大海原の真っ只中にいた。ピリピリと強烈な光が慎吾の肌に照りつける。


「なぜ俺は海に浮かんでいるんだ?」


慎吾は疑問に思った。先ほどまで田中んちの肥溜めにいたのになぜこんな清らかな場所にいるのかと。というか俺は何故全裸なのかと。


程なくして、慎吾は一つの結論に辿り着いた。そうか、俺は今、天国にいるのだ、と。


そして慎吾は今まで行ってきた善行の数々を思い返す。肥料が足りないと言っていた親友に近くの競馬場から取り寄せた馬糞100kgを送り届けたこと。親友が車を清掃して欲しいと言っていたので、清掃した上で神々しいほどのアニメキャラの装飾を無償で施したこと。親友がひよこを可愛いと言っていたので、10匹買ってサプライズで家の前に置いて置いたこと。


しかも大体自分が行った善行は秘密裏にやっている。何故かと聞かれればそれは、おばあちゃんに教わったからである。


「良いことは隠れてやりなさい。お天道さんはあなたのことをちゃんと見てる」

これを聞いて以降、慎吾はしっかりとこの教えを守っている。


こうしたことを振り返って、慎吾は再び思う。


ああ、俺はなんていい奴だろう!

やっぱ俺善人すぎて天国来ちまったんだわ! 


と。


しかし慎吾は馬鹿だが、1bit計算機ほどではない。ふと、なぜこの世界には誰もいないのだろうと疑問に思った。そうして彼が考える人のポーズを取った瞬間、彼の脳内であの音楽が再生され始めた!

デーデン、デーデン、何かの接近を知らせるあの曲である!


「おい待て、何故ジョー○のあの曲が脳内再生されているんだ?」


慎吾はふわふわと漂うことをやめ、直立遊泳で辺りを見渡すことにした。すると、彼は見つけてしまったのだ、そう、あの、フカヒレの原材料である、例の、肉食魚を!

そう、人はそれをサメと呼ぶ。


「嘘だろ、天国にサメがいるとか聞いてないぞ! もしかしてここは天国は天国でも、サメ天国か!?」


慎吾はすぐさまサメから逃げようと、反対方向に爆速で泳ぎ始めた。しかし、陸生生物如きが水性生物ガチ勢に敵うわけもなく、速攻サメに足を噛まれた。だが、痛みはない。どうやら甘噛みのようである。まあ、とは言ってもその拘束から逃れられない程度の力はあるが。


そして慎吾が頑張ってサメから逃れようとしているところに、これまた大きなサメが現れた。そのサメは己のフカヒレを引きちぎり、その背からは赤い液体がジェット噴射の如く解き放たれる。しかしそのサメは全くそれを意に介さず、慎吾にヒレを用いてフカヒレを渡した。


「ほら、僕のフカヒレをお食べ」


慎吾の脳裏には一瞬某国民的キャラクターの顔が出現したが、次の瞬間そのキャラクターが海水に浸されてサメに食べられるというホラー展開になったため、ブンブンと頭を振ってなんとかグロテスクなシーンを回避した。まあ、言うてもあのキャラクターにはもとより血も涙も通ってはいないのだが。


「あっはい」


渡されたフカヒレをただ無感情に眺めた後、パクッと一口食べる。刹那、慎吾は驚愕し、その表情をガラリと変化させた。


「いちご味のフカヒレ、だと!?」



その衝撃で慎吾は夢の世界から現実の世界へと意識を戻した。






△▼△▼△






慎吾は朦朧とする意識の中、壊れたおもちゃのように騒音を鳴り響かせる目覚まし時計の息の根を止めようとした。しかし、なぜか騒音の元凶であるはずの目覚まし時計が手の届く範囲にない。仕方なく慎吾は視覚という最強の探知機を用いて目覚まし時計を見つけることにした。


