入団テスト
アランバートル家
夕飯 食卓
クロエの前に並ぶのは、ゆで卵の白身だけ10個、鳥の胸肉、サラダ。
「姉様、いつもそればっかり。」ジル
「なんで?」ベル
「筋肉のためよ」
「筋肉?」
「ほら」力こぶを見せるクロエ。
「すごーい。カッチカチ!」
「これ、はしたないわよ!おやめなさい」
「はい、お母様。」
食後
「すっかり変わったなあ、クロエは。」
「ほんと、瘦せて若いころの私にソックリね。」
2人の後ろでクロエが両腕にジルとベルをぶら下げている。
「まあ、ちょっとやりすぎの感は否めんが…。」
数日後 屋敷庭園
クロエとフランが稽古をしている。
組み合い、乱取り。「てい!」「あし!」
「今よ!」背負い投げでクロエを投げるフラン。
「今のタイミングを忘れないでね」
「はいいい…!!」
クロエの道着が乱れ、さらしを巻いた胸元があらわに。
「また少し大きくなったみたい…もう~邪魔だなー。」自分の胸をタユンタユンする。
鼻血を噴き出し倒れるフラン。
不思議そうにそれを見つめるクロエ。
『稽古中は男も女もないのに、まだまだねふらんも。』
木陰で一休み。
「フラン。入団テストって、そろそろじゃなかったっけ?」
「はい!今度の土曜日です。」
「聞いてなかったけど、何するの?」
「例年ですと、テスト生同士で対戦して、勝ち上がった10人程と騎士団の試験官が対戦して一本でも入れられれば合格です。去年は合格者はいませんでした。」
「そう…、もしかすると剣、使うの?」
「当たり前です。騎士団なんですから。」
「剣の練習してないわよね…」
「…はい」
『おじいちゃんが剣道の師範だったけど、剣の扱いは習ってないな~…、でも…』
10歳くらいの凪が道場で木刀を構えた老人と相対している。
「とりゃー!」
振り下ろされた剣先をかわし懐にはいる凪。
「その動き忘れるな!もう一本。」
「私、剣の稽古はしたことないの。」
「えええ!?」
「テスト生ってどんな人たちが来るの?」
「ゴロツキとか腕に覚えのある連中です。」
「なら、問題は騎士ね…。」
「え?」
「今の実力なら街のゴロツキなんて目じゃないわよ。」
「ほ、ほんとですかー?」うれしそうなフラン。
「剣をかわして懐に入る練習をしましょう!」「はい!」
「それともう一つ、技を教えるわ。」
「はい!」
騎士団入団テスト会場の横断幕
街のゴロツキから、どう見ても70過ぎのじい様。甲冑だけ立派な商人のボンボン、浮浪者まで様々な入団希望者が会場に詰め掛けている。
「今年も合格者は難しいかもしれませんね、団長。」
「国のために働きたいと申し込んできた者たちだ。むげにはできんよ。」
「はあ~」
ゼッケン25番をつけたフラン。
「お嬢様との稽古の成果、すべて出し切るぞー!」
ある侯爵家のお茶会。アリアの世話をするクロエ。
『今日はフランのテストの日なのに…応援に行きたかったな~』
「クロエ!紅茶のお代わりを!」
「はい。ただいま~」『頑張るのよ、フラン。』
「それでは入団テストを始める!」
「俺が責任試験官のマグルだ!まず、番号を読み上げた者同士対戦してもらう。試験官が続行不能と判断した時点で勝負が決する。いいな!なお、予選会は素手で行う。死人が出てはまずいからな。」
一同「はい!」
「25番前に!」
「はい!」
「40番」
「おおー!」身長は20㎝以上、体重は三倍はあろうかと思われる大男。
「フフフ、小僧、運が悪かったな。初戦が俺様とは!」
「あいつ、酒場でよくケンカしてるグードだろ?」「暴れだすと手が付けられねえんだよな、かわいそうに大けがしなきゃいいがな。相手の子。」
審判の騎士「大丈夫かい?棄権してもいいんだよ。」
「問題ありません。あちらにも同じことを聞いたほうがいいんじゃありませんか?」
「な、なにを~!」
