アイデンティティ
――「志村君は僕の2m近くある身長をどう思う?」
『かっこいいと思う。』
「ありがとう。でも僕はこの高い身長が嫌なんだ。でも発想の転換をして、自分の嫌なところを個性として受け入れるんだ。すると新たな一面が見つかるんだ。僕の嫌っている体格は君にはかっこよく映るようにね。だから君の気にしていることも、視点を変えるといい一面が見えてくると思うんだ。余計なお世話だったらすまない。」
僕は首を横にふる。
『ありがとう。』
僕はメモ帳に書ける最大の大きさで書く。
「お礼なんていい、僕達は友達だから当然だ。」
僕は友達というフレーズに浸っていた。
「おはよう。心くん。」
後ろから声をかけられ振り返る。そこには白川さんがいた。
「下駄箱の前に立っていたら邪魔よ。」
白川さんはそう言うと、文章読み上げアプリを開いたスマホを差し出してきた。
『おはよう。白川さん。』
僕はスマホを受け取り、挨拶する。
「一緒にいるのは誰?」
「僕は、大森俊太。よろしく頼むよ。」
「よろしく大森さん。」
「志村君と白川さんは友達だったのかい?」
『なんで?』
「志村君のことを下の名前で呼んでいるから仲がいいなと思ったんだ。」
「......」
白川さんは、僕と仲がいいと言われてキッパリ否定すると思っていたが、意外にも黙っていた。
『違うよ。昨日会ったばかりだよ。』
「そうなのか。」
『そういえば、なんで白川さんは僕の名前知ってたの?』
「なんで知ってるのか分からない?」
白川さんはどこか悲しげな表情をした気がした。
――入学式当日。
「美玖、もう出るの? もう少ししたらお母さんが送っていくわよ。」
「大丈夫だよお母さん。心くんに早く会いたいの。」
「本当に特別支援学校じゃなくて大丈夫?」
「今更何言ってるのお母さん。今日は入学式よ。」
「志村くんがあなたのこと覚えているか分からないわよ。」
「それでも同じ高校に行きたいの。会って、伝えたいの。」
――『白川さん、どうしたの?』
「前に言ったでしょ。私は先にクラス表もらったって。だからその時に周りの席の人の名前を覚えたってだけの簡単なことよ。」
さっきの悲しげな表情は消え、高飛車な白川さんに戻っていた。
「キーンコーンカーンコーン」
朝のホームルーム開始5分前の予鈴が鳴り、僕らは足早に教室に向かった。