主人公階段突き落とし事件
『私の名はバレイン。父はこの国の宰相。ジュノア殿下が即位されたあかつきには私が次期宰相に推挙されるのは確約事項なのだ。故に知識において他人の後塵を拝することなどあってはならないことなのだ!それなのに…前回のテスト、算術で私より高得点を獲得したものがいる。』
テスト結果が張り出されている廊下。一人打ちひしがれているバレイン。
そのわきを恐る恐る通っていく生徒たち。
ちょうどクロエ、ジュリエッタとエミリーが通ろうとすると「クロエ嬢!」
ビクッと立ち止まる三人。「はい?」
「ちょっと聞きたいことがあるんだが」
「はあ」
「大丈夫?クロエ」
「大丈夫よ。先行ってて。」
中庭
「何の御用でしょうか?」
「この間の算術のテストのことなんだが…」
「算術…?」
「最終問題!あれは私でも解けなかった!いや、教師でも解けない難問だった。いわばおふざけで出された問題だったんだ!それを君は…解いてしまった!」
「高等算術院は大騒ぎだよ」
「え!?そんな難問だったんですか?」
『やばい!高1レベルの問題だったから普通に解いちゃった!』
「よほど優秀な家庭教師がついていると見た!ぜひ、紹介してくれたまえ!」
「家庭教師はおりません…」
「そんな馬鹿な!」
「きっと、まぐれですわ…」
「私は騙されんぞ!」
周りを見渡すと人だかりが。
「次は負けんぞ!」立ち去るバレイン。
「あんな興奮するバレイン様初めて見た~」
「負けんぞって、クロエ様に?」
ドドっと人の波がテスト結果の方に流れていく。
1位 バレイン 5教科 480点
23位 クロエ 5教科 408点
「なーんだ」「大した事ないじゃん。」
『なんかディスられた感じ?』複雑な表情のクロエ
「あれが、アランバートル家の娘か。」
「はい」
学園の貴賓室。窓から見下ろしているのはアクシミリア公爵。
「アリアの世話係としてなかなか優秀だと聞いておる。親子揃って使い倒すには丁度いい。ヌフフフ」
「優秀すぎず無能すぎず、ですか?」
「教頭、お主はどちらかのう?」
「私は公爵様のコマの一つで十分満足しております。」
「そうか…。では、報告を聞こう。」
「状況はよくございません。ジュノア殿下のお心はすでにアリア様になく、レオナと申す特待生にむいております。このままですと婚約破棄の可能性が大きいかと。」
「我儘に育てすぎたか…アリアを王妃に据え、しかる後ジュノアには政から退場してもらうシナリオは、もはや潰えたか…」
「はい」
「現時点での貴族の勢力図は?」
「王派4割、公爵様派3割、中立または様子見3割、と、言ったところでしょうか。」
「―もし…ジュノアに万が一の事態が起こったら…」
「跡目争いが起こるは必定。王弟、幼い第二王子、どちらも公爵様のお力を欲するでしょう。」
「アリアの殿下の婚約者という立場も使えるな。」
「悲劇のヒロインでございますな。」
しばらく思案に暮れる公爵。カっと目を見開き
「時は来た!!決行はジュノアの誕生パーティーだ!」
「ははー!」
『邪魔な平民の娘の処理はアリアに託すか。』
不気味に笑う公爵であった。
放課後 図書館から一人出てくるクロエ。
「借りた本ぐらい自分で返しなさいよね、まったく!」
待ち合わせの場所。誰もいない。「く~」
「いいわよ、走って帰るから。」
「クロエ・アランバートル嬢」
「はい?」振り返ると「ジュノア殿下!」
サッと挨拶の姿勢。
『こんな近くで見るの、初めて!やっぱ、イケメン―』
「顔を上げて」
「は、はい。何か御用でしょうか?」
「あ、いや…」
『レオナを助けた令嬢の特徴に最も近いのがクロエ嬢なんだが…やはり僕の推理には無理があるな。こんな小柄で華奢な令嬢が三人の暴漢を撃退するなんて、ありえない。』
「いや、何でもないんだ。呼び止めてすまなかった。」
「はあ?それでは失礼いたします。」
校門を出ていくクロエを見送るジュノア。
「!ハンカチが、クロエ嬢…」
後を追って校門を出る、が、すでにクロエの姿は見当たらない。
「??」
猛スピードで林の中を突っ走っていいくクロエ。
アクシミリア公爵家
公爵の執務室
机を挟んで父と娘が向かい合って座っている。
「こ、婚約破棄?」青い顔のアリア
「そうだ!殿下の誕生日パーティーで発表される公算が高い。」
「馬鹿者めが!あんなボンボンの気持ちも操れんとは!」
「あの平民の娘さえ現れなければ…」
怒りと屈辱に打ち震えるアリア。
「お前には殿下の婚約者としてパーティーに出席してもらわないとならんのだ。」
「はっ?」
「意味はわかるな?邪魔者は排除しろ。」
「あ、はい。お父様」
「最後のチャンスだと思え!」
「はい!」
バタン
扉を閉め、廊下に出たアリア。その目は憎悪と怒りに燃え滾っている。
『あの女さえいなければ…私の未来、父の信頼。必ず取り戻す!』
学園正面入り口大階段広間
『私の記憶が正しければ、今日ここで婚約破棄の決定打になる事件が起こるはず…悪役令嬢による主人公階段突き飛ばし事件が!』
大階段の下に隠れているクロエ。
『時間まではわからないから、ここで待つしかないのよね~』
時間が過ぎ・・・クロエがウトウトし始めた頃
ガタタン!
「!」目覚めるクロエ。階段の上が騒がしい。
「アリア様誤解です。私は…」
「うるさい!お前が邪魔なんだ!」
『きたきた!ここに殿下御一行様が…御一行…来ない!!!」
「きゃあああああ!」
急な階段の上段からレオナの身体が宙に!
「ふん!ざまあ!」立ち去るアリア。
「やばい!」
頭から真っ逆さまのレオナ。階段下から飛び出しレオナに飛びつく!
『このままじゃ二人とも大怪我だ!』
「てええい!」
巴投げの要領でレオナの身体を天井に投げ飛ばす。クロエの身体は床に叩きつけられるが―
バチイイイン!受け身を決めて一回転。ノーダメージ。
落ちてきたレオナの身体をキャッチ。
「ふあああ~、どうにかなった~」
「あ、あなたは、クロエ様!」
「あちゃ~バレちゃった…」
遠くから人の気配が…
「レオナ様、このことはご内密に!じきすべてをお話しできる日が参りますので!」
「ええ?でも!」
「レオナ、どうしたこんな処で?」殿下御一行到着。
「あの、それが…」振り向くとすでにクロエの姿は消えていた。
『アリア様のご友人のクロエ様が、なぜ…?」
少し離れた物陰
『はあ、はあ、ぜえ、あぶなかったー。どうにかバレずに済んだ~。公爵の悪事は現行犯じゃなきゃ。今、邪魔建てしている私の存在がばれたら、我が家は抹殺。別の機会に殿下が暗殺されれば国は内戦状態に突入、最悪のバッドエンドを迎えてしまうんだ。』
「そんなことには絶対しない!最終イベントまで、あとわずか。やるしかない!」