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第八話 呪いの言葉

リハビリは一歩一歩着実に進み、

流動食では無い普通のご飯を食べ、

1日の終わりには少女との雑談を楽しむ。


確実に状況は良くなっている筈なのに

それに同時に俺の奥底にあるとある言葉が

少しずつ俺を蝕んでいった。



それは、俺が脳出血で倒れた時、

意識を失う寸前に不意に出てきた独り言。


「これで終わりかな…

 それでもいいかな」


たったこれだけの言葉。

しかし、この言葉は非常に重く

俺の心にのし掛かる。


いわば“呪いの言葉”だ。


俺はこの瞬間、死ぬ事を甘受したのだ。

そして、この言葉に安堵したからこそ

その直後に意識を失ったのではないか。


死ぬのは怖い。それは当然だ。

なら、なぜ死ぬのが怖いのか。


その答えは人それぞれだが、

俺はどうやって死ぬかわからない事が

大きなウエイトになっている。


苦しみながら死ぬかもしれない。

死にたくないと思いながら死ぬかもしれない。

この世に絶望しながら死ぬかもしれない。

考えたらキリがない。


なら、今回のケースはどうだろう。


痛みは一切無く、あるのは意識の混濁だけ。

病気等による死が迫ってくる恐怖もなく、

自殺による後ろめたさも無い。


いきなり過ぎてお別れが出来ないのが

心残りではあるけれど、意識の混濁で

そこまで気が回らない。


つまり、あれは理想的な死に方だった。

だからこそ俺は自らの死を甘受した。

そうとしか思えないのだ。


………


しかし、俺は生き残ってしまった。

一旦手放した“生“が戻ってきてしまった。

しかも障害者というオマケ付きだ。


果たしてこれは幸せな事なのだろうか。

これからの人生がどうなるかわからないが

障害者として生きるのは大きなハンデだ。


歩けるかどうかが一番大きな事だが、

それ以外にも不安な事はたくさんある。


実家に戻る事になるかもしれない。

大好きな車を運転出来なくなるかもしれない。

創作趣味も出来なくなるかもしれない。

仕事が出来なくなり家族に迷惑をかけながら

生きる事になるかもしれない。


今の俺には明るい未来は見えてこない。


病院でのリハビリ生活が

絶え間なく現実を突きつけてくる。


そして、その分あの“呪いの言葉”が

俺の心に重くのしかかる。


もしかしたら俺はあの時に

一度死んでいるのかもしれない。



俺は泥沼に陥ってしまった。


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