部活動
「――是非超常現象研究部にお越しください。」
僕たち新入生は、部活動オリエンテーションにいた。
「志村君はなんの部活に入るか決めたかい?」
大森くんが耳打ちしてくる。
『帰宅部かな。』
そう書いたメモ帳を見せる。
「そうか。僕は......」
「行くぞー!」
大森くんの言葉を遮るように、スピーカーから放たれた威勢のいい声が、体育館に響き渡る。ギターの奏でるメロディーを中心に、それぞれの音によってハーモニーを生み出していた。聞くものを惹きつけて離さないボーカル。ギターに見え隠れしながらも、存在感を示すベース。高まる心臓の鼓動を追い越し、先へ先へと導くビートを奏でるドラム。その全てが融合し、この場を支配していた。相手に気持ちを伝えるには言葉か文字しかないと思っていた。軽音部の演奏はそんな僕の常識を壊してみせた。
『僕やっぱり軽音部に入る。』
「僕も。」
僕たちは暫くの間、演奏の余韻に浸っていた。
――「放課後、部活動に参加するものは、ここから仮入部届けを持っていき提出しに行けー。」
オリエンテーションのプログラムが終わり、僕たちは教室に戻ってきていた。教室に戻ってきてもなお、演奏が頭から離れなかった。放課後になると、僕たちは真っ直ぐ軽音部の部室に足を運んでいた。
「失礼します。」
大森くんが勢いよく扉を開けると、そこには20人ほどの仮入部希望者がいた。
「待たせて、ごめんね。私は山本凜香。軽音部の部長です。」
部長だと名乗るその人物は、オリエンテーションでボーカルを務めていた人物であった。
「早速だけど楽器別に別れて楽器に触れていこうと思うんだけど、みんなやりたい楽器ある?」
『大森くんは何をやるの?』
「僕はドラムをやりたいと思っているよ。」
「君はどうだい?」
『ギターかな。』
「そうか、じゃあまた後で。」
そう言うと僕たちはそれぞれの楽器の場所に移動した。
「俺はみんなにギターを教える三村康介。よろしく。」
人の良さそうな彼も、オリエンテーションで演奏していた1人であった。
「1人ひとつギター持って、早速始めていこう。」
思っていた以上に難しく、指がつりそうになる。
「あのー先生、これってどうやって押さえるんですか?」
僕に一緒に練習していた女の子が話しかけてくる。
『......』
僕はショックで固まってしまう。友達作りが上手く行き、浮かれていた。僕の見た目は、年齢と不釣り合いであることを忘れるくらいに。
「あのー、先生?」
メモ帳に書いて否定したいが、どう思われるのかが怖くて書けない。未だに、大森くんにロストボイス障がいのことを話せていなかった。
「その人は先生じゃないわ。」
お人形さんのような彼女はそう言い放った。