表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VOICE~話せない僕と見えない私~  作者: ざるうどんs
2/26

門出

 息巻いて家を飛び出したが、思うように足が動かない。歩みを進める度にいじめられてきた日々が脳裏をよぎるのである。もう4年くらい前のことであるのに昨日の出来事のように感じる。僕の人生の日記は小学校の高学年から進んでいない。僕の中の学校生活はモノクロで、彩りはない。足取りが重く、自宅に引き返しそうになる。そんな心の葛藤とは裏腹に、満開の桜並木が新たな門出を祝っていた。僕の同級生であろう人々は、新生活に心を躍らせていた。


「あの先生、学生服着てない?」


 どこからか、そんな声が聞こえる。多分僕のことを言っているのだろう。今の僕は高校1年生ながら、30代前半の見た目をしている。恥ずかしさで顔から火を吹き出しそうになる。


『やっぱり無理だ......』


 そう心で呟き、帰路に就こうとする。


「あれ? 心じゃね?」


 後ろから呼び止められる。僕はすぐにその声が誰のものか分かった。


「やっぱり、心だよな。お前も同じ制服着てるってことは同じ高校なんだな。俺のこと覚えてる?」


 忘れられるはずがない。僕のことをいじめていた主犯格の南雲祐介である。彼の声を聞いただけで縮こまってしまう。その場から離れようにも体がこわばり、進むことも戻ることもできない。


「昔はごめんな。あの時は餓鬼だったよ。許してくれるよな?」


 南雲は親友であるかのように、馴れ馴れしく肩を組みながら話しかけてくる。僕は胸ポケットからペンとメモ帳を取り出す。手話の伝わらない相手には筆談でコミュニケーションを取る。


『うん。』


 少し頭を下げたくらいで、僕の人生、家族をめちゃくちゃにしたやつを、許せるわけがない。だが、あの頃のいじめがフラッシュバックし、恐怖が心を支配する。そのため、心にもないことを記してしまう。とにかくこの場から早く離れたいのである。ペンを握る手は痙攣を起こしたかのように震えている。


「良かった。もう昔のことだもんな。クラス一緒だったらよろしくな。」


 そう能天気に言い残すと南雲は足早に学校に向かった。さっきまで全身に入っていた緊張が解け、その場に崩れるように座り込む。凄いスピードで心臓が波打っているのを感じる。


「トン」


 何か棒のようなものが僕の背中に当たる。


「ちょっと、退いてくれない? 邪魔なんだけど。」


 声のする方を振り返ると、同じ制服を着た女性が立っている。宝石のような綺麗な瞳で、手足がスっと伸びたまるでドールハウスから飛び出してきた人形のような女性だ。その手には白色と赤色からなる、棒が握られていた。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