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五百七十話 おかしい

 どうやら夕食は三人が作ってくれるみたいだ。

 もう目が覚めたし、別に俺が作ってもいいんだけど……せっかくの好意なので、無視はしたくない。


 ここは彼女たちの優しさに甘えようかな。


「中山、暇だったらうちのクソメイドを探してきてくれない? 連絡がつかないのよ……近辺で構わないから、見つかったら声をかけてくれると嬉しいわ」


 と、いう胡桃沢さんのお願いを聞き入れて、俺は外に出ることにする。

 手持無沙汰だったのでもちろんと頷いた。あと、彼女たちの料理を見守っていると、手際がたどたどしくてハラハラするので、ちょうど良い。


 食材を切るシーンまでは見届けたので、後の工程に危険はないだろう。そう判断して、メアリーさんを探しに出た。


 外はもう暗くなりかけている。

 夕日も沈みかけていて、空は薄暗い色で覆われていた。これから真っ暗になって、綺麗な星や月が見えるようになるだろう。


 昨夜みたいに、静かに夜景を眺めることができると素敵だと思う。

 でも、今日はビーチにたくさんの人が残っていて、少し賑やかだった。


 いたるところでバーベキューが行われている。テントも設営されている上に、花火をしてる人たちもいた。


 なるほど……せっかくのビーチなので、今日もバーベキューをして良かったはずだけど、どうしてしぃちゃんたちがカレーを作っていたのか理由が分かった。人がたくさんいるから外だと落ち着かないのだろう。


 さて、メアリーさんはいるだろうか?

 今日はまだ一度も見かけていない。彼女はどこで何をしているのか気になる。


 まぁ、メアリーさんのことだ。

 何か意図があって姿を隠しているのだろう。彼女が俺に見つかろうとしていないのであれば、見つけられるわけがない。


 それくらい、メアリーさんと俺の間には能力的な差がある。

 知力も、体力も、精神力も、すべてが俺の上位互換。それが、メアリーという少女だ。


 だから、彼女がいつの間にか俺の背後に立っていても、驚くことはなった。

 メアリーさんであれば、俺に気付かれずに接近するなんて、容易いことだから。


「ねぇ、コウタロウ? 何かがおかしいと思わないかい?」


 ペンションを出て、十分くらい経過しただろうか。

 海岸沿いを歩いてメアリーさんの姿を探していたが見つけられず、そろそろ引き返そうかと考えていたタイミングで、不意に肩を掴まれた。


 ちょうど人の視線がない場所である。恐らく、メアリーさんは俺が一人きりになるところを待っていたのだろう。


「……おかしいって、何が?」


「全てが、だよ」


 何の前置きもなく、メアリーさんは本題へと入る。

 いつもであれば、軽く俺をからかったり、小難しい話をして動揺させようとするくせに、珍しく単刀直入だ。


 つまり、今の彼女には……その余裕がないのだろう。


「プロット通りになっていない」


 その声は、メアリーさんにしてはあまりにも弱々しくて……一瞬、彼女が本当にメアリーさんなのか、疑った。


 それくらい、らしくない声音だった。

 ゆっくりと振り向いてみると……背後には、金髪のメイドさんがいた。うん、やっぱり彼女は、メアリーさんだ。


「物語が、おかしいんだ」


 しかし、声はなおも震えていて。

 その表情はどこか、泣きそうにも見えた――。


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