顔を赤らめるグード。
『戦う前から勝負は始まってるのよ。怒らせて油断させスキを突きなさい』
「はじめ!」
「うおお!このクソガキがー!!」突進するグード。
相手の動きがスローモーションのように見える。
パンチをかわして懐に入り腕を掴んで足を払う。バランスを崩したところで背中にのせ、一本背負い!ドオオオン!グードは背中から落ちて…白目をむいて動かなくなった。
「う、うむむ。勝負あり!25番勝ち!」
どよめく会場。
その後フランの対戦相手は全員棄権した。
テスト生同士の予選会が終わり、6人が残った。
「残った者!次は俺が相手だ!一本でも取れたら合格だ!」
「き、騎士団副団長のマグル様が…?」
「マジかよ…」「棄権しようかな」
『相当の実力者なんだな…』
「さあ!誰からだ?」
「俺が!」
「ほう、さっきあの大男を投げ飛ばした兄ちゃんか!」残りの5人がすごすごと帰っていく。
「残ったのは、結局一人か…」
「まあ、いい。始めるか!」
木刀を抜き対峙する二人。
『前に立たれるだけでなんて圧力だ…』
「はじめ!」
『まずは間合いを測って。動きを見極めるの。』
振り下ろされる剣先を二度、三度とかわすフラン。
『相手が引いたら』一気に距離を詰める。狙うのは・・・「足!」
低い姿勢から足に攻撃を仕掛ける。『騎士はそんな戦い方しないから戸惑うはずよ。』
「うぐ!?なんだ?」
さらに攻撃!「くっ!この!」
「頭ががら空きなんだよ!」
振り下ろされる剣。
「今だ!」
剣先をかわしその腕に絡みつくフラン。
「け、剣を捨てた~?」「ばかな!?」
両腕でマグルの腕をきめるフラン。マグルの手から県が滑り落ちる。
「なんだ、あの動きは…?」周りの騎士たちがざわめきだす。
「こいつ!」マグルがフランの足をつかみ力任せに放り投げる。フランの身体が10メートル以上空に!
「いかん!あのまま地面に叩きつけられたら命が!」団長が腰を上げる。
ダン!
「医療班!」
土埃の中フランが何事もなかったように立っている。
「!!!!」
『受け身の稽古のおかげか…何ともない。お嬢様ありがとうございます。』
あっけにとられて立ちすくんでいるマグルに掴みかかるフラン。
『もう一つ技を教えておくね。』
足をかけマグルのバランスを崩す「あう!」腕に飛びつく。二人ともに倒れる。
「どうした?」
腕ひしぎ十字固め!!
『決まったー!』
『この技が決まって相手が参ったしなかったときは、躊躇なく折りなさい!
テストで審査されるのは技や根性だけじゃない、覚悟を見られているの。絶対に躊躇しないで!』
ギリギリと締め上げるフラン。「アググググ!」
『参ったしないなら、折る!』
「そこまでじゃ!25番合格!」
腕をさすりながら「いてえのなんのって、あんなの初めて食らったぞ。なんて技なんだ?」
「腕ひしぎ逆十字固めです。」
「なんやら物騒な名前だが、確かに腕がきまっちまってたな。」
「あの、ありがとうございました。」
「なにがだ?」
「戦った相手が強ければ強いほど感謝しなさい、と、師匠におそわりました。」
「あの技を教えた師匠がおるのか、ぜひお会いしたいものだな。」
「団長!」
「その師匠とやらはこの国に?」
「それが、その…」
『このことは、二人の秘密だからね。』クロエの顔が浮かぶ。
「訳あって今はお教えすることができません。」頭を深々と下げるフラン。
「おい小僧!生意気言ってんじゃねえぞ!」
「団長のお言葉は絶対なんだぞ!」ほかの騎士から怒号が飛ぶ。
「も、申し訳ありませんが、お答えできません。」
「わかった。今は聞くまい。」
「ありがとうございます。」
「今回は合格者が出たんだ!祝いの宴をあげるぞ!」
「おおおおおおおお!!」
フランを担ぎ上げるマグル。
『やりましたー。お嬢様!!』