後日談その10 沖縄旅行 その3
那覇空港から高速バスでおよそ二時間。
沖縄高速道路最北端の許田ICを出て少し進むと、名護市に到着する。
全国的にはさほど有名ではない場所なのだが、沖縄県の中北部では一番に発展している地域である。
この地域は、なんといっても海が綺麗だ。中北部も悪くはないのだが、沖縄本島で海遊びをしたいのであれば北部付近がオススメである。整備されたビーチも多く、加えて宿泊施設も豊富なので、快適なひとときが過ごせるだろう。
沖縄県内でこれ以上に海が綺麗な場所となると、離島くらいしかない。宮古島や八重山島は有名だろうが、あのあたりへの移動は沖縄本島から更に飛行機や船を乗り継がないといけない。ただ、海も自然も沖縄本島より豊かなのでぜひともオススメしたいところだ。
と、いう観光情報はさておき。
幸太郎としほは高速バスを降りて、周辺をゆっくりと歩いていた。
時刻は十三時を過ぎている。旅行ということで慌ただしくしていたこともあり、朝食からかなり時間が空いていた。
「うーん……しぃちゃん、このあたりに沖縄そばのお店はなさそうだなぁ」
「じゃあ、ごーやーちゃんぷるーは?」
「えっと……もう少し移動すればあるのかな? 歩くとここから三十分くらいかかるから、タクシーで移動することになりそうだけど」
「えー。もうお腹ぺこぺこだわ……動きたくないぺこ~」
幸太郎は周辺のお店をスマホで調べているが、なかなか苦労していた。もう少し先に進めば、ショッピングモールなどもあるのだが……しほはすぐの食事を所望である。
「あ、でもすぐそこに沖縄県にしかないファーストフード店があるらしいよ。エンダーって呼ばれてるお店らしいけど」
「あ、知ってる! ルートビアーってやつでしょう!?」
近場で探してみたところ、どうやら気になるお店が見つかったらしい。
そういうわけで、二人はそのファーストフード店に向かった。
「海がすぐそこにあって綺麗だけど、やっぱり暑いわ……アイスクリームみたいに溶けちゃいそうね」
「あ。エンダーの隣に沖縄限定のアイスクリーム屋さんもあるらしいよ」
「行く! デザートはそこで決まりだわっ」
名護市世冨慶。高速道路のインターチェンジを過ぎてしばらく進むと到着するこの地域は、入口付近に沖縄限定のお店が二つも並んでいる。美ら海水族館のある本部町や綺麗なビーチの多い古宇利島はここから更に北に移動する必要があるので、休憩の際はぜひともオススメな場所である。
「店内で食べる? 中はクーラーも効いてて涼しそうだけど」
「うーん……暑いけど、せっかく海もあるし外で食べましょうっ。ベンチもいっぱいあるし、ちょうどいいわっ」
そんな会話を交わした後、二人はファーストフード店でハンバーガーとのポテト、それから飲み物を購入。幸太郎は水を、しほは先ほど言っていた通り『ルートビアー』という黒い炭酸飲料をテイクアウトした。
それから、すぐそこの海際にあるベンチに座ると、
「いただきまーす!」
早速しほが飲み物に口を付けた。見た目はコーラにも似ている飲み物なのだが……その味をたとえるなら、多くの人はこういうだろう。
「けほっ。けほっ……し、湿布の匂いがする!?」
せき込みながら、彼女は飲み物を涙目で見つめていた。
そうなのだ。このルートビアーという飲み物、湿布でも使用されている原材料が使われていると言うこともあって、湿布のような匂いがする。
味はキャラメルのような甘さと強い炭酸の刺激が妙にクセになるというか、好き嫌いが分かれるものの、好きな人は大好きになりやすい傾向がある。
「大丈夫? 俺の水と交換しようか?」
「いえ……でも、なんだか美味しい気がするわっ。匂いに慣れちゃえばたぶん大丈夫っ」
しほは意外と『あり』みたいだ。好き嫌いがないよう食育されたおかげか、彼女はどんな食べ物でも美味しくいただける才能があるようだ。
「それに、幸太郎くんは甘いもの苦手でしょう? たぶん、苦手な味だと思うわ」
「どうだろう? 一口だけもらってみてもいい?」
「ええ。どうぞ!」
そして、幸太郎はしほの飲んだストローにためらいなく口を付けて、ルートビアーを飲んだ。
無意識の間接キス。しかし、それに照れる時期はもう過ぎているようで。
「……あ、やっぱりダメかも」
「うふふ♪ おこちゃまの幸太郎くんにはまだ早かったようね」
「おこちゃま……なのかなぁ?」
眩しい太陽の下。青い海を眺めながら、二人は仲良く雑談を続けるのだった――。
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