稽古相手を見つけた!
どうにか主人公御一行から離れた席を確保。
エミリーが『グッジョブ』と目で合図をくれる。
平日は学内でお世話、休日はお茶会や買い物のお供。息つく暇なし!
「あ~本当疲れる~。取り巻きなんてやめた~い!」
アランバートル家 クロエの部屋
凪の記憶に目覚めて一ヶ月。食事制限と体幹トレーニングが効果を見せ始めた。
「そろそろ試してみようかしら。」
パジャマ姿のまま、前受け身。ドスン!
「身体が覚えてる!」
続けてドスン ドスン!
部屋の扉が勢いよくあいてメイドのメアリが入ってくる。
「何事ですか~お嬢様!!」
「ちょ、ちょっと体操を…。」
「屋敷中に響き渡りましたよ!おやめください!」
「は~い」『部屋の中では無理があるか~。どこか探さないとな~』
アランバートル家 庭園。奥まった林。
少年が一人、木に向かって木刀を打ち込んでいる。
赤毛の髪。細マッチョ。顔にはそばかす。つぎはぎだらけの服を着ている。
『俺の名はフラン。アランバートル家の庭師見習いだ。でも、俺はこんなところで終わる男じゃない!』
「絶対騎士になるんだ!」木刀を打ち込む、細い枝が折れる。
「騎士団は実力主義。平民でもテストに合格すれば入団が許されるんだ。平民が唯一爵位を賜るチャンス!』
「騎士団で成り上がって爵位を賜って…お、俺は…お、お嬢様に…」
顔を赤らめるフラン。
―と。ガサガサ
「!?」
「あら?あなたは・・・庭師見習いの、フラン?」
「お、お、お嬢様~!!??」
茂みから顔を覗かせたのはクロエ。
料理人のような見たことのないいで立ち。
「何をしているの?」
「は、はい。その、き、騎士団に入るための訓練を!」
「騎士団に?でも、騎士団って貴族じゃないと…」
「入団テストに合格すればはいれます、です。」
「そうなの・・。」
『あ、焦った~、なんでお嬢様がこんなところに?でも…、こんな近くでお嬢様と話ができるなんて夢みたいだ~。お痩せになってますますお美しく…』
「入団テストっていつなの?」
「あと、二ヶ月くらいです。」
「じゃあフラン。私と稽古しましょう!」
「は、はああ?とんでもございません!」
『怪我でもされたら俺の首が飛んじまう!』
「・・・」
クロエがスッとフランに近づく。
ドキ!?
つかまれたと思った瞬間、フランは倒れて空を見上げていた。
「へ?」起き上がり「何が?」
「私が投げたのよ。」
『嘘だ!身長だって体重だって、俺のほうがでかいのに!』
「勘違いしないでね、フラン。私が稽古をつけてあげるの。」
「へええ?」
「いいわ。今度は構えてて。」
「はい。」
フッとクロエが動いたー・・・
再び倒され空を見上げているフラン。
「い、いったい何が!」
「これはジュウドウという格闘技なの」
「ジュウドウ…」
「ちょうど稽古相手が欲しかったの!フランも強くなれるし、一石二鳥でしょ!」
「は、はいい!」
「じゃあ、明日からね!」
一度屋敷に向かいかけたクロエが踵を返して
「このことは誰にも絶対内緒だからね。」
「はい!絶対誰にも言いません!」
光り輝く笑顔を残して去ってゆくクロエ。
「あ、明日からお嬢様と一緒に…稽古!」
「やった~」
フランが幸せな気持ちでいられたのは一晩だけだった。
庭園の茂みを飛び越え、木を登り、広場をダッシュ。
「ぜえ、はあ、お、お嬢様、もう三周も屋敷の周りを…。」
さらに筋トレ、体幹。
「も、もうダメ~」
「次は受け身の練習よ。」
「少し休憩を~。」
「フラン!本気で騎士団に入りたいなら弱音なんかはいてはだめよ!」
「はい!」
『お嬢さまのトレーニングがこんなハードだとは~』
初めのころはついていくのが精一杯だった。
しばらくすると…
乱取り。「相手の重心を崩すの!」バチバチ足が当たる。
投げ!ドスン!
そのまま仰向けで動けなくなるフラン。
「受け身うまくなったわね。フラン。」
「始めたころに比べれば何とか…」
「あの、お嬢様はなんでそんなにお強いんですか?」
「えっ?」
「今までそんなに運動されていなかったと思うんですが…」
『まさか前世で金メダリストだったなんて言えないし…』
「ジュウドウを東洋の本で知って、ダイエットのために始めたの。才能があったのね、きっと。」
「俺なんかよりお嬢様のほうが騎士になれそうですね。」
「それ、いいかもね」
『考えてなかったけど、もし生き残れたらおもしろいかも!』
「あーでも、女性騎士って聞いた事ないな~。」
「女性騎士第1号カッコイイわね!ありがとうフラン。夢ができたわ!」
「じゃ、もう一本!」
「はいいいい~」フラフラ立ち上がる『余計なこと言っちゃった~』
クロエになって2ヶ月。さすがにこの頃になると、私の変化にみんなが気付き始めたようで…
教室。「クロエ様」
「はい。」
『同じクラスの…?誰だっけ?』
「もしよろしかったら、お一人で我が家のお茶会に参加していただけませんか?」
「私一人で?」
「申し訳ありません。いつアリア様からの呼び出しがあるかもしれないので…」
「そうですか、残念です。」
『ホントはトレーニングしたいからなんだけど…はじめてアリア様が役に立ったわ!』
「でも、どうして私一人なんですか?」
「じ、じつは、兄がクロエ様とお話をしてみたいと申しておりまして…」
「はあ?」
「私ももちろん興味あるんですの!急にお瘦せになられて。」
「やっぱり恋ですの?」「おあいては?」
いつの間にか人だかりが。あたふたしていると・・・
「何の騒ぎかしら?」
「アリア様」サーと人の輪がほどけてゆく。
チラッとクロエを一瞥するが何も言わないアリア。
ジュリエッタが耳元で「あまり目立つとアリア様の逆鱗に触れてしまいますわよ!」
エミリー「お気をつけあそばせ!」
『そういわれてもな~』