「全く、どこにめざま……ウッソだろオイ」


慎吾が目にしたのはまさしく佐武郎本人である。しかしその様子が随分とおかしい。両足と両腕を精一杯用いて、金属の格子を折り曲げようとしている。ついでに、馬鹿みたいにヘドバンもしている。しかも、奇声も張り上げてる。


そしてわかったことが一つ。先ほど目覚まし時計の音だと思っていたのは、格子が振動でがちゃんがちゃんいっている音だった。


「はあ、頭痛が痛くなってきた」


あ、そういえばここどこだろう。

慎吾はそうも思った。






△▼△▼△






「はあ、頭痛が痛くなってきた」


そんな言葉を聞いて頭が痛くなったのは俺の方だよクソ慎吾。なんとかヘドバンによる遠心力で鉄格子を破壊しようと思ったがどうにもならなかった。代償として頭が痛いしクラクラする。まじでなんの努力もせずに寝てたやつには言われたくない言葉ランキング第一位。


しかし俺はそんな言葉をグッと飲み込んだ。あ、やべえ、飲み込んだら吐き気してきた。

深呼吸、深呼吸ダッ!


そんな時である。遠くの方からガチャン、と扉が開く音が聞こえた。続いてガシャンガシャンと音を鳴らしながらフルメタルプレートの兵士らしき奴らが二人現れた。


「ほう、猿でも暴れているのかと思っていたが。なるほど、お前たち起きたのか」


「おい、ここはどこださっさと出せ!」


「そうだ、勝手に俺たちを牢屋に入れたことを最高裁で後悔させてやる!」


「サイコウサイ……何を言っているのか分からんが、どのみち我々は一度お前たちを外に出すことになっている」


「へー、思ったよりも話が早いじゃないか。これにはあの青いハリネズミもびっくりだ」


兵士たちは牢屋の鍵を開け、扉を開いた。それにしても一体なんで俺たちはこんなところに閉じ込められてたんだ?俺たちが最後に覚えていたのは痛車で肥溜めに突っ込んで爆発四散したことくらいである。それがどうすればこんなことになるんだ?いや待て、普通の人間は爆発に巻き込まれたら死ぬはずだ。つまりここは死後の世界ということなのか?それともあれか、輪廻転生という概念は真実で、俺たちは転生しちまったってことか?


「お前たち、手を出せ」


「なんだ飴でもくれるのか?」


と思って両手を突き出したら、俺たち仲良く手首を縄で縛られた。


「おいおいおいおい、一体どういうことだ? 解放してくれるんじゃないのか?」


「何を言っている、今からお前たちは王の御前で裁かれるのだ」


「ファッツ!? 日本はいつから天皇制を捨てたんだぁあああ!!!」


慎吾はいきなり兵士の肩を掴んで前後左右上下ありとあらゆる方向にぶん回した。すると当然の如く兵士がフルメタルヘッドで頭突きをかまし、慎吾はばたりと倒れる。こいつ……気が狂ってんのか?まじで俺も同類だと思われるからやめてほしい。後、縄が引っ張られて痛いんだが。


「これ以上罪を重ねるつもりか? どうやらギロチンでスパッと死にたくないようだな」


「ダニィ! 日本はいつからギロチンを導入したんだぁあああ!!!」


「だからニッポンってなんのことだよおおおおおぉおおお!!!! 黙って王の御前までついて来いヤァアアアアア!」


「俺の、給料を、あげてくれえええええええええええええ!!!!」


「は?」


ここは、地獄なのだろうか。

佐武郎はただ、目の前で繰り広げられている発狂劇を呆然と見ていた。






△▼△▼△






道。道とは人が歩く道である。道は道であり、道という言葉以外に道というものを表現することはできない。そう、つまり道は道なのだ。


それはそうと、牢屋を出た俺たちは延々と続く螺旋階段を登っていた。兵士曰くこの先に王城があるそうだ。どうやらこの牢獄は王城付近にある山をくり抜いて作られた場所らしく、俺たちはその中でも最下層の部屋に押し込められていたらしい。やったね、俺たちVIPだってさ。全く嬉しくないどころか先行きがあまりにも悪すぎる。例えるならば嵐の中を全裸で走り回るくらい悪い。


