異世界で男をぶん投げるのは気持ちいい!
「一本」「それまで!」
「決まったー!見事な一本背負い!巴凪オール一本勝ちで金メダルです!」
大歓声の中、両手を突き上げる巴。そのままゆっくり倒れこむ。
「はっ?」
「私、どうしたの?」
「ベッド?あっ、病院…?」
あたりを見回すと、とても病院とは思えない豪華な部屋。
「?」自分の手を見てみると、ぷくぷくして柔らかそう…起き上がってベッドを降りる。
鏡の前に立つと、見知らぬ少女が・・・。
「こ、この顔。まさか!?」
「私、死んだんだ!そしてここは・・・乙女ゲーム『ビクトール王国物語』の世界。
私は悪役令嬢の取り巻きの一人、男爵令嬢クロエ・アランバートルだ!」
ゲームのパッケージ。イケメン王子、主人公、高笑いしている悪役令嬢の後ろに小さく描かれている三人娘の一人が私。
「と、いうことは・・・私、死ぬんだ!」
「ビクトール王国物語」は、平民出身の主人公が王立学園を舞台に王太子との身分の違いや婚約者の悪役令嬢のいやがらせに屈することなく、最後には恋を成就させるっていう一見ベッタベタなストーリーなんだけど、実は悪役令嬢の父親っていうのが裏ボスで、王位を狙って暗躍するダブルシナリオ形式。
誘拐、恐喝、暗殺。乙女ゲームとはかけ離れたドロドロ系。
「そこが好きだったんだけど・・・いまとなっては~」
「私の最期は、殿下の16歳の誕生日パーティー。悪役令嬢に婚約破棄を宣告する場面、事前に察知した悪役令嬢の父親が殿下の暗殺を企て・・・それを私が身を挺して守って、死ぬ!」
矢が刺さって死んでいるイメージ!
「ひぃいいいいい!死にたくなあ~い!」
部屋の中にカレンダーを発見。
「たしか、殿下の誕生日は10月。あと、半年、か・・・。」
改めて自分の身体を確認してみる。
栗色の髪、栗色の瞳、身長150センチ体重はおそらく80キロありそう。
「これじゃあどうしようもない・・・。」
「よおおし、鍛えてみせましょう!この身体!生き残ってやる!」
「とりあえず、現状確認。」
腕立て「うぬぬぬぬ~」0回。腹筋「おぐうう~」0回。スクワット2回。
「これは・・・先が思いやられるわ。でも、やるしかない!」
「絶対シナリオ先に行くんだ!」
アランバートル家屋敷。流石は貴族、三階建ての立派な建物。
さらに広大な敷地、庭園。使用人も20人ほど雇っている。
家族構成は父、母、8歳になる双子の弟、そしてクロエの5人。
「まさにあのゲームの世界だわ~」
夕食の時間。
「姉様、ごきげんよう!」
「ごきげんよう!ジル、ベル」
『ああ、可愛い!私に宝物。これは・・・クロエの感情かしら。』
「ごきげんよう。お父様、お母様。」
ちょっと頼りなさげで小太りの父。
クロエと同じ髪色でこちらも小太りの母。
「ごきげんようクロエ」
食卓。『私の分だけ超大盛り!』
サラダと、鶏肉、スープを残して「あとは下げて頂戴。」
「えええええええ~!」
「ど、どこか悪いの~クロエ?」「い、医者を呼べー!」「姉様、死なないで~」
「エホン。私、王太子殿下の誕生日パーティーまでに痩せることにしましたの!」
一同「・・・・・・・。」
「そうか、まあ、がんばりなさい。」
夕食後部屋に戻るクロエ。
『そうか、がんばりなさい。じゃ、ないわよ!
元はと言えばお父様が悪玉公爵の配下になったから苦労する羽目になったんじゃないの!
暗殺に関わることだってなかったし、悪役令嬢の取り巻きなんてやりたくなかったの!』
「お、抑えて、クロエ…。」クロエの感情が湧き出してくる。
『でも、お父様は責められないわ。今の生活を維持するためには公爵の配下になるしかなかったんだもの。
だからお父様の力は借りられないし、私が公爵の企みに気付いていることも知られてもいけない。』
『うまく立ち回らないと、すべて失ってしまうかも…。』
取り巻きの朝は早い。
陽が昇る前から準備をはじめ、朝日とともに迎えの馬車に乗り込む。
「お早うございます。ジュリエッタ様エミリー様。」
「「お早うございます。クロエ様。」」
ジュリエッタ・サンタクルズ男爵令嬢
スラっとした美人。濃緑の髪に緑の瞳。お嬢様より背が高いのだが、「私を見下すとはどいいうつもりかしら?」と、言われてから背を丸めて生活している。せっかくの美人が台無し。
エミリー・モーガン男爵令嬢
中肉中背。胸デカし。元々金髪碧眼なのだが金髪がお嬢様と被るということで茶髪に染めさせられている。前のほうが可愛らしかったのに、台無し。
お嬢様をお迎えに行くまでのたわいもない会話が唯一ホッとできる時間。
公爵家に到着すると、開口一番「アリア様、今日もなんてお美しいのでしょう!」から始まり歯の浮くようなセリフのオンパレード!
アリア・デ・アクシミリア王国筆頭公爵令嬢
金髪碧眼の美少女。黙っていれば人形のごとく美しい。が、傲慢で嫉妬深く自意識過剰。絵に描いたような悪役令嬢。王太子殿下の婚約者。
「行ってまいります、お父様。」
「うむ。」
ゾディアック・デ・アクシミリア公爵
王国を我が物にせんと暗躍するこの物語の真の悪役。オールバックの髪と口髭が特徴的。
王立学園。14歳から17歳の貴族の子女、および優秀と認められた平民の子が通う学園。
学園に到着するするや否や私たちはダッシュで王太子殿下のお姿を探す。
見つけ次第ご報告。
「お早うございます。私の殿下!」腕に絡みつくアリア。
「やあ…お早うアリア。」
毎度のことながらおかわいそうな殿下。
ジュノー・デ・オ・ビクトリアム王太子殿下
ビクトール王国第一王子。金髪碧眼のイケメン。女子生徒の憧れの的。アリアと婚約中だが主人公レオナに心惹かれている。
授業中も気が抜けない。公爵令嬢が問題に解答できなかったり、宿題を忘れるなど絶対にあってはならないこと。3人で完璧なフォロー。
ランチタイムにはアリア様のお気に入りの場所をいち早く確保。
『おっと、本日は王太子殿下、主人公レオナ様、攻略対象の騎士団長のご子息ビジャ様、宰相のご子息バレイン様御一行が中庭でお食事中。お嬢様がご機嫌を損ねないように死角になる席を用意しないと。』
主人公レオナ・ノードクイスト。平民。
平民ながら成績優秀特待生として王立学園に入学。
黒髪、黒目。愛らしい笑顔、慈愛に満ちた心根。芯の強さを併せ持つ完全無欠の美少女。
殿下の護衛兼学友。ビジャ・サーディアン。攻略対象の1人。
金髪緑色の瞳。背は高くがっちり体型。武骨で無口。
バレイン・デ・ステラ。学園一の秀才。攻略対象の1人。
紫色の髪を肩まで伸ばしている。瞳は紺。スラっとしたイケメン。少し影がある。