星座研究会だと思い「正座研究会」に入部してしまった僕、正座にのめり込んでしまう
将来は天文学者になって新しい星を発見したい。
そんな夢を持つ僕が高校で「星座研究会」に入部するのはあまりにも当然のことだった。
星座を学ぶことはきっと将来の役に立つ。
ところが――
「ようこそ、正座研究会へ!」
部室に入ると正座した部員たちが僕を出迎えてくれた。
見回しても、星座の資料らしきものは見つからない。
僕はすぐに全てを察した。
「もしかしてこの部では座る正座を研究するんですか?」
「その通り! 正座に興味を持ってくれて嬉しいよ!」
今更勘違いしてたともいえず、僕はそのまま入部してしまった。
研究会の部員たちはみんなすごい人だった。
「いたた……足がしびれて……」
「大丈夫、慣れれば2、3時間ぐらい平然と正座できるようになるよ」
そんなものかなと思いつつ、僕は一生懸命正座に取り組んだ。
いつしか僕は正座にのめり込み始めた。
2、3時間どころか10、20時間正座のままでいても苦にならないぐらいになった。
やがて僕は正座研究会の部長となり、青春の全てを正座に捧げた。
高校を卒業した僕は、もちろん正座を極める道を選んだ。
畳や座布団の上だけではない。あらゆるところで正座をした。
道路で――
森の中で――
暗い洞窟で――
山の頂上で――
泳いでいるクジラの上で正座をして、太平洋横断まで成し遂げた。
しかし、これだけのことをしてもまるで極めた気がしない。僕は正座というものの奥深さを改めて思い知った。
ある夜、深い山の中で、僕は一人正座をしていた。
すでに何日も飲まず食わずで正座しているが、今の僕は疲れもしないし、お腹もすかない。正座をしていると、それだけで心も体も満たされるからだ。僕もある程度の境地には達したということなのだろう。
正座に感謝しつつ、僕は夜空を見上げる。
空気が澄んでおり、無数の星が瞬いている。
その時だった。
正座によって研ぎ澄まされた僕の目はあるものを捉えた。
「ん……。あの星ってもしかして……」
……
僕はインタビューを受けることになった。
豪華なソファに座らされ、大勢にマイクを向けられる。
そして、矢継ぎ早に質問を浴びせられる。
「このたびは新しい星の発見、おめでとうございます!」
「天文学会があなたをスカウトしたがっているとの声もありますが……」
「今のお気持ちを一言お願いします!」
どうやら僕は大発見をしてしまったらしい。
しかし、今の僕にとって彼らに言いたいことは一つしかなかった。
「あの……正座してもいいですか?」
完
ラジオ大賞参加作品となります。
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