しばらく無間地獄のような階段をただ無心で登っていると、一本道の細い洞窟に出た。奥からは太陽光が差し込み、少し濡れている岩肌に反射して眩しい。外の光景はまだここからだとわからないが、少なくとも新鮮な空気が洞窟内に吹き込んできていることはわかる。


「さ、ここから先は外だ。だからって絶対逃げようとすんじゃねえぞ?」


「わかったか慎吾!」


「はっ、理解しましたで候!」


「よし、理解したのならいいんだ!」


「……なんなんだお前たちは」


兵士はなんだか疲れた声でそう言った。甲冑で俺からは見えないがきっと働き詰め低賃金労働で心身ともに疲れているのだろう。恨むなら上司を恨みなさい、全く可哀想に。


「まあいい、兎に角変な動きをしなきゃいいんだ、しなきゃな」


そういうと、二人の兵士は再び歩き出した。俺たちも二人の間に挟まる形で先頭の兵士について行く。


間も無く、俺たちは洞窟を抜け出し、その世界の、、、その世界の一端に触れることとなった。そう、俺たちの痛車に刻み込まれたあの愛すべきクソ作品に登場するあの世界。今期のクソアニメとしてス⚪︎ホ太郎、デ⚪︎マ次郎、百⚪︎三郎の一家に肩を並べるまでに至り、ストーリー展開の意味不明さと迷言の連発によっていく所までいった結果作画崩壊をも作品の味としてしまったあの作品……


「「こ、これは“勇者だけど恋人探しの旅に出ます 〜愛されるほど強くなるスキルを手に入れた俺は、ハーレムを作って世界最強になる〜“のウェンディルヘン王国だ!!」」


「WTF!?」


あまりの驚きに汚い言葉が出てしまった。先程の会話からここが日本でないことは薄々分かっていたわけではあるが、まさか肥溜め爆発四散をキメてこんな世界に来るとは思ってもみなかったよ。


……俺も大概な驚き方をしたが、隣のやつはもっと重症らしい。通路の隅に蹲ってぶつぶつぶつぶつ何かを呟いている。その様子はさながら精神異常者の壁打ちコミュニケーションに等しい。よく聞いてみると、

「カルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたんカルたん……」

だ、だめだこいつ、早く何とかしないと……


「お、おーい、慎吾ぉ、大丈夫かぁー?」


そう聞いた瞬間、突然慎吾は立ち上がり、まるでドラゴンのような大きな声を発した。


「ガぁあああルだあああああああんんんんんん!!!! 今、クソ主人公から救い出しに行って、あげるからねえええええええ!!!」


多分だが、こいつが言っているのは通称カルたん。“勇者だけど恋人探しの旅に出ます 〜愛されるほど強くなるスキルを手に入れた俺は、ハーレムを作って世界最強になる〜“における主人公のハーレム軍団構成員その一といった感じのヒロインである。


なんとか教会から派遣された金髪清楚なシスターキャラであり、確か回復魔法に秀でている勇者パーティーの物理要員だったはずだ。華奢な体から発せられるパンチは謎のヒロイン補正によって大岩までもを砕くという定番といやぁ定番のギャップを持っている。特にお色気シーンからのコンボ技は凄まじく、の○たさんのエッヂいいいアッタクと同様の破壊力があったはず。


……そういえばだが、俺の痛車のバンパーの中央を陣取っていたのはこのキャラだったな。なるほど、こいつが金髪《婚姻色》になったのもカルたんの影響ってことか。ん?

もしかして俺の車が痛車に魔改造された原因って……


「カァルァアッツ、お前が犯人かぁあああああああああ!!!!?????」


「貴様ぁ、カルたんを侮辱したなぁああああああ!????? 第三次世界大戦勃発じゃゴラァあああ!!!!!???」




一方その頃、田中んちには警察と救急車のサイレンが鳴り響いていたそうな。